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1「あんなの住む世界が違い過ぎる。異文化交流だよ」
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また……だ。
俺が寝床についてしばらくすると、決まって聞こえてくる。
ギシギシとベッドが軋む音。
お隣さんは、今日も激しいらしい。
暗闇で、想像力を掻き立てられてる。
勘違いかもしれないけど、壁一枚しか隔てていないせいか、こちらにまで振動が伝わってくる気がした。
なんだか体が重くて熱い。
夢を見ているのかもしれない。
すごく卑猥な夢。
そんな中、あいかわらず、ベッドは軋み続ける。
シーツが擦れる音まで聞こえてきた。
これは、俺が出している音か。
頭がぼんやりして、理解が追いつかない。
とにかく、することは決まっていた。
右手を下肢に伸ばす。
そこがものすごく熱を持っていることに、触れてみて実感する。
「はぁ……」
どうにかしないと。
パジャマの中に手を突っ込んで、自分の昂りを撫であげていく。
欲しかった刺激を得られたそこは、一気に硬さを増した。
ここまできたらもう、後戻りできない。
まどろみの中、取り出したものを何度も何度も擦りあげる。
「んん……はぁ……はぁっ……んっ……」
気持ちいい。
気持ちいい。
手も腰も止まらない。
俺もまたベッドを軋ませながら、一人、ひそかに絶頂を味わうのだった。
「ねぇ君、ちょっといいかな」
あと5分ほどで4コマ目の講義が始まろうとしていたときのこと。
透き通った綺麗な男の声が俺の耳に入ってきた。
誰に話しかけているのか、きっと人見知りしないのだろう。
正直、羨ましい。
大学に入って2週間。
俺は、そんな風に声をかけたこともなければ、かけられたこともない。
その結果、いま左隣に座っている中学時代からの友人、誠以外、まともに話せる人がいない状態だ。
中高生の頃は、もっと気軽に声をかけられていたはずなのに。
コミュ力の高い人間は高い人間同士、華々しいキャンパスライフを満喫しているのだろう。
そういったものに憧れはしたものの、俺には無理だとすぐに悟った。
校則のない大学では、髪色や服装など、見た目の自由度が高校までとは全然違う。
あまり好きとは思えなかった校則に、自分が守られていたと気づいたのは最近のこと。
ファッションに疎い自分が、この身なりで誰に声をかけていいものか。
もちろん、気にし過ぎだとは思うし、絶対に声をかけられないわけでもないけど、初日から誠とばかり話していたせいで、新たに友人を作るタイミングを逃してしまった。
男の声を聞き流し、俺はカバンから教科書を取り出す。
「えっと……忙しい?」
断られてしまったのか、少し困った感じの声が聞こえてきたけれど、ナンパ失敗現場なんて、見ないに限る。
たとえ失敗しようと、俺より立派だ。
そんなことを思っていると、誠が俺の肩をトントンと叩いた。
「玲矢、声かけられてるみたいだけど」
「え……?」
誠が、アゴで俺の前の席を示す。
そこには、あきらかに俺とは住む世界が違う男が立っていた。
明るく脱色された髪にピアス、服装も、よくわからないけどおしゃれな感じがする。
めちゃくちゃモテそうだし、同性の俺でもドキッとするくらい容姿が整っていた。
ふと、入学初日の出来事を思い出す。
やたら人が集まっていて、その輪の中心にいた二人組のうち一人が、この男だ。
そこで俺は、ちょっぴり世の中の残酷さを思い知った。
羨ましいとまではいかないけど、自分にはないものを持っている二人に、俺は少し憧れに近い感情を抱いた。
同時に格差を見せつけられたことで、俺は消極的になってしまったのかもしれない。
そんな男が、いったいなんの用だというのだろう。
「俺に……声、かけてます?」
「うん。同じ講義、いくつか取ってるよね」
たしかに、必修科目含め、同じ講義になることも多い。
人目を引くせいで、俺はなんとなく把握してたけど……。
「あの、なんで知ってるんですか? 俺、そんな目立ってないですよね」
「うーん……俺にとっては、そうでもないんだけど」
俺を見て、男はにやりと笑みを漏らす。
これが人を虜にする笑顔か。
なんだか少しいやらしく見える。
頬が熱くなるのを感じたけど、赤くなっていないことを祈る。
それにしても、いったいどういう意味だろう。
俺にとっては、そうでもないって……。
地味すぎて逆に浮いているとか、そういう指摘なら、改めて現実を突きつけないで欲しい。
「な、なにか……俺……」
とりあえず話を進めようとする俺を見下ろしながら、男はふっと頬を緩めた。
「君と、いろいろ話してみたいんだよね。名前、聞いていい?」
「え……」
こんな風に改まって『話してみたい』なんてことを言われたのは、これがはじめてかもしれない。
「ああ、先に名乗らないと失礼だよね。柊悠斗です。よろしく」
「あ……えっと、橘玲矢です」
「玲矢ね。今年入学? 同い年かな。俺、タメ口で話しちゃってたけど」
「あ、はい」
「それじゃあ玲矢もタメ口で」
「え……あ……うん」
普段、接点のないタイプの人から声をかけられたせいか、なぜか敬語になってしまっていたことにいまさら気づく。
この人……悠斗くんも、俺と同じ学生だ。
俺の中では、カースト上位と底辺で、住む世界が違う住人のように見えるけど。
そんな悠斗くんが、俺なんかといったいなにを話したいんだろう。
内心、戸惑っていると――
「悠斗! なにしてんだよ」
少し離れた所から、別の男が悠斗くんを呼ぶ。
不機嫌そうな声。
そこにいたのは、悠斗くん同様、華やかな雰囲気をまとった男で、見るからに、そっち側の人間だった。
以前、輪の中心にいた二人組のうちのもう一人。
男は俺の方を見て顔をしかめる。
俺はさりげなく視線を逸らした。
「ごめんね。もう講義始まっちゃうから、また講義の後、待っててくれる?」
悠斗くんは、男の方をチラッと確認した後、色っぽい表情で俺を見つめてきた。
なんでそんな顔するんだろう。
よくわからないけど、誘われているような気がして、無性に恥ずかしくなった。
もちろん、俺が勝手にそう思ってるだけだけど。
「……ダメ? いい?」
ダメではない。
ということは、いいということになってしまう。
ちょっとだけ強制力を感じたけれど、嫌な気はしなかった。
「いいよ。わかった」
「ありがとう。じゃあね」
悠斗くんは、約束を取りつけたかと思うと、呼びかけてきた男の方へと去っていく。
残された俺は、いったいなにが起こったのか、いまいち事態が飲み込めないでいた。
「……どういうこと?」
隣の誠が俺に話しかけてくる。
「俺が聞きたいよ」
「あいつ、初日からすごいたくさん声かけられてたやつだよな」
「うん……たしかそう」
「うるさいやつに声かけられすぎて、地味なやつと付き合いたくなったとか」
そんなことがあるんだろうか。
あったとしても――
「それで俺?」
「あきらかに普段あいつがつるんでるやつらとはタイプが違うしな」
理由はよくわからないけど、話したいと思ってもらえるのは素直に嬉しい。
ただ、相手が相手だけに少し警戒してしまう。
緊張で、まともに受け答えできていなかったかもしれない。
講義が始まっても、俺は声をかけてきた悠斗くんのことが気になって、しかたがなかった。
だいぶ前の方、窓際に座る悠斗くんへと視線を向ける。
素直に、かっこいい人だと思った。
見てて飽きない容姿……というやつだ。
そんな人との約束は、俺にとってありえない出来事で、なんだか落ち着かない。
悪いことなどなにもしていないはずなのに、職員室に呼ばれたときの感覚に似ている。
意味もなく緊張してしまう。
俺を見て顔をしかめていた男のことも少し気になった。
悠斗くんとよく一緒にいるみたいだし、二人はきっと仲がいいんだろう。
なんでそんな地味なやつに声をかけてるんだって、言いたかったのかもしれない。
悠斗くんにとって俺は、地味で目立たない存在というわけでもなさそうだったけど。
本当に、どういうつもりなんだろう。
そうこうしているうちに、講義が終わってしまう。
悠斗くんの周りには、何人か他の学生が集まっていた。
その人たちに断りを入れるようにして、悠斗くんが、こちらに向かってくる。
「どうしよう……」
俺は思わず、隣の誠に助けを求めるように呟いた。
「お前、男相手になに緊張してんだよ」
「男だけど、あんなの住む世界が違い過ぎる。異文化交流だよ」
「まあ、それは言えてるな。とりあえず話したらいいんじゃね?」
「なにを?」
「わかんないけど、向こうの方がコミュ力高そうだし、任せればいいだろ」
誠の言う通り、ただ話をすればいい。
わかっていても、緊張してしまう。
「ごめんね。待たせちゃって」
悠斗くんに声をかけられた俺は、慌てて首を横に振った。
「全然、待ってない……」
「この後、もう講義ない?」
「うん。今日はこれで終わり」
「バイトとか、急ぎの用事は?」
「ない……」
俺がそう告げると、悠斗くんはホッとした様子で頬を緩める。
「よかった。講義前にも言ったけど、ちょっと玲矢と話したくてね」
悠斗くんが、俺の隣……誠を窺う。
「あ、そんじゃ俺、もう行くから」
なにか察したらしい誠が、カバンを肩にかけて俺に手を振る。
「う、うん……」
別にいてくれてもいいんだけど。
俺がそう思うだけで、もしかしたら悠斗くんはそう思っていないのかもしれない。
止めることもできず、誠が去って行く。
妙に心細く感じていると、
「大丈夫、そんな警戒しないで?」
俺の動揺に気づいてか、悠斗くんが気づかってくれた。
「う、うん」
「ここじゃなんだし、一緒に来てくれる?」
「うん……」
とりあえず頷いてはみたものの、別方向から突き刺さってくる視線が痛い。
講義前、悠斗くんに声をかけていた男だ。
「悠斗くんの友達? すごくこっち見てるけど。約束とかしてたんじゃ……」
「ああ、気にしなくていいよ。玲矢と直接、話をしたいから邪魔しないでって、ちゃんと伝えてある」
「ええ……? そんな風に伝えたら、余計怒らせるんじゃ……」
「んー……怒ってないから、大丈夫。あいつの言う通りにしてたら、いつまで経っても玲矢と話せないからね」
そうまでして、なんで俺と話したいんだろう。
なんだか求められているような気がして照れくさい。
悪い気はしないけど、俺はまだ事態をうまく飲み込めずにいた。
俺が寝床についてしばらくすると、決まって聞こえてくる。
ギシギシとベッドが軋む音。
お隣さんは、今日も激しいらしい。
暗闇で、想像力を掻き立てられてる。
勘違いかもしれないけど、壁一枚しか隔てていないせいか、こちらにまで振動が伝わってくる気がした。
なんだか体が重くて熱い。
夢を見ているのかもしれない。
すごく卑猥な夢。
そんな中、あいかわらず、ベッドは軋み続ける。
シーツが擦れる音まで聞こえてきた。
これは、俺が出している音か。
頭がぼんやりして、理解が追いつかない。
とにかく、することは決まっていた。
右手を下肢に伸ばす。
そこがものすごく熱を持っていることに、触れてみて実感する。
「はぁ……」
どうにかしないと。
パジャマの中に手を突っ込んで、自分の昂りを撫であげていく。
欲しかった刺激を得られたそこは、一気に硬さを増した。
ここまできたらもう、後戻りできない。
まどろみの中、取り出したものを何度も何度も擦りあげる。
「んん……はぁ……はぁっ……んっ……」
気持ちいい。
気持ちいい。
手も腰も止まらない。
俺もまたベッドを軋ませながら、一人、ひそかに絶頂を味わうのだった。
「ねぇ君、ちょっといいかな」
あと5分ほどで4コマ目の講義が始まろうとしていたときのこと。
透き通った綺麗な男の声が俺の耳に入ってきた。
誰に話しかけているのか、きっと人見知りしないのだろう。
正直、羨ましい。
大学に入って2週間。
俺は、そんな風に声をかけたこともなければ、かけられたこともない。
その結果、いま左隣に座っている中学時代からの友人、誠以外、まともに話せる人がいない状態だ。
中高生の頃は、もっと気軽に声をかけられていたはずなのに。
コミュ力の高い人間は高い人間同士、華々しいキャンパスライフを満喫しているのだろう。
そういったものに憧れはしたものの、俺には無理だとすぐに悟った。
校則のない大学では、髪色や服装など、見た目の自由度が高校までとは全然違う。
あまり好きとは思えなかった校則に、自分が守られていたと気づいたのは最近のこと。
ファッションに疎い自分が、この身なりで誰に声をかけていいものか。
もちろん、気にし過ぎだとは思うし、絶対に声をかけられないわけでもないけど、初日から誠とばかり話していたせいで、新たに友人を作るタイミングを逃してしまった。
男の声を聞き流し、俺はカバンから教科書を取り出す。
「えっと……忙しい?」
断られてしまったのか、少し困った感じの声が聞こえてきたけれど、ナンパ失敗現場なんて、見ないに限る。
たとえ失敗しようと、俺より立派だ。
そんなことを思っていると、誠が俺の肩をトントンと叩いた。
「玲矢、声かけられてるみたいだけど」
「え……?」
誠が、アゴで俺の前の席を示す。
そこには、あきらかに俺とは住む世界が違う男が立っていた。
明るく脱色された髪にピアス、服装も、よくわからないけどおしゃれな感じがする。
めちゃくちゃモテそうだし、同性の俺でもドキッとするくらい容姿が整っていた。
ふと、入学初日の出来事を思い出す。
やたら人が集まっていて、その輪の中心にいた二人組のうち一人が、この男だ。
そこで俺は、ちょっぴり世の中の残酷さを思い知った。
羨ましいとまではいかないけど、自分にはないものを持っている二人に、俺は少し憧れに近い感情を抱いた。
同時に格差を見せつけられたことで、俺は消極的になってしまったのかもしれない。
そんな男が、いったいなんの用だというのだろう。
「俺に……声、かけてます?」
「うん。同じ講義、いくつか取ってるよね」
たしかに、必修科目含め、同じ講義になることも多い。
人目を引くせいで、俺はなんとなく把握してたけど……。
「あの、なんで知ってるんですか? 俺、そんな目立ってないですよね」
「うーん……俺にとっては、そうでもないんだけど」
俺を見て、男はにやりと笑みを漏らす。
これが人を虜にする笑顔か。
なんだか少しいやらしく見える。
頬が熱くなるのを感じたけど、赤くなっていないことを祈る。
それにしても、いったいどういう意味だろう。
俺にとっては、そうでもないって……。
地味すぎて逆に浮いているとか、そういう指摘なら、改めて現実を突きつけないで欲しい。
「な、なにか……俺……」
とりあえず話を進めようとする俺を見下ろしながら、男はふっと頬を緩めた。
「君と、いろいろ話してみたいんだよね。名前、聞いていい?」
「え……」
こんな風に改まって『話してみたい』なんてことを言われたのは、これがはじめてかもしれない。
「ああ、先に名乗らないと失礼だよね。柊悠斗です。よろしく」
「あ……えっと、橘玲矢です」
「玲矢ね。今年入学? 同い年かな。俺、タメ口で話しちゃってたけど」
「あ、はい」
「それじゃあ玲矢もタメ口で」
「え……あ……うん」
普段、接点のないタイプの人から声をかけられたせいか、なぜか敬語になってしまっていたことにいまさら気づく。
この人……悠斗くんも、俺と同じ学生だ。
俺の中では、カースト上位と底辺で、住む世界が違う住人のように見えるけど。
そんな悠斗くんが、俺なんかといったいなにを話したいんだろう。
内心、戸惑っていると――
「悠斗! なにしてんだよ」
少し離れた所から、別の男が悠斗くんを呼ぶ。
不機嫌そうな声。
そこにいたのは、悠斗くん同様、華やかな雰囲気をまとった男で、見るからに、そっち側の人間だった。
以前、輪の中心にいた二人組のうちのもう一人。
男は俺の方を見て顔をしかめる。
俺はさりげなく視線を逸らした。
「ごめんね。もう講義始まっちゃうから、また講義の後、待っててくれる?」
悠斗くんは、男の方をチラッと確認した後、色っぽい表情で俺を見つめてきた。
なんでそんな顔するんだろう。
よくわからないけど、誘われているような気がして、無性に恥ずかしくなった。
もちろん、俺が勝手にそう思ってるだけだけど。
「……ダメ? いい?」
ダメではない。
ということは、いいということになってしまう。
ちょっとだけ強制力を感じたけれど、嫌な気はしなかった。
「いいよ。わかった」
「ありがとう。じゃあね」
悠斗くんは、約束を取りつけたかと思うと、呼びかけてきた男の方へと去っていく。
残された俺は、いったいなにが起こったのか、いまいち事態が飲み込めないでいた。
「……どういうこと?」
隣の誠が俺に話しかけてくる。
「俺が聞きたいよ」
「あいつ、初日からすごいたくさん声かけられてたやつだよな」
「うん……たしかそう」
「うるさいやつに声かけられすぎて、地味なやつと付き合いたくなったとか」
そんなことがあるんだろうか。
あったとしても――
「それで俺?」
「あきらかに普段あいつがつるんでるやつらとはタイプが違うしな」
理由はよくわからないけど、話したいと思ってもらえるのは素直に嬉しい。
ただ、相手が相手だけに少し警戒してしまう。
緊張で、まともに受け答えできていなかったかもしれない。
講義が始まっても、俺は声をかけてきた悠斗くんのことが気になって、しかたがなかった。
だいぶ前の方、窓際に座る悠斗くんへと視線を向ける。
素直に、かっこいい人だと思った。
見てて飽きない容姿……というやつだ。
そんな人との約束は、俺にとってありえない出来事で、なんだか落ち着かない。
悪いことなどなにもしていないはずなのに、職員室に呼ばれたときの感覚に似ている。
意味もなく緊張してしまう。
俺を見て顔をしかめていた男のことも少し気になった。
悠斗くんとよく一緒にいるみたいだし、二人はきっと仲がいいんだろう。
なんでそんな地味なやつに声をかけてるんだって、言いたかったのかもしれない。
悠斗くんにとって俺は、地味で目立たない存在というわけでもなさそうだったけど。
本当に、どういうつもりなんだろう。
そうこうしているうちに、講義が終わってしまう。
悠斗くんの周りには、何人か他の学生が集まっていた。
その人たちに断りを入れるようにして、悠斗くんが、こちらに向かってくる。
「どうしよう……」
俺は思わず、隣の誠に助けを求めるように呟いた。
「お前、男相手になに緊張してんだよ」
「男だけど、あんなの住む世界が違い過ぎる。異文化交流だよ」
「まあ、それは言えてるな。とりあえず話したらいいんじゃね?」
「なにを?」
「わかんないけど、向こうの方がコミュ力高そうだし、任せればいいだろ」
誠の言う通り、ただ話をすればいい。
わかっていても、緊張してしまう。
「ごめんね。待たせちゃって」
悠斗くんに声をかけられた俺は、慌てて首を横に振った。
「全然、待ってない……」
「この後、もう講義ない?」
「うん。今日はこれで終わり」
「バイトとか、急ぎの用事は?」
「ない……」
俺がそう告げると、悠斗くんはホッとした様子で頬を緩める。
「よかった。講義前にも言ったけど、ちょっと玲矢と話したくてね」
悠斗くんが、俺の隣……誠を窺う。
「あ、そんじゃ俺、もう行くから」
なにか察したらしい誠が、カバンを肩にかけて俺に手を振る。
「う、うん……」
別にいてくれてもいいんだけど。
俺がそう思うだけで、もしかしたら悠斗くんはそう思っていないのかもしれない。
止めることもできず、誠が去って行く。
妙に心細く感じていると、
「大丈夫、そんな警戒しないで?」
俺の動揺に気づいてか、悠斗くんが気づかってくれた。
「う、うん」
「ここじゃなんだし、一緒に来てくれる?」
「うん……」
とりあえず頷いてはみたものの、別方向から突き刺さってくる視線が痛い。
講義前、悠斗くんに声をかけていた男だ。
「悠斗くんの友達? すごくこっち見てるけど。約束とかしてたんじゃ……」
「ああ、気にしなくていいよ。玲矢と直接、話をしたいから邪魔しないでって、ちゃんと伝えてある」
「ええ……? そんな風に伝えたら、余計怒らせるんじゃ……」
「んー……怒ってないから、大丈夫。あいつの言う通りにしてたら、いつまで経っても玲矢と話せないからね」
そうまでして、なんで俺と話したいんだろう。
なんだか求められているような気がして照れくさい。
悪い気はしないけど、俺はまだ事態をうまく飲み込めずにいた。
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