上 下
204 / 266
◎二年目、九月の章

■彼女たちの事情

しおりを挟む
 とあるファミレス。

 里奈の前にはばつの悪そうな表情の蘭々と伊織がいる。

「聞きたかったんだけど、蘭々はどうして二人を焚きつけたの?」

 里奈に聞かれて蘭々はきっぱりと答える。

「晴先輩に半人前扱いを受けたからです。私たちはたしかにここにきたばかりですけど、少しでも早く認めてもらいたかったから」

 すると里奈はう~んと唸りながら答えを考えはじめる。

「でも、今回のことでいろいろわかった?」

 蘭々は黙ったまま頷く。

「私、東方旅団は久遠先輩だけがスゴいんだって思ってました、正直」

「コイツ、締めていい?」

 頼果が蘭々を指さしながら立ちあがろうとするのを由芽が抑える。ちょっとカチンきたらしい。

「ダメだって。悪気はないんだから」

「でも、前の戦いでわかりました。皆さんの連携がすごくよくて信頼しあえてるというか、仲間って感じがすごくて。私も東方旅団で頑張りたいって思ったんです」

「これでも締めるつもり?」と里奈は頼果に視線を送ると、頼果は首を横にふって椅子に座った。

「ま、晴ってああいう奴なんだけど、兄貴分なところあるから、ちょっとお節介みたいになるのよね」

 これが里奈なりの晴への人物評だ。

「それで女好きでお調子者なんだけど、私はすごく頼りにしてる。明里さんが返せって言っても絶対に返さない」

 里奈は優しく蘭々を見つめる。

「それは蘭々や賢司も一緒だから。三人には東方旅団の仲間として、ちょっと頼りないかもしれない先輩とこれからもいてほしい。それでいい?」

 蘭々は何か胸のあたりが暖かくなるのを感じた。それは同時にむず痒くて恥ずかしい。

「ひょっとして晴に惚れた?」

 そこで頼果が冷水の言葉を浴びせられる。

「私、先輩をそんな風に見てません」

「気にはなってるんでしょ。子供扱いされて怒るってそういうことじゃない。まあ、東方旅団で男って言ったら久遠と晴と博文先輩くらいだからね」

 博文はもう一年しか残っていないが、何せ清潔感のある見た目とは言い難い。

 久遠はというと頼果は思わずため息をついてしまう。

「ま、女好きで言うなら久遠の右に出るヤツがいないわけだから、それに比べたら晴なんて可愛いもんよ」

「あはは」という頼果の渇いた笑い声。

「そういえば里奈先輩はどうして久遠先輩のあの放漫な女性関係を容認しているんですか?」 

 由芽が「このパフェおいしいよ」と圭都に話しかける。それを里奈は横目で見据える。

「容認していないわ。管理はしているけどね」

 里奈はにっこりと見事な満面の笑みを浮かべる。

 この笑みがどれほど恐ろしいものか蘭々はいつか知るときがくるのだろうか、あるいは一生こないのだろうか。

 だが、この笑みの意味を蘭々と伊織以外ははっきり理解しているようであった。






しおりを挟む

処理中です...