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◎二年目、六月の章

■晴は久遠から聞きだそうとする

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「もう少ししたらランチタイムだろ。飲み物くらいにしとけよな」

 一応これからデートだろと気を遣っての発言だった。

「それはもちろん……」

 久遠はちらりと晴に視線を向けながら、聞こうかどうか迷うような素振りを見せる。

里奈りなのことなら気にするな。フォローはしとくからよ」

 実は久遠と里奈は絶賛ケンカ中だった。理由は些細なことだったが、最終的に久遠が寮を飛び出して現在いまに至る。

 その対応に里奈はさすがにショックを受けたようで、いまは激しく落ちこんでいた。

(美人のお姉さんと一緒にいるっていうのは伏せとく方がいいだろうな)

 それを聞いて怒るのなら問題ないが、泣かられると大変である。とりあえずいまは明里に来てもらいなだめてもらっていた。

 そうでなければ寮を抜けられる雰囲気ではなかったのだ。

「それであの美人どうしたよ?」

 あらゆる意味のこもった「どうした?」であった。

「真鈴さんのことなら出会ったのは昨日だよ。雨に濡れて着替えがないっていうから……」

 久遠が宿泊しているところへ連れて行き、シャワーやらを貸したということだった。

「連れこんだってのか? てか、ついてきたのか!?」

 晴は思わず身を乗りだす。この世にちょっと親切しただけで見知らぬ男についてきてくれる女性がいることに驚きである。

 正直、ちょっとだけうらやましかった。

「それで一晩を一つ屋根の下と?」

 久遠は神妙にコクリと頷く。何かあったなと察する晴はもう少し下世話になっておくかと決めた。

「まさか、何もなかったなんてことはないよな?」

「なかったよ」

 即答だった。眉一つ動かさないポーカーフェイス。

 ――いや、それバレバレじゃねえか。

 こいつも可愛いところがあるなと晴は思ってしまう。

「それで真鈴さんだっけか。黙っておく方がいいよな?」

 久遠は黙ったまま頷くのだった。
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