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◎二年目、六月の章

■プリズム・タワーと少女の夢

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 プリズム・タワー。

 プロジェクションマッピングとAR拡張現実機能の合わせ技によってをビル内に顕現けんげんさせた遊園地の名称である。

 真鈴はぽかんと口を開けていた。

 何の変哲もない無機質なビルの屋内へ一歩入れば、そこは幻想世界があたかも現実に現れたようだった。

「日によって内装が変わるそうですよ」

 今日は和のテイストということらしい。

「こんなところがあったんだ……」

 真鈴は目を何度も瞬かせる。その度に世界が色彩を弾けさせて鮮やかにさせる。

 しかも遊園地には真鈴と久遠以外の来園者はいないらしい。実質、貸切状態である。

 しかも室内なので天候に左右されることもない。誰もいないのが不思議なくらいだ。

「みんな知らないんですよ。東京迷宮に夢中なんです」

「私は東京迷宮が大嫌い。あんなので遊んで楽しんでる人の気が知れないもの」

 だったらいまだに東京にいるのはどうしてか。嫌になったらさっさと出ればよかった。

 にも関わらず、六年をここで過ごしてしまった。

「僕は東京迷宮がなければ、いまの僕はなかったと思います。それでも、ですか?」

 すべてを否定できないから、ここにいるのではないのか? そんな風に問われているような気がした。

(ここにきたことを選択した自分を否定したくないってこと?)

 だとすれば、あまりに馬鹿げている。

「……君はどこまでも意地悪だね」

 真鈴は一歩ずつを踏みしめるように進んでいく。

 その先には久遠がいる。

 顔つきは悪くはないと思うけど、そんなにもよくない。

 自分より背が低くて、年下の生意気な男の子。

 でも、不思議と一緒にいてくれると頼りになって、安心できて、甘えたくなる。

 真鈴は久遠の頬に軽くキスをして、その手をつかむ。

「さ、行こ」
 
 真鈴は久遠の手を握って離したくなかった。

 これは果たして現実なのだろうか。

 夢ではないだろうか。

 後者であるならばどうか醒めないでと真鈴は祈るのであった。
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