デジタル・リボルト~ディストピアからへの英雄譚~

あかつきp dash

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◎二年目、八月の章

■頼まれなくても、彼らはやってくる

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 頼果はプールからあがるとやけにお腹が空いていることに気がつく。

 時計を見ればもうお昼時である。

 室内プールは体育館の裏側に位置するところにあり、体育館は校舎と渡り廊下で繋がっている。

 その渡り廊下からはグラウンドが見渡せるようになっていた。

 頼果は校門の方から向かってくる黒い点の存在に気がつく。

 目を凝らしてみて存在をよく確認しようとする。

「うおー! 蔵脇ーっ!」

 頼果はその男の野太い声を聞いて、思わずため息を漏らす。

「知り合いかい?」

 久遠が聞いてくる。

「……一応ね」

 認めたくはないが、というニュアンスがありありと窺える。

「急にいなくなったら心配するじゃねぇかよ」

 いわゆる学ラン姿で眉毛がやけに濃い男である。

 しかも肩幅は広く、身長も久遠の頭二つ分は大きい。

「ごめんなさい。落ち着いたら、そのうち連絡を取るつもりだったのよ」

 もっとも連絡先など聞きもしてなかったが。頼果は内心舌打ちする。

 久遠はそんな頼果を見透かしたように呆れた表情を浮かべている。

秋影あきかげ先輩はどうしてここが?」

「蔵脇に似た姿の女がこの建物に入っていったって情報をもらってな」

 なるほど。そういえば服装は昨日まま。身長のせいでただでさえ目立つというのに迂闊だったと頼果は自省する。

「秋影先輩のおかげであのクランから抜けられました。とても感謝しています」

 頼果は秋影に向かって深々とお辞儀をする。何というかその所作には気品のようなものが感じられた。

「お、おう。当然のことをしたまでだ」

 秋影からは下心がありありと伝わってくる。そういう意味では善意とかいうものをかざしてくる久遠などよりわかりやすいとも言えた。

 だからこそ善意とは利用しやすいとも言える。

「じゃあ積もる話もあるようだから、僕はこれで」

 何かを察した久遠はこの場を急ぎ立ち去ろうとするが、そうはいかない。

 頼果は秋影に見せつけるように久遠の腕に半ば強引に腕を絡ませる。

「なんだ、こいつは?」

 その行為に秋影は露骨に嫌悪感を見せる。

「実は私、彼とつき合っているんです」

 最初の数秒間はあたりの時間が完全に止まった。

 かと思えば、秋影は急に叫びだす。

 それから目に涙を滲ませながら久遠に殴りかかってくる。

 久遠の左腕は頼果ががっちり掴んでいるせいですぐには動けない。

 秋影の筋肉隆々は常日頃から鍛えているのが外から見てもよくわかる。

 こんな拳で殴られれば一溜まりもないだろう。

 しかし久遠はまったく動じた様子はなく、拳を右手で眉一つ動かさずに受け止めてしまう。

 かなりの拳速だったはずで、威力も相当だと思えた。にも関わらずである。

「……この野郎!」

 秋影の掴まれた拳はまるで動かない。対して久遠は涼しい顔をしたまま秋影の拳を掴んでいる。

「離しやがれっ……!」

「いいですよ」

 そう言って久遠は自分の腕を少し引きながら秋影の拳から手を離す。

 すると秋影はバランスを崩して前のめりになった。

「殴りかかってきたのはそっちですからね」

 久遠は秋影の下がってきたおでこにめがけてデコピンをする。

 なのに秋影は仰向けに倒れて手足をピクピク痙攣けいれんさせている。

 ――気絶している。と頼果は絶句する。

「これはいったい何なんだい?」

 それは自分のセリフだと言ってやりたかった。

 いったい何者なのだ、この少年は。

「答える気がないなら、質問を変えるよ。頼果は僕にひどいことをしようとしたよね?」

 久遠が圧力をかけてくる。久遠の腕を掴んでいるのはこちらで離そうと思えばいつでも離せる。

 いますぐにでも逃げだしたい気分だ。にも関わらず腕が離れない。

「せっかくだ。君が何に困っているのか

 久遠が右手を優しく頼果の腕に置く。だが、それは頼果にとって手錠であった。
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