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◎二年目、六月の章

■山入端圭都は待っていた

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 インターホンが鳴るとドアを開ける。そこには身なりを整えた少年がいた。

 対する自分はTシャツを一枚着ているだけだ。他は下着を着けているだけ。しかもだぼついているせいで、右肩は露出している。

「……待ってたよ」

 気怠げな印象を持たれたかもしれないが、意識的にやっているわけではない。普段からこうなのだ。

「君が山入端圭都さん?」

「そ。君が古輪久遠だよね。乃々子さんから聞いたよ」

 時計は夜の八時をまわっている。久遠自体は夕方に来ていたと聞いていたが、時間は随分と経つ。

「乃々子さん、香水きついからしっかりとっときなよ」

 久遠は「え?」となって、自分の臭いを嗅ぎだす。

 何があったかを聞くのは野暮だろう。なかなか抜け目のないひとだと思う。

 それから会話を一旦打ち切って、久遠を部屋の中に招き入れる。

「あと、乃々子さんから伝言。『またきてほしいな』だってさ」

「……僕はどう答えたらいいんだい?」

「んー、こういうのは営業トークだから。君が乃々子さんを気に入ったらでいいよ」

 こんなことを言うべきではないのかもしれないが、久遠の前だとつい口が滑ってしまうような感覚である。

「でも、伝言残してきたんだから君のこと気にいったんだとは思うよ」

 実際その通りだし、誰にでも適応されるわけではない。なので残念がることもないだろう。

「僕も乃々子さんに悪い印象はなかったな。好きか嫌いかでいうと好きな方だと思う」

 どういう言いまわしなのだと圭都は呆れるが、その表情は果たして伝わったろうか。

「とりあえず好意は受けとったと伝えておくよ」

「任せた」

 久遠は肩をすくめる。どうやら言葉選びに苦慮した結果、ああいう言いまわしになったということのようだ。

「立ち話もなんだからベッドににでも座りなよ。疲れたろ?」

「まあね」

 久遠は遠慮なくとベッドに腰かける。

「夕飯はまだ?」

「おかげさまで食べ損ねたよ」

 それもそうかと圭都はクスリと笑う。

「実は私もこれからなんだ。ついででよければ、ごちそうしてあげるよ」

「それじゃあ、いただこうかな」

「ん」とだけ圭都は答えると、冷凍庫からチャーハンと餃子を取りだす。

「あ、ニンニク入ってるけど気になるほう?」

 特に他意はなかったつもりだが、「あ、いや」と困った表情で答える久遠が何だかおかしかった。



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