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◎二年目、六月の章

■晴と久遠の話はまだ続く

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「あの真鈴さんて何期生だ?」

 雰囲気はかなり年上の方だろう。

「七月五日生まれの七期生って言ってた」

「そうか……」

 それは一八歳の誕生日とともに行われる強制アンインストールの時期が迫っていることを示していた。

「せっかく知り合ったってのに残念だよなぁ」

 美人の知り合いなんていくらいても困らないだろう。

「僕は昨日から振りまわされっぱなしだよ」

 久遠は深々とため息をつく。

「寮にいても里奈に振りまわされるだろ」

 たまには別の女性の相手というのもいいではないかと晴は思う。

「うん。いやってワケじゃないんだ」

 おやおやと晴は思う。果たしてそれはどちらのことなのやら――。

「私を差し置いて別の女の子の話?」

 突然、晴の後ろから女性の声。振り返るとそこにいたのは真鈴であった。

 しかし雰囲気が違う。それも当然で髪をロングからショートにしていた。

 しかしまあ、それもまた似合うのだから文句のつけようもなかった。晴も思わず見惚れるほどにである。

「里奈ちゃんっての話、もう少し聞かせてほしいな」

 久遠の隣を押し入るようにして座る。そうすることで密着度なんかもあがる。

 少しスペースを空けようとした久遠の服をつかんで密着する状態に留まらせようとするあたりが強かである。

「俺たち同じクランなんですよ。里奈はそのクランのリーダー。久遠は立ちあげのときからのメンバーなんですよ」

 それ以上の話はお前から言えよと晴は久遠に視線で合図を送ると、露骨に嫌そうな顔をする。

「ま、いいけどね」

 それ以上の説明を避けたことに何かを察したということか。流し目で晴と久遠を交互に見ている。

「さあて。俺はそろそろ行こうかね。まあ、三日くらいはぶらぶらしてろよ。それまでには何とかしといてやるからよ」

「うん。ありがとう」

 晴は立ちあがる。

「それと宿泊しているところの情報くらいは送ってこいよ。せめてにはな」

 それだけ言って晴は勘定をして外に出る。

 外は相変わらずの雨だ。

「ま、頑張れよ」

 決して届かないエールを晴は久遠に送り、傘を差して寮へ帰っていくのだった。
 
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