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24.プレゼント
「フィオーレ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「結婚式って、分かる?」
私はレクスと一緒に紅茶を飲みながら、そんなことを聞かれていた。
「結婚式というと、教会で神様に永遠の愛を誓う儀式のことかしら。確か、初夜の日に行うのが一般的だったと思いますわ」
「初夜は、終わってるもんね……」
「そ、そうですわね」
私は魔界に召喚された日にそのまま初夜を迎えたことを思い出し、恥ずかしくなってレクスから目を逸らした。
彼は肩を落として、何かを考えるような仕草をしている。
「僕さ、最近フィオーレにいろんなもの貰ってばかりだなって思って。フィオーレが喜ぶことってなんだろうってヘルトに相談したら、結婚式をするのはどうかって言われたんだ」
「それで、結婚式の話を」
「うん。でも、なんだか違う気もして。フィオーレは僕に、何かしてほしいことある?」
レクスにしてほしいことなんて、もう何も思いつかないくらいには甘えさせて貰っている。以前はもっと一緒に過ごせたらいいと思っていたし、何か自分にもっとレクスのためにできることはないかと考えていた。
でも、最近は一緒に過ごせる時間も増えて、仕事の手伝いもできるようになって、こうしてのんびり一緒に過ごす時間が取れている。
「一緒に過ごせる時間が増えただけで私は幸せなので、何も思いつきませんわ」
「それはフィオーレが僕の仕事をやってくれてるからってだけで」
「でも、帳簿付けも書類の仕分けも、元々やっていたことですもの。孤児院関係のことも、やりたくてやっているだけですし」
魔物の討伐が終わり魔王城の外に出れるようになったので、つい最近アミカと孤児院を訪問してきた。バザーで使ってもらえるようにと持っていった布小物はとても喜んでもらえたし、やんちゃな子も多いけれど、子供たちもとても可愛くて。今度読み書きを教える約束もしたし、また孤児院に行くのが楽しみだ。
「私、フィオーレ様のウエディングドレス姿、見てみたいです!」
その時、お菓子を追加で運んできてくれたアミカが、突然口を開いた。
「ああ、すみません。少しお話が聞こえてしまったもので、つい」
「ウエディングドレスって、普段のドレスと何か違うの?」
レクスが振り向いて、アミカに聞いた。
「花嫁衣裳全般のことをウエディングドレスと言うみたいですが、一般的には純白のドレスがそれに当たるそうなんです。魔界には真っ白なドレスって無いので、少し憧れていました」
「そうなの?」
「人間に関する本を読んでいたときに、なんて美しいんだろうって」
アミカはうっとりとした顔をすると、すみません喋り過ぎました、と言って退室してしまった。
「ウエディングドレスには、私も少し憧れがありましたわ。私の住んでいた国では、純白のドレスとタキシードを着て、お互いの目の色の宝石をあしらったアクセサリーを身に着けるんです」
「お互いの瞳の色のアクセサリーか、面白そうだね」
レクスは少し考えて、私に向けて微笑んだ。
「やろうか、結婚式。教会とかはないからここですることになるけど、僕も普段以上に着飾ったフィオーレの姿は見てみたい」
「いいのですか?」
「うん。アミカも興味ありそうだったし、魔界のみんなを城下に集めて僕に伴侶ができたことのお披露目もしよう」
なんだか楽しそうなことになってきたなと思い、私は頬を緩ませた。私も、普段同じような系統の服しか着ないレクスのタキシード姿には興味がある。
自分の瞳の色のアクセサリーを身につけ、タキシードを身を纏ったレクスを想像して、私は胸がときめいた。
アミカに頼んでいろいろと準備しなければと考えると、それだけで楽しい気持ちになった。
「フィオーレ、他にも何か僕にできることがあったら、なんでも言ってね」
「はい。そういえば、私レクスに渡したいものがありましたわ」
私はレクスが魔物の討伐に行っていて不在の間、彼に渡そうとハンカチに刺繍をしていたことを思い出した。なかなか渡すタイミングが見つからず、渡すのも怖くなってしまったりして、ずっと放置してしまっていたのだ。
レクスに受け取ってくださいと言ったら、今なら貰ってくれそうな気がして、勇気を出してみることにした。
私は立ち上がって、ベッドサイドテーブルの引き出しに入れていたハンカチを取り出す。レクスの前にエイッと差し出すと、彼は不思議そうな顔で私を見ていた。
「えっと、これは?」
「受け取って、くださいますか……?」
レクスはラッピングされた袋を私から受け取ると、リボンを解いていく。中から刺繍が施されたハンカチを取り出すと、レクスは驚いた顔をした。
「これ、フィオーレが作ったの?」
「ええ。レクスが不在だった時に、無事を祈って刺繍したものですわ。受け取っていただけると、嬉しいのですけれど……」
下手くそと鼻で笑われ、地面に捨てられてしまうのだろうか。私はかつて王太子にされた行為を思い出し、辛い気持ちが蘇った。レクスにそれをされたら、私は多分、立ち直れない。私は怖くなって、顔を伏せた。
「え、ほんとに貰っていいの?僕が?すごいよフィオーレ、こんなに立派な刺繍、僕見たことないや!」
顔を上げると、レクスがハンカチを広げて、喜びに満ちた表情をしていた。その姿があまりにも綺麗で、幻のようで、私は思わず目をぱちぱちとさせる。
「どうしよう、額に入れて飾ろうかな。だって、フィオーレからの初めてのプレゼントだよ。汚すわけにはいかないし!」
「そ、そんなに喜んでいただけるなら、いくらでも刺繍くらいさせていただきますわ」
「え、ほんとに?」
「はい、だから、できれば持ち歩いていただけたら嬉しいです」
レクスはどうしよう、でも、と言いながら、ハンカチを眺めて嬉しそうにしていた。
「この色とりどりの花の刺繍、なんだかフィオーレみたいで好きだな」
レクスは意識していなかったであろう好きという言葉が、私の頭の中に響いてしまい、私は顔を赤くした。レクスは刺繍が好きだと言ってくれただけなのに、どうしてか、私に言ってくれたように聞こえてしまって。
「ありがとうフィオーレ、大切に使うね」
レクスはそう言って、ハンカチをそっと畳んでポケットに入れた。
「魔王様、そろそろお時間です」
部屋の外からヘルトの声が聞こえてきて、レクスが立ち上がる。
「呼ばれちゃった。もう少しフィオーレと一緒にいたかったのに」
「仕事が終わったら、また一緒にいられますわ。行ってらっしゃいませ」
「そうだね。うん。行ってくる」
レクスが執務室に向かうのを、小さく手を振って見送る。なんてことない光景のはずなのに、私はとても幸せに感じた。
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