ツいてるなんて聞いてない!

水無月

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13「もし……俺の傍から全部、霊がいなくなったら?」(完)

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 宣言通り、悠斗くんは何度も俺を抱いた。
 俺の意識は朦朧としていて、正直よくわかっていないところもあったけど。
 いつの間にか朝を迎えていた。
「おはよう、玲矢」
 悠斗くんの声で目を覚ます。
「ん……」
「体、大丈夫?」
 全然、大丈夫じゃない。
「重い……感じがする」
 俺はベッドに寝転がったまま。
 悠斗くんは、少し前から起きていたのか、コーヒーを二人分、テーブルに置く。
「少しは霊、減ったと思うんだけど」
 冗談……だろうか。
「霊がいてもいなくても、あんなにしたらこうなるよ」
「じゃあ、いま玲矢の体が重いのは、俺のせいだね」
 そうなんだけど、悠斗くんが悪いとも言い切れない。
 気持ちよかったし、俺自身して欲しいって思ったし。
「悠斗くんが言ってた……霊はエッチなことが嫌いって、本当?」
「本当だよ」
「俺の周りにいる霊……本当に減った?」
「減ったね」 
 疑いたくはないけど、悠斗くんは自分で嘘をついたって言っていた。
「俺……悠斗くんは嘘つきって言われるのが嫌なんだと思って、信じようとしてたんだけど……嘘、ついてたんだよね?」
 悠斗くんは、さすがに申し訳なさそうな表情で、寝転がる俺に顔を寄せてきた。
「ごめん。俺のこと、信用できない?」
「どれが嘘だったか……教えてよ」
 世の中、ついた方がいい嘘だってある。
 言えないことや、隠したい出来事だってあるだろう。
「玲矢……俺のこと、嫌いになるかも」
「え……」
「霊が見えてて、霊に憑かれてる人で興奮してるんだよ? 普通、気持ち悪いでしょ」
 冗談……というわけでもないらしい。
「そこは、嘘じゃないんだ……」
「まあね」
 よく考えたら、たしかにだいぶおかしいかもしれない。
「……でも、それって、憑かれてる俺なんかを受け入れてくれたってことだし、興奮するのは……普通じゃないかもしれないけど、そもそも俺が普通じゃないわけだし……いいよ」
 そう告げると、悠斗くんはホッとした様子で頬を緩めた。
「ありがとう。でも、それだけじゃないんだよね。霊に酷いことされてるのに、うとうとしちゃってる玲矢がたまんなくて……」
「酷いこと?」
「撫でられてるとか、エッチなことされてる姿で興奮したって言ったけど、それが俺のついた嘘。やっぱり霊はそういうの、嫌いなんだろうね」
 本当は、そんなことされてなかったってこと?
「どういう……」
 寝起きだからか、理解が追いつかない。
 いや、なんとなく、わからない方がいいような気がして、脳が考えることを放棄しているのかもしれない。
「……とりあえず、俺はSだってこと。現実でやろうとは思わないし、酷いことされてる玲矢のこと、ちゃんと助けたい気持ちもあったけど、つい興奮しちゃって……抑えらんなくて、嘘ついたんだ」
 淡々と語られる悠斗くんの言葉を、ぼんやりする頭で追っていく。
「俺……酷いことされてたんだ……」
「俺は興奮しちゃったわけだし、やらしいことに見えたから、あながち全部嘘ってわけでもないんだけど。たぶん一般的には、やらしくないかな」
 それが一体どういった行為なのか、わからないけど霊のすることだ。
 もしかしたら聞くに堪えないレベルなのかもしれない。
「俺……最初は隣の部屋でエロいことが行われてるんだと思ってたし、その後は霊になんかエロいことされてると思って、それでやらしい気分になってたのに」
「うん。俺の言葉信じて、本当にやらしくなってんの、すごくかわいかった」
「……なんだよ、それ。もう……!」
 からかわれているような気もしたし、本気ならそれはそれで恥ずかしいし、俺は寝返りを打って、悠斗くんの視線から逃れた。
「ごめんね? でも、霊にどうされてるか俺が言う前から、玲矢の体はちゃんと反応してたよ。頭の方は追いついていないみたいだったけど、たぶん、体は霊に抵抗してたんだと思う」
「抵抗って……」
 少し振り返って、悠斗くんに尋ねる。
「うん。エッチになって霊に抗ってたってこと」
 そんなはずない。
 そう言いたいけど、実際、乳首やあそこが反応していたのは確かだ。
「霊に酷いことされて、そういう気分になったわけじゃないから……」
「わかってるよ。でも、俺にはそう見えちゃったんだよね。だから、なんていうか……俺のS心、刺激されまくっちゃった」
 もう一度、悠斗くんの方に体を向ける。
 悠斗くんは、なんだかうっとりしているみたいに見えたけど、まさかいまも、俺は霊になにか酷いことされてるんだろうか。
「た、助けてよ」
 体が重いのも忘れて飛び起きる。
「なに? なにか感じた?」
「感じてないけど、悠斗くん見てたら、そんな気がして……」
「怖くなっちゃったんだ? かわいい。おいで?」
 ベッドに座った悠斗くんが、俺の腕を引いて抱き寄せてくれる。
「俺の言葉で、いろいろ想像してくれたんだよね?」
「……もしかして、嘘?」
「どうだろう? 見えない人にはわからないかもね」
 見えなくて、俺にはわからない。
「わからないから、悠斗くんの言葉で、想像するしかないんだよ」
「うん……そうだね。玲矢に限っては、それでよかったのかも」
「……どういうこと?」
「俺の見てる景色がもし見えてたら、これで興奮するなんて、たぶん引いてるからね」
 引くほどの景色……なのか。
「うまく想像できない……」
「うん。それでいい」
 悠斗くんがそう言うのなら、ひとまず想像するのはやめておこう。
「でも……悠斗くんが興奮してくれるおかげで、俺は助かってるんだよね? 悠斗くんがエロいことしてくれて……俺に酷いことする霊が逃げてくれて……」
 悠斗くんは、少しだけ驚いた様子を見せた後、にっこり笑った。
「まあ、そういうことになるかな。そんな風に言ってもらえるなんて、思ってなかったけど」
 悠斗くんの手が、優しく俺の頭を撫でてくれる。
 酷いことで興奮するような人には思えないけど、そんな嘘をつくメリットはない。
「玲矢はモテるから……まだまだ全然、エッチなことし足りないね。もっとしないと守れないかも」
 悠斗くんの言葉は、冗談かもしれないし、嘘かもしれない。
 けど……それでもいい。
「守って……くれるんだよね?」
「もちろん」
 悠斗くんがその気なら、頼ってしまおう。
「もし……俺の傍から全部、霊がいなくなったら?」
 悠斗くんは、少しだけ体を離して、俺の顔をじっと窺った。
「なんか心配してる? 用済みだって捨てられかねないのは、俺の方なんだけど」
「そ、そんなことしないよ。でも……悠斗くんは、もう……俺に興味なくなるんじゃないかなって……」
 もともと霊が憑いていなかったら、俺は悠斗くんに顔を覚えられることもなく生活してただろう。
 こうして知り合えたけど、霊がいなくなったら……。
「直接、玲矢に酷いことしちゃおうかな」
「え……」
 なにか企んでいるみたいに、悠斗くんはニヤリと笑ってみせる。
 酷いことだって言われているのに、なぜか恥ずかしくて、顔が熱くなった。
 悠斗くんの興奮が、伝わってきているせいかもしれない。
「俺……もしかしてMなのかな」
「んー……無自覚だろうけど、そうだろうね。霊にモテる秘訣はそれかぁ」
 あんまり嬉しくないけど、悠斗くんが俺に興味を持ってくれたのは霊のおかげだ。
 M体質でよかったのかもしれない。
「悠斗くんは、俺みたいな体質でも引いたりしてないってことだよね?」
「もちろん。たまんない。好きだよ。その体質も、玲矢自身もね」
 ああ、またうっとりしてる。
 その言葉が嘘じゃないんだって、思わされてしまう。
「悠斗くん、すごくモテるのに……俺なんかに構って……いいの?」
「玲矢みたいな人、どこにもいないよ」
 霊に憑かれて、悠斗くんの言葉を鵜呑みにして、いいようにエロい姿をさらす男なんて、たしかに俺くらいかもしれない。
「なんか俺……すごく騙されやすそうだね……」
「ああ、自覚した? 本当、危ないよね。人がよすぎっていうか……事故物件借りてるのもそうだし」
 なんとなく事故物件を借りてしまったのも、もしかしたらいいように言いくるめられてたのかもしれない。
 親戚だから信用してるけど、詐欺には引っかからないよう気をつけよう。
 正直、悠斗くんがかっこよくて優しくて料理もできて、完璧……に見える男じゃなかったら、こんな簡単に落ちてなかったと思うけど……。
 ただ悠斗くんがちょっとおかしな人だってことは理解した。
「玲矢も、めちゃくちゃモテてるけど……そいつらのこと別に好きじゃないよね」
 俺がめちゃくちゃモテてる?
「なんのこと……?」
「霊だよ。玲矢に集まってる。モテモテだね」
 俺に集まってくる霊と、悠斗くんに集まってくる子たちが一緒とは思えないけど、それくらい興味がないってこと?
 いや、俺は興味がないというよりどちらかというと追い払いたい存在だけど。
「うん……好きじゃない……」
「……じゃあ、俺のことは? 玲矢の気持ち、はっきり聞いてなかったけど、教えてもらっていい?」
「え……」
「俺は玲矢のこと好きだって、何度か言ってるよね?」
 そういえば、そうだった。
 俺なんかが好きだなんて言っていいのかわからなくて一度も告げてない。
 まだ、知り合って間もないし。
 でも、たぶん……。
「……好き、かも」
「……かも? わかんないんだ? それも自覚なし?」
「あ、えっと……ううん。あるよ、自覚」
 恥ずかしくてつい濁しちゃったけど、もうわかりきっていることだ。
「ちゃんと、好き……」
 そう告げる俺の口を、悠斗くんは少し荒々しく唇で塞いだ。
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