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◎二年目、十一月の章

■古巣のメンバーとの再会

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芦原あしはらくんだったのね」

 世里が部屋に入ると少年が一人。彼が芦原というのだろう。身なりを整えた優しそうな雰囲気である。

「長和さん、わざわざ俺に会いに?」

「出店のこと手こずってるって聞いたから。同期のよしみだし、話くらいならと思って」

 世里が机越しに座ると芦原はペンを走らせていた手を止める。

「あー、いやぁ、恥ずかしながらね。海老瀬えびせと対立しちゃって」

「どうしてまた?」

「長和さんがクランを抜けてから、じゃあ誰がやるのかって話になったんだよ。俺は海老瀬がいいんじゃないかって言ってたら」

「海老瀬さんは芦原くんを推していたと」

 海老瀬なら納得のいく話だと世里は頷く。もっとも世里からすれば痴話げんかのようにしか映らないのだが。

「そうなんだよ。出店で決着をつけようって話になってね」

「私が突然やめたこと海老瀬さんは何て言ってるの」

「突然だったから、ちょっと怒ってた」

「芦原くんは?」

「長和さんみたいな考え方もあるんだなって思ったよ。行き先がまさか話題の東方旅団だとは思わなかったけどね」

 久遠から提示された案に最初は驚いていた中島だったが、いまでは案外と楽しそうだという。

「班分けで揉めたのは芦原くんと海老瀬さんが絡んだせいなんだね」

「そんなところ。海老瀬にも言っておくよ。よかったらまた会ってやってくれるかい?」

 その言葉に世里はニンマリと笑みを浮かべる。

「な、何?」

「なんでもないわ」

 もう早くつき合ってしまえばいいのにと世里は思ってしまう。横から見ていても、もどかしい関係なのだ、この二人は。

「もう申請書はできたの?」

「ああ、あとは俺のサインだけだよ」

 申請書に芦原は自分の名前を書きこむ。

「私の方で預かっておくね」

「ありがとう。それにしても紙での申請なんて古風だよね」

「私もそう思ったけど、スキャンさせたらあとは終わりなの。だから案外と手間はかかんないのよ」

「へぇ、そうなんだ」

 久遠が導入した機械のおかげだった。

 昔からちょっと変わったところはあったが、再会したら輪をかけていた。

 それでも可愛い弟分には変わりない。

 しかし、まわりの女の子の態度がどうも引っかかるのだ。それに朝帰りをすることもあった。

 そういえば夜な夜な一人で街を徘徊しているとも聞く。

 何をやっているのか、聞いておかないとと思っていた。

「長和さん、楽しそうだね」

「そう?」

「いまの長和さんを見ていたら絶対に戻ってこないって確信するよ。君はきっとここにいるのがいいんだ」

 たしかに東方旅団のみんなは生き生きしている。自分もそれに当てられたのかもしれない。

「芦原くんは柚子騎兵隊で頑張るんでしょ」

「そうだね。海老瀬に認めてもらいたいからさ」

 そんなことを臆面もなく言える芦原の姿を頑張る海老瀬は果たして知っているのだろうかと思う。

 いや、きっと知らないだろう。それが世里は少しおかしく感じてしまうのだ。

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