上 下
108 / 266
◎二年目、六月の章

■晴は久遠が見知らぬ女性と一緒にいるところを出くわす

しおりを挟む
 はるは思わずあくびをする。時間でいうと朝の十時前。昨晩から降る雨は止む素振りを見せない。

 さてどうしたものかとあたりに視線を送っていると、ふと見知った顔が目に留まる。

「よう。家出少年」

 そこにいたのは久遠だった。しかし、先に声を発したのはとなりにいる女性の方だった。

「久遠くん、知り合い?」

 女性は差した傘を少しあげて、晴の方を見てくる。

 身長は晴より一〇センチほど高い。ということは一七〇センチくらいあるということだ。

 久遠と女性が並んで歩いていれば姉弟に思われたことだろう。

「はい。同じ寮の先輩です」

「そっか」

 女性は晴に対してあまり感心のなさそうな返答を返す。

 代わりに久遠に対して送られる熱い視線。その温度差がすごい。

 晴にはこの反応に心当たりがある。

 要するに惚れた男の知り合いに出会うという新たな一面を垣間見て喜んでるのだ。

 恋する瞳というヤツだ。

 その表情ときたら本当にあどけない少女という感じで、大人っぽい風貌とのギャップが合わさって、晴ですらドギマギしてしまうほどだった。

 加えて高身長で骨が詰まっているといえばいいだろうか。肉付きもよくて、外見から発せられる健康美はまぶしいほどだ。

 整った目鼻立ちにぱっちりした二重まぶたの瞳。

 知り合いであれば、ぜひ誰かに自慢してやりたくなる女性だろう。

「私、かなり時間かかると思うから。近くで時間を潰しててよ。終わったら連絡入れるから」

 そう言うなり女性は店の中へ入っていく。何の店かと気になって看板を見あげるとそこは美容室であった。

 晴はゆるりとした動作で久遠の肩をつかむ。

「そこのカフェで話しようぜ。もちろんおごってやるからよ」
 
 面白い話が聞けるならこれくらい安いものだと晴はにんまりと笑みを浮かべるのであった。
しおりを挟む

処理中です...