上 下
176 / 266
◎二年目、八月の章

■蒼い空を見上げて

しおりを挟む
 東方旅団の勝利と表示された途端に、頼果はグラウンドに体を投げだして寝転んだ。

 全身汗だくで喉もカラカラだ。なのに不思議と笑いが込みあげてくる。

「大丈夫なの?」

 里奈が顔を覗きこんでくる。

 頼果は両目を覆っていた右腕を少し下へとずらす。

「泣いてるの?」

 里奈が心配そうに右腕を差しだしてくる。

 それを頼果は掴んで、引きずりこむ。すると里奈はバランスを崩して頼果の胸に飛びこむことになる。

「何するのよ、バカ女!」

 里奈は起きあがって怒鳴りこむ。体勢的に里奈が押し倒したようになってしまっている。

 しかし、頼果もこんなバカみたいなことをしてしまった理由が思い浮かばなかった。

 本当に自分はバカなのかもしれない。

「こういうの悪くなかったろ?」

 里奈が頼果から体をどけるともう一本の手が差しだされる。

 あの小憎らしい少年の腕だ。今度も里奈と同様に転かしてやろうと思って引っ張ろうとするも、逆に引っ張りあげられてしまう。

 ――お前のそういうところだぞ。と、頼果は言ってやりたくなる。

 自分より身長も低いくせに。久遠は自分を常に裏切ってくる。

「とりあえず、お疲れさま」

 久遠は優しく微笑みをを浮かべている。

「ホントよ。シャワー浴びたい……」

 頼果はため息をつく。グラウンドに寝転んだせいで泥だらけになってしまった。

「里奈ちゃーん! みんなー」

 校舎の方から由芽が――他の面々が走り寄ってくる。

「久遠先輩、やっぱりスゴいです!」

 伊織が目を輝かせながら久遠の両手を握る。

「ははは……」

 久遠は渇いた笑いを浮かべる。

「話をしているところ失礼。君がこのクランのリーダーかな?」

 水呉が久遠に訊ねる。すると久遠は首を横に振って、こう答える。

「僕はリーダーではありません。彼女です」

 久遠は視線で里奈を指す。水呉は少し驚いたようである。

 里奈も面倒ごとが降りかかってくることを理解したのか露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

「君もなかなか抜け目がないようだな」

「何のことです?」

 水呉はふっと意味ありげな笑みを浮かべると、久遠はとぼけてくる。

「少し話がしたい。いいかな?」

 水呉は里奈に問うた。

「いいですよ」

「待ちな。俺も混ぜろ」

 克馬である。話に暁の団まで加わろうとしていた。

 こうして話は少しずつ大きくなっていくのである。
しおりを挟む

処理中です...