ツいてるなんて聞いてない!

水無月

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5「相容れない……なんてこと、ないんじゃないかな」

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 夜7時を過ぎた頃、約束通り悠斗くんが俺の家まで来てくれた。
「お邪魔します」
 悠斗くんは、まるで子供みたいに、目を輝かせていた。
「あんまり期待されると、申し訳ないんだけど」
「大丈夫。なにもなくても俺は楽しいから」
 そんなことあるのか。
 そう思ったけど、なにもないのに俺も少し楽しくなっていた。
 はじめて一人暮らししている自分の部屋に、誰かが……悠斗くんが泊まりに来ているわけだし、なにもないってことでもないんだけど。
「夕飯、まだだよね? それとも食べてた? 家に大したもんないんだけど、なにかとろうか……」
 自分が食べるだけならなんでもいいけど、人にふるまえるようなものはない。
「キッチン、貸してもらえたら作るよ。事後報告になっちゃったけど、なにか作れるかなって思って、いろいろ持ってきたから」
「え、そうだったの? なんかごめん。俺、全然なにも用意してなくて……」
 こんなところでコミュ力の差を見せつけられる。
 やっぱり、モテる男は違うらしい。
「急だったし泊めてもらうんだから、これくらい俺がしないと。嫌いな食べものとかある?」
「ううん、とくにない」
 キッチンに案内すると、悠斗くんがカバンからいろいろ材料を取り出した。
「パスタ作ろうと思うんだけど、いい?」
「うん。ありがとう」
 鍋やフライパンなど、使いそうなものを取り出した後、慣れた手つきで料理に取り掛かる悠斗くんを眺める。
 一人暮らしをはじめて2週間。
 誰かの手作りにも餓えていたし、作ってもらえるってだけで、なんだか少し感動してしまう。
 それにしても、悠斗くん……見た目だけじゃなく、中身まで完全にモテ男だ。
 こんなの女の子がほっとくはずがない。
「悠斗くんて、すごいモテそうだよね」
「そう?」
 前から悠斗くんの周りに人が集まっているのは知っていた。
 話したのは今日がはじめてだけど、それでもだいたい解かる。
 人当たりが良くて、気遣いできて、料理も……いや、味はまだわからないけど。
「俺は玲矢の方がすごいと思うけどね」
「俺?」
 手を止めた悠斗くんが、じっとこちらを見つめてくる。
 その目は、どこかうっとりして見えた。
 そういえば大学で話しているときも、こんな感じの目で見られていたような……。
 いったいなににうっとりしてるんだろう。
 やっぱり、そういう表情になるのが癖だったりするんだろうか。
「本当の俺を知ったら、だいたいの人間は離れてくよ。霊が見えるとか、オカルト好きだとか。信じてもらえないし、口先だけで信じてるって言われたこともあるしね」
「口先だけ……?」
「そう。なにかの拍子にちょっと言い合いになったら、実は俺に合わせていただけで、本当は最初から信じてなかったとか」
 なかなか信じられない人の気持ちも俺はわかるけど。
 正直、見えるって言ってる人がみんな嘘をついているとは思えない。
 悠斗くんだって、俺にそんな嘘をつくメリットはないし、たぶん本当なんだろう。
「だからもう、こういう話はほとんどしてないんだ」
 信じてもらえなかった過去があるから、悠斗くんも、人を信じられなくなっていたり、疑い深くなっていたりするのだろう。
「悠斗くんの周りによくいる人たちとは、オカルト話、してないってこと?」
「してないよ。悠真とはたまに話すけど、それで十分。見えない人と話しても、理解されないしね。相容れないっていうか」
 見えない人。
 そう言われて鼓動が激しくなる。
 もしかして悠斗くんは、俺のこと『見える人』だって……『わかる人』だって思ってるんじゃないか?
 その上で、事故物件に住んでいたり、霊を乗せて歩いてたりしてるやつだって……。
 それって相当変なやつだし、さすがに訂正したいけど、見えない人とは相容れないって言われたばかり。
 せっかく泊まりに来てくれているのに、いま変な空気にはしたくはない。
「相容れない……なんてこと、ないんじゃないかな」
 俺はせめてもの抵抗で、見えない人をフォローする。
「見える人もいれば、見えない人もいるし」
「……そうだね」
 納得してくれたかどうかはわからないけど、悠斗くんはひとまず頷いてくれていた。
 見えなくて、わからないからこそ、俺は事故物件に住めるんだけど。
 悠斗くんが仲良くしたいと思ってくれている俺は、見える上で事故物件住むような……ちょっとおかしな人間だ。
 でもいまの俺は『仲良くしてもらいたくて、見えると嘘をついてる人間』でしかない。
 悠斗くんが仲良くしたくないタイプの人間。
 とりあえず、今日はこのまま、嘘をついたまま乗り切ろう。

 ベッド近くの小さなテーブルに、できあがったパスタを運ぶ。
 カーペットの上、俺と悠斗くんは、向かい合わせで座った。
「お口に合うといいけど。食べてみて?」
「うん。いただきます」
 さっそく、悠斗くんが作ってくれた料理を口に運ぶ。
「ん……おいしい! このソース、市販?」
「市販のものに少し手を加えてる感じかな」
 あとでレシピを教えてもらおう。
 そう思ったけど、作ってもらったからおいしく感じるのかもしれない。
「ありがとう、悠斗くん。本当においしい」
「どういたしまして。嬉しいな」
 パスタを食べながら、俺は少し気になっていたことを悠斗くんに尋ねた。
「悠斗くん、事故物件にこれだけ興味あるのに、自分で借りようとは思わなかったんだ? 俺、部屋決まったの結構、ぎりぎりだったから、悠斗くんが決めるとき、まだ空いてたんじゃない?」
「こういう物件って、こっちから出してって言わない限り、なかなか紹介されないよね? 最初はただ、大学に近いところを借りたいって思ってただけだから。ここを借りるってなった段階で、隣の部屋が事故物件だって聞かされたんだよね」
「そうだったんだ……」
「そのときになって、事故物件もいいなぁって話にはなったけど、親と悠真にやめとけって止められてさ」
 たしかに、普通の親は止めるか。
 俺の家は特殊なのかもしれない。
 というか、たぶん信じていない側の人間だ。
 俺は一応隠しているし、堂々とするものではないと思っているけど。
「実は、悠真の方が俺より敏感なんだよね。俺は平気でも、悠真はそうじゃないかもしれないし、それでやめとこうって話になったんだ。ちなみに、いま俺たちが住んでる部屋は、悠真いわくなにも感じなかったから、隣だけどまあいっかってね」
 一緒に住むなら当然、悠真くんの意見も重要だ。
 隣が事故物件ってだけでも、嫌がる人はいると思うけど、それ以外の条件はかなりいい。
 悠真くんも、妥協せざるえなかったのかもしれない。
「玲矢は、親戚に勧められたって聞いたけど……」
「うん。叔父さん、借り手がつかない部屋をどうにかしたかったみたい。大学も近いし、事故物件だから安いし、部屋も広いし……」
 親戚ということもあって、なにか問題でも起これば、すぐに相談できる。
「一度、誰かが住んじゃえば、事故物件としての説明義務がなくなるんだっけ」
「うん、そうみたいだね」
「それを身内に頼んだわけか」
 ちょっと残念な理由だけど、お互い合意の上だ。
「悠真くんとは、昔から仲いいの? 二人暮らしするくらいだし、幼馴染とか?」
「ああ、言ってなかったけど、弟なんだ。双子の弟」
「へぇ、そうだったんだ……」
 あんまり似てない……気もするけど、そういえば、雰囲気は似てたかも。
 離れたところから見ている分にはだけど。
 俺への態度は、悠斗くんと悠真くんで大違いだ。
「いいね。兄弟二人で一緒に暮らすの」
「うん、結構楽しいよ。お互いのことはもうよく知っちゃってるから、気楽だしね」

 そんなたわいもない会話をしている間に、結構、いい時間になってくる。
「悠斗くん、お風呂って入ってきた? 俺、そろそろ入ろうと思うんだけど、テレビでも見てる?」
「玲矢が深夜に聞いた音の場所、教えてくれる?」
 軋むベッドの音……当然だけど、忘れていないらしい。
「すぐそこだよ。ベッドで寝転がってると、わりと聞こえる」
「じゃあ、ここにいていい?」
「うん」
 なにもないけど……もしかしたら、悠斗くんにはなにか見えていたりするのだろうか。
 いるよって言われたら、やっぱりちょっと怖いかもしれない。
 霊そのものじゃなく、見える人自身を怖がったり、嫌がったりする人の気持ちも、俺はなんとなくわかってしまう。
 でも、嘘つき呼ばわりされたり、信じてもらえない辛さも想像できる。
 だから俺は、とくになにも突っ込まないことにした。
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