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2「隠さなくていいよ。偏見ないから」
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悠斗くんに誘導されるようにして、俺たちは中庭のベンチへと移動した。
「ここなら、とりあえず二人でゆっくり話せるからね」
二人でゆっくり……なにを話すんだろう。
とりあえず隣同士で座る。
「……玲矢、緊張してる?」
「あ、えっと……少し」
「人見知り?」
「そういうわけじゃ……ないと思ってたけど、そう、なのかな。悠斗くん、かっこいいし」
思わず、本音が出てしまう。
悠斗くんは言われ慣れているのか、とくに照れる様子もなく、優しく笑った。
むしろ、俺の方が照れてしまう。
「ありがとう。玲矢は、かわいいね」
「え、ええ……?」
言われ慣れていない俺は、当然、どう答えていいのかわからない。
「かわいいって言われるの、嫌だった? 俺的には褒め言葉なんだけど、やっぱりかっこいいの方が……」
「う、ううん。そうじゃなくて……わざわざ褒めてくれなくていいよ」
「玲矢も褒めてくれたし」
「褒めたっていうか、俺のはただの感想で……」
「じゃあ、俺もただの感想ね」
そう言われたら、どう否定すればいいのかわからない。
本気なのか冗談なのか。
よくわからなけど、なんとなくこの人がモテる理由はわかったかもしれない。
例に漏れず、俺まで惚れそうだ。
そう自覚したら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「悠斗くん、俺とどういう話がしたかったの?」
妙な空気に耐え切れなくなった俺は、つい催促してしまう。
催促した後で、あまりいい態度ではないと思ったけど、いまさら取り消すこともできない。
「玲矢と話せるならなんでもいいけど……あんまり回りくどいのもなんだしね」
やっぱり、なにか話したい内容があるようだ。
悠斗くんは、俺の方を見ながら話を切り出した。
「玲矢、オカルトとか……興味ある?」
オカルト……。
それって、UFOとか超常現象とか心霊現象のことを言ってるんだろうか。
嫌いじゃないし、そういった特番があれば見てしまう方だけど、想定外すぎる話を振られて、返答し損ねる。
「隠さなくていいよ。偏見ないから」
黙っていると、悠斗くんはまるで俺を気遣うみたいに優しく笑った。
「えっと、別に隠してるわけじゃないんだけど……」
「好きなんだろうなぁって思ってたんだ」
悠斗くんは、なぜか確信しているみたいだった。
いったいどういうことだろう。
これが本題?
さっきまで感じていた気恥ずかしいような空気感が、少しずつ落ち着いてくる。
「偏見ないって言うけど、俺がオカルト好きだって決めつけるのも、偏見だよ」
俺はつい、そう強めに言い返していた。
かっこいいとか、かわいいとは違って、オカルト好きそうなんてのは、褒め言葉じゃない。
悠斗くんは、俺の反応が意外だったのか、少しだけ驚いた表情を見せた後、小さくペコリと頭をさげてくれた。
「たしかに、そうだったかもしれないね。ごめん。そう思ったってだけで、決めつけてるわけじゃないよ」
決めつけじゃないなら、なんでそう思ったんだろう。
ますますわからない。
そういう見た目……だろうか。
それとも……――
ひとつだけ、思い当たることがあった。
でもそれは、誰にも話していない。
ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。
「悠斗くん、どうして俺がオカルト好きそうだって思ったの?」
なるべく平静を装いながら、悠斗くんに尋ねる。
「んー……玲矢が、事故物件に住んでるから……かな」
事故物件。
俺が大学入学を機に一人暮らしを始めた部屋が、まさにそれだ。
不動産会社をやっている叔父の勧めで、住むことになった。
一人暮らしにしては部屋も広いし、大学にも近いし、その上、格安でよかったと思ってる。
ときどき妙な物音くらいはするけれど、風か隣の部屋の音だと思い込むことにした。
俺が事故物件に住んでいることは、誠にも話してないのに……。
「あの……なんで、それ……」
「全然、挨拶できてなかったんだけど、俺、玲矢んちの隣なんだよね」
「え……」
「玲矢が隣の部屋に入ってくの、たまに見かけてたんだ。挨拶しようと思って、何度かインターホン押してみたんだけど……」
「ご、ごめん……気づかなかったか、新聞の勧誘だと思って無視しちゃってた、かも」
俺も引っ越してすぐ、一応、隣の部屋まで挨拶に向かったけど、そのときちょうど留守だったのか、誰も出てこなかったことを思い出す。
2回ほど繰り返した時点で、事故物件に住む人間に挨拶されても嬉しくないだろうと、理由をつけて諦めてしまっていた。
「まさか、隣だったなんて……」
俺が事故物件に住んでいることを知っているのなら、オカルトに興味があると思われても仕方ない。
「偏見だなんて言ってごめん。そんなとこ住んでるわけだし、当然、オカルト好きだって思うよね……」
「違った?」
「UFOとか超常現象とか、そういうのならちょっと興味あるし、心霊現象ネタも……まあ、嫌いじゃないけど、好き好んで事故物件に住もうと思ったわけじゃないから……」
「じゃあ、嫌々住んでるの? もしかして騙された?」
「そういうわけじゃないよ。不動産やってんのが親戚で、勧められたっていうか、頼まれた感じ」
悠斗くんは、なるほどと言った様子で頷いていた。
「玲矢って、頼まれたら断れないタイプ?」
「うーん……そうかもしんない」
「押しに弱いんだ?」
「そう、なのかな。でも、無理やり決められたとかじゃないよ。ちゃんと納得してる」
叔父さんのためにも、そう言っておかないと。
「へぇ……そうなんだ……」
なぜか少しうっとりした表情を浮かべながら、俺を見つめる悠斗くん。
もしかしたら、クセなのかもしれない。
こっちとしては常に誘われている気分で、なんだかおかしくなりそうだけど。
「悠斗くん、オカルト好きなの?」
「まあね。好きだし、結構、身近かな」
「身近……?」
「玲矢も身近でしょ」
事故物件に住んでるくらいだし、悠斗くんの言う通り、俺も、オカルトが身近になっているのかもしれない。
「そうなるのかな。悠斗くん、俺とオカルトの話しようとしてたんだ?」
「うん。いろいろ聞いてみたいなって思って」
なんとなくだけど、事故物件に住んでいる俺をからかいたいだとか、そんな雰囲気ではなさそうだ。
そのことに、少しだけ安堵する。
「部屋も隣だし、少し親近感、沸いてたんだよね」
「ええ……さすがに親近感は、ないよね?」
いくら悠斗くんがオカルト好きで、俺が事故物件に住んでいるからって、それはない。
「こっちが勝手に抱いてるだけだから、いやなら気にしないで」
「い、いやじゃないし、否定はしないけど」
いまのところ、俺は抱けそうにない。
大学生で一人暮らしという共通点があるとはいえ、こっちは事故物件。
通常価格の家賃なら、たぶん、この部屋に住んでいなかっただろう。
なにより……俺は気づいていた。
夜な夜な隣の部屋から聞こえてくる、ベッドが軋むような物音に。
「ここなら、とりあえず二人でゆっくり話せるからね」
二人でゆっくり……なにを話すんだろう。
とりあえず隣同士で座る。
「……玲矢、緊張してる?」
「あ、えっと……少し」
「人見知り?」
「そういうわけじゃ……ないと思ってたけど、そう、なのかな。悠斗くん、かっこいいし」
思わず、本音が出てしまう。
悠斗くんは言われ慣れているのか、とくに照れる様子もなく、優しく笑った。
むしろ、俺の方が照れてしまう。
「ありがとう。玲矢は、かわいいね」
「え、ええ……?」
言われ慣れていない俺は、当然、どう答えていいのかわからない。
「かわいいって言われるの、嫌だった? 俺的には褒め言葉なんだけど、やっぱりかっこいいの方が……」
「う、ううん。そうじゃなくて……わざわざ褒めてくれなくていいよ」
「玲矢も褒めてくれたし」
「褒めたっていうか、俺のはただの感想で……」
「じゃあ、俺もただの感想ね」
そう言われたら、どう否定すればいいのかわからない。
本気なのか冗談なのか。
よくわからなけど、なんとなくこの人がモテる理由はわかったかもしれない。
例に漏れず、俺まで惚れそうだ。
そう自覚したら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「悠斗くん、俺とどういう話がしたかったの?」
妙な空気に耐え切れなくなった俺は、つい催促してしまう。
催促した後で、あまりいい態度ではないと思ったけど、いまさら取り消すこともできない。
「玲矢と話せるならなんでもいいけど……あんまり回りくどいのもなんだしね」
やっぱり、なにか話したい内容があるようだ。
悠斗くんは、俺の方を見ながら話を切り出した。
「玲矢、オカルトとか……興味ある?」
オカルト……。
それって、UFOとか超常現象とか心霊現象のことを言ってるんだろうか。
嫌いじゃないし、そういった特番があれば見てしまう方だけど、想定外すぎる話を振られて、返答し損ねる。
「隠さなくていいよ。偏見ないから」
黙っていると、悠斗くんはまるで俺を気遣うみたいに優しく笑った。
「えっと、別に隠してるわけじゃないんだけど……」
「好きなんだろうなぁって思ってたんだ」
悠斗くんは、なぜか確信しているみたいだった。
いったいどういうことだろう。
これが本題?
さっきまで感じていた気恥ずかしいような空気感が、少しずつ落ち着いてくる。
「偏見ないって言うけど、俺がオカルト好きだって決めつけるのも、偏見だよ」
俺はつい、そう強めに言い返していた。
かっこいいとか、かわいいとは違って、オカルト好きそうなんてのは、褒め言葉じゃない。
悠斗くんは、俺の反応が意外だったのか、少しだけ驚いた表情を見せた後、小さくペコリと頭をさげてくれた。
「たしかに、そうだったかもしれないね。ごめん。そう思ったってだけで、決めつけてるわけじゃないよ」
決めつけじゃないなら、なんでそう思ったんだろう。
ますますわからない。
そういう見た目……だろうか。
それとも……――
ひとつだけ、思い当たることがあった。
でもそれは、誰にも話していない。
ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。
「悠斗くん、どうして俺がオカルト好きそうだって思ったの?」
なるべく平静を装いながら、悠斗くんに尋ねる。
「んー……玲矢が、事故物件に住んでるから……かな」
事故物件。
俺が大学入学を機に一人暮らしを始めた部屋が、まさにそれだ。
不動産会社をやっている叔父の勧めで、住むことになった。
一人暮らしにしては部屋も広いし、大学にも近いし、その上、格安でよかったと思ってる。
ときどき妙な物音くらいはするけれど、風か隣の部屋の音だと思い込むことにした。
俺が事故物件に住んでいることは、誠にも話してないのに……。
「あの……なんで、それ……」
「全然、挨拶できてなかったんだけど、俺、玲矢んちの隣なんだよね」
「え……」
「玲矢が隣の部屋に入ってくの、たまに見かけてたんだ。挨拶しようと思って、何度かインターホン押してみたんだけど……」
「ご、ごめん……気づかなかったか、新聞の勧誘だと思って無視しちゃってた、かも」
俺も引っ越してすぐ、一応、隣の部屋まで挨拶に向かったけど、そのときちょうど留守だったのか、誰も出てこなかったことを思い出す。
2回ほど繰り返した時点で、事故物件に住む人間に挨拶されても嬉しくないだろうと、理由をつけて諦めてしまっていた。
「まさか、隣だったなんて……」
俺が事故物件に住んでいることを知っているのなら、オカルトに興味があると思われても仕方ない。
「偏見だなんて言ってごめん。そんなとこ住んでるわけだし、当然、オカルト好きだって思うよね……」
「違った?」
「UFOとか超常現象とか、そういうのならちょっと興味あるし、心霊現象ネタも……まあ、嫌いじゃないけど、好き好んで事故物件に住もうと思ったわけじゃないから……」
「じゃあ、嫌々住んでるの? もしかして騙された?」
「そういうわけじゃないよ。不動産やってんのが親戚で、勧められたっていうか、頼まれた感じ」
悠斗くんは、なるほどと言った様子で頷いていた。
「玲矢って、頼まれたら断れないタイプ?」
「うーん……そうかもしんない」
「押しに弱いんだ?」
「そう、なのかな。でも、無理やり決められたとかじゃないよ。ちゃんと納得してる」
叔父さんのためにも、そう言っておかないと。
「へぇ……そうなんだ……」
なぜか少しうっとりした表情を浮かべながら、俺を見つめる悠斗くん。
もしかしたら、クセなのかもしれない。
こっちとしては常に誘われている気分で、なんだかおかしくなりそうだけど。
「悠斗くん、オカルト好きなの?」
「まあね。好きだし、結構、身近かな」
「身近……?」
「玲矢も身近でしょ」
事故物件に住んでるくらいだし、悠斗くんの言う通り、俺も、オカルトが身近になっているのかもしれない。
「そうなるのかな。悠斗くん、俺とオカルトの話しようとしてたんだ?」
「うん。いろいろ聞いてみたいなって思って」
なんとなくだけど、事故物件に住んでいる俺をからかいたいだとか、そんな雰囲気ではなさそうだ。
そのことに、少しだけ安堵する。
「部屋も隣だし、少し親近感、沸いてたんだよね」
「ええ……さすがに親近感は、ないよね?」
いくら悠斗くんがオカルト好きで、俺が事故物件に住んでいるからって、それはない。
「こっちが勝手に抱いてるだけだから、いやなら気にしないで」
「い、いやじゃないし、否定はしないけど」
いまのところ、俺は抱けそうにない。
大学生で一人暮らしという共通点があるとはいえ、こっちは事故物件。
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