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22.そういえば
しおりを挟む「本当に、レクス以外には何も起こらないのね」
私はアミカが針で指を怪我した際にできた傷に、さっきレクスにやった時と同じように魔法を使おうとしてみた。けれど、結果は何も起こらず。
「魔王様と召喚された運命の伴侶は、本当に特別な存在だと言われていますから。もしかしたら、他にも何かお互いにしかできないことがあるのかもしれませんよ」
アミカは治らなかった傷痕を見ながら、不思議そうな顔をしていた。
「でも、レクスのために私しかできないことがあると思うと、なんだか嬉しかったわ。レクスの傷を癒せるのが私しかいないなんて、なんだかレクスのために産まれてきたみたいな気持ちになりますもの」
「あの、フィオーレ様。そうゆうことは魔王様の前で言うと喜ばれますよ」
レクスの前でこんなこと言えるわけがない。気持ち悪いと思われたくないですもの。
「あれ?そういえば、ヘルトもレクスと一緒に魔物の討伐に行っていたのよね、どうしてヘルトは平然としていたのかしら」
ヘルトはレクスの側近で護衛騎士のはずだ。それなのに、レクスが魔力を使い果たしてヘルトが平然としているというのは、違和感がある。レクスの身に何かある前に、ヘルトが動きそうなのにと思ってしまった。
「ああ、それは」
「俺が人間だからですよ、フィオーレ様」
アミカが答えてくれようとした時、後から別の声が聞こえて振り向く。そこには、突然現れたヘルトが立っていた。
「人間?ヘルトが?」
「え、フィオーレ様、俺のことも魔族だと思っていたんですか?」
言われてから改めてヘルトを見てみると、確かにヘルトに魔族ならあるはずのツノがついていない。背中を見ると、尻尾もついていなかった。
「……本当ですわ」
「あれ、それならもしかして、俺も魔王様に召喚されたってことも聞いてませんか?」
「ええ?そんな、何も知りませんでしたわ」
そんなこと、想像すらしていなかった。アミカも魔族だったし、レクスの側にいつもいるから、私はてっきりヘルトも魔族だと思っていたのだ。
「ちなみに、ヘルトは未来の勇者になるはずだったんですよ」
「勇者?って、有事の際に魔王を倒しに行くとされているあの?」
アミカが補足するように、私を更に混乱させるようなことを言った。ヘルトはレクスに召喚された存在で、勇者で、人間で。
「混乱されているようですが、後で魔王様に詳しく聞いてください。俺が答えるよりいいでしょう。フィオーレ様が仕事をやってくれたおかげで、今夜はすぐに暇になられるでしょうから」
「……ええ、そうするわ」
私はまだ混乱している頭を動かしながら、ヘルトに答えた。
「でも、なんだか嫉妬してしまいますわ。私以外にもレクスの運命の相手がいたってことですもの」
ヘルトは私がレクスの側にいられない時でも、常に側近としてレクスと共に過ごしている。それに、レクスと相性が良い運命の相手というのは、私だけではなかったのだ。それがなんだかとても、悔しかった。
「まあ、そうなりますね」
ヘルトは意地悪な顔で、私にそう言った。なんだかとても腹が立ってきてしまって、でもその感情を必死に隠す。ヘルトはそんな私の様子をしばらく楽しそうに眺めて、クスッと笑った。
「大丈夫ですよ、俺は魔王様の運命の伴侶ではありませんので」
ヘルトはその場からサッサと去っていき、風のようにいなくなってしまった。私は彼の背中を見ながら、レクスよりもヘルトの方が魔王っぽく見えるのは何故だろうと、心の中で思うのだった。
♢♢♢
「ヘルトに聞きましたわ、あの方もレクスが召喚で呼び出したって」
「ああ、フィオーレにはまだ話してなかったか。そうだよ」
その日の夜、私は部屋に訪れてくれたレクスに、昼間聞いた話をしていた。
「もう十年以上前になるのかな。先代の魔王が亡くなった時に、初めて召喚魔法を使ってさ。その時に来てくれたのがヘルトだったんだ」
「そうでしたの……」
私は嬉しそうに話すレクスを見て、なんだかヘルトに嫉妬してしまった。私よりもずっと前から、運命の相手として過ごしていたなんて、やっぱり悔しい。
「魔王の力って膨大で絶対的だから、力の使い方を間違えると魔界が大変なことになる可能性があったんだよ。だから僕が間違えた時に、僕を倒せる実力がある人に側にいてほしかったんだ」
「だから、勇者になる可能性があったヘルトが召喚されたんですね」
「多分そうなんだろうね。ヘルトは既に勇者の短剣を持っていたから。最初は怖かったよ。本でしか見たことがなかった勇者の剣を持った人間が目の前に現れて、僕に向かって一心不乱に剣を振り回してくるんだから」
レクスはまだ幼かった頃のヘルトの姿を思い出し、笑っていた。
想像して思う、怖いに決まっているだろうなと。お互いにとって、死闘を繰り広げる運命にあったかもしれない相手なのだから。
「まあでも、今ではヘルトは僕の右腕だし、不安要素も一つ減ったところはあるかな。なんせ勇者が仲間を引き連れて突然魔界にやってくるなんてことはあり得なくなったし」
「確かにそうですわね」
私は面白くなって、笑ってしまった。勇者は既に魔王と共に魔界を治めているわけだから、仲間を引き連れて魔界に突然やってくることはない。既に魔王の一番近くにいるのだから。
人間界に新しい勇者が現れることもおそらくないだろう。勇者の短剣が魔界にある限り。
「……なんか、フィオーレがヘルトのこと気にしてるの面白くないな」
「え?」
レクスの顔が、なぜか私にゆっくり近づいてくる。キスされそうな距離にまで近づいて、でも、そこでパッと彼の動きは止まった。
「あ、あの、レクス?」
間近にあるレクスの顔を見ながら、私は後ずさることもできずに、そこにいた。
「ごめん、やめとくよ。このままだとフィオーレのことまた抱いてしまいそうだ。昼間散々無理させたのに」
「なっ……」
私は魔力不足で正気ではなかったレクスとの行為を思い出し、顔を赤く染めた。レクスは私の表情を見て、楽しそうに笑った。
「そうだ、仕事のことも本当にありがとう。フィオーレがやってくれたおかげで、今もこうしていられてるから」
「少しでもレクスのためになれたなら、良かったですわ」
「フィオーレ、分かってる?自分がどんなに凄いことしたのか」
私がキョトンとしていると、レクスは私の頭を撫でながら、やっぱり分かってないなと呟いた。
「帳簿つけるのも書類仕分けるのも、孤児院関係のことも、全部普通にできることじゃないんだよ。しかもあの量を数日でやってしまうなんて」
「私がいた世界では、国王が不在の時は王妃が領地経営の代理をしていましたし、教会や孤児院関係の仕事はそもそも王妃の仕事でしたわ」
「それはヘルトに聞いたから知ってるんだけどね」
レクスは少し黙って、私を優しく抱きしめた。
「あの、レクス、どうかしましたか?」
「前に、王太子妃候補としてずっと努力してたって話してくれたよね」
「ええ、報われませんでしたけれど」
私はもうかなり昔のことのように感じるかつての自分を思い出し、レクスの腕の中で目を伏せた。
「ずっと、一人で頑張っていたんだね。フィオーレ。偉かった。フィオーレは、凄いよ。あれだけのことがすぐにできたのは、努力の積み重ねがないとあり得ない」
「それは……」
王太子妃候補に選ばれた時点での、義務でしたから。そう答えようとしたけれど、何故か自分の目からツーッと涙がこぼれた。
自分でも、意味が分からなかった。けれど、私はレクスの腕の中で、ただ泣いていた。だって、頑張ってるとか、凄いとか、今まで言われたことは一度もなかったから。
どんなに勉強を頑張っても、本を読んでも、公爵領のために動いても、父の代わりに帳簿をつけても、誰にも、褒められたことなどなかったのだ。意味がないと笑われることばかりで。
頑張るのも、努力するのも、全部当たり前で。そんなものよりも王太子を誘惑しろと、胸を大きくしろと、そればかり言われて生きてきた。最後は自分がやってきた功績も全て奪い去られ、処刑されることにまでなって。
「ありがとう、ございます」
「うん、僕の方こそ、ありがとう」
レクスは私の背中を、子供をあやすように優しく叩いた。
私はどうしてこんなにレクスに甘やかされているのだろうと頭のどこかで思いながらも、何も言うことはできなくなっていた。
私は涙が止まるまで、レクスに身を預けて甘えていた。
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