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◎二年目、六月の章

■真鈴はやたら久遠のことを聞く

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 朝食を食べながら真鈴はやたら久遠に質問をしていた。

「ねえ、久遠くんはどのあたりから来たの?」

「関西の田舎ですよ」

「海は見える?」

「海は……遠いですね。まわりは山ばっかりで」

「そっか。私の実家は東北のほうでね。海が近くなんだ」

 聞いたのは主に出身地の話だ。久遠のことを聞き出しつつ、受け答えに自分のことを織り交ぜていく。

 彼のことが知りたかったし、自分のことも知って欲しい。なので自然とこういう内容の会話になった。

「料理できるなんてすごいね」

「ご飯とみそ汁はできあいです。僕は目玉焼きとベーコンを焼いただけです」

「でもさ。キッチンで調理する姿なんてなんて私の親すらなかったよ」

 今どきは料理する人間の方が珍しいのだ。だから真鈴は驚いたのだ。

「やってみると案外楽しいですけどね」

 久遠はさも当たり前とばかり涼しい顔をしている。生意気だなと思うと真鈴は身を乗りだして久遠の頬をつねる。

「君、友達いないでしょ」

「いたひれす」

「鼻につく言い方やめたほうかいいと思うなぁ」

 真鈴は言い終えるとパッと手を離して席に戻る。

「そうですか?」

「見下されて気分がいい人はいないんじゃない」

 本人にそんなつもりはないんだろうとは思うが、それはそれで問題がある。

「……気をつけます」

「素直なのはいいことだよ」

 うんうんと真鈴は頷く。すると久遠はまじまじと見つめてくる。

「どしたの?」

「……たまに少女の顔になりますよね」

 どういう意味だろうかと真鈴は首を捻る。自分ではおそらく自覚していない部分のことだろう。

「どゆこと?」

「可愛いって言ったんですよ」

 いつの間にか食事を食べ終えていた久遠は手を合わせると食器を持って立ちあがる。

 真鈴は頬が熱くなるのを感じる。どうしてだろうか? 四つくらいは年下の少年にここまで余裕がないというのは。

「言い方……」

 真鈴はつぶやきながら、まだ少し残っていたベーコンを口に入れる。

 それが朝食の終わりを表していた。
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