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◎二年目、一二月の章

■玲美の気持ち

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 玲美が久遠を連れてやってきたのは大型のショッピングモールである。

「ここを中心にみんな近くのホテルに泊まってるワケか」

「そういうこと。ちなみに私、これでも稼ぎはいいほうよ。宿泊費は何とかしてあげる」

「それは嬉しいけど、いいの?」

「だって、学生寮って無料で食事も泊まるところも提供されるんでしょ。お金に困ってるんじゃないの?」

「んー。あんまり困ったことはないかなぁ。金銭感覚がおかしいみたいに言われることはあるけど」

 玲美は「あれ?」と首を傾げる。

「それこそいくらくらい持ってるの?」

「ごめん。これは秘密にしてるんだ。誰にも言わないことにしてるから」

 どういうことだ。

「それと東方旅団のみんなもそんなにお金に困ってないはずだよ。その証拠にクランイベントに参加してないわけだし」

 そう言えばそうだ。東方旅団はいつもランク外。つまりイベントに参加していない。

「どうやって稼いでいるの?」

「夜の魔物は強くなる分、ボーナスがあるんだよ。しかもそれが強制ログインゾーンの魔物ならさらにね」

 それが東方旅団の稼ぎ頭だという。

「なるほど。それで宿泊費は実質無料だからお金は貯まるわね」

「まあ、そんなところ」

「それがダサいって風潮はあるわよね」

「過去にやってきたことをいまさら曲げろなんて、それこそ横暴じゃないか。僕はその考えを尊重するよ」

 すると玲美はなんとも言えない表情になる。

「どうしたの?」

「なんかいやーな感じ。自分は何でも知ってることをわかってるから、他人をひたすら見下してる感じ」

「里奈にも似たようなことを言われた気がするなぁ」

 ――気をつけるよ。そう言おうとしたが、玲美がブスッとしている。

「どうしたの?」

「別になんでもない」

 里奈の名前を出された上に同列にされたのが不服であった。だが、それを口には絶対に出せなかった。

 里奈への嫉妬を認めてしまうことになるからだ。玲美は久遠を里奈には絶対に渡さないという覚悟であった。

 面倒くさい女だと思うなら思えばいい。感情ばかりはこればかりはどうしようもないことなのだから。



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