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◎二年目、九月の章

■久遠たちも動きだす

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 夜道を月明かりと幾ばくかの外灯があたりを照らす。

「久遠くんも人が悪いわよね」

 頼果がぼやく。

「口で言っても納得しなさそうだったからね」

 それはそうかもしれないが、それでも意地が悪いとは思ってしまう。

「懸念したとおり強制ログインゾーンだったらどうするの?」

 里奈の問いに久遠はさらりと答える。

「正直、守りきる自信はないかな。その場合は早めに合流しよう」

 そもそもどんな魔物がいるのかわからないのだから久遠もそう答えるしかないのだ。

「日中になったら魔物の種類が変わるのかも含めて検証したかったけど」

 それは適わなくなったなと久遠は言う。

「あのー、素朴な疑問なんだけど。たとえば私たちのいる寮でログインしても魔物はでないじゃない。ということは建物内に魔物はいないって考えることはできないかな?」

 つまりこれから行く寮にも魔物はいないのではないかと由芽は思ったのだ。

「実はあの寮で少しだけログインしたんだよ」

 それは一分にも満たない時間であったと久遠は言う。

「どうだったの?」

 里奈の質問に久遠は答える。

「蛇型の魔物がいた」

 特にそれ以外の魔物は見かけなかったと久遠は言う。いや、それよりも建物に魔物がいるということだ。

「何で出るところと出ないところがあるの?」

 圭都の素朴な疑問に答えられる人間はいない。

「リリースされて一〇年も経っているのにどうしてこんなに謎が多いんだろ?」

 由芽の疑問もまたごもっともだと言える。

「晴は何も悪くないよ」

 久遠が声をかける。それが晴が少し難しい顔をしている理由を察してのことなのかはわからない。

「そうは言うけどな……」

 晴は頭を掻く。

 晴の発言は結果手的に蘭々を焚きつける形になってしまった。

「言い方かね。やっぱり」

「あの場で具体的に提案したのは晴だけだったでしょ。誰かしらから不満は出たと思うわよ」

 里奈がフォローする。

「よせよ。里奈に一瞬だけ惚れそうになっただろ」

 晴の顔が少し緩んだ。嬉しかったようだ。

「そういうところなんだけどね……」

 里奈は肩をすくめる。

「とりあえず急ぎましょ。年長の威厳とやらをここで見せておかないとね」

 頼果は右目をパチリとさせる。これについて異存はないのか一同は頷いた。



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