ちっぱい令嬢は美声魔王の甘いささやきに溶かされる

優月紬

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25.侍女との会話


「アミカ、さっきはありがとう。ウエディングドレス姿を見たいって言ってくれて」
「私は思ったことを言っただけですよ。すみません、魔王様との貴重なお時間の邪魔をしてしまって」
「嬉しかったわ。私、そのおかげでレクスの素敵な姿を見れそうですもの」

 レクスが去っていった部屋で、私はテーブルの上を片付けにきていたアミカに話しかけた。
 私はまたレクスのタキシード姿を想像して、頬を緩ませてしまう。

「フィオーレ様、自分がドレスを着ることよりも、魔王様の着飾った姿の方が楽しみなんですか?」
「ええ。ウエディングドレスに憧れたこともあったけど、私はほら、胸が平らだもの」

 私は自分の平らな胸に視線を向け、ため息を吐いた。普段着のドレスならともかく、ウエディングドレスのような華やかなものを着るとなると、やっぱり胸は大きい方がいい。

「フィオーレ様に合わせた特注のドレスを用意しますから、その辺は問題ないかと」
「それはもちろん、分かっているわ」

 レクスは私の小さな胸を好きだと言ってくれるから、気にしないかもしれない。けれど、魔界の人達にもお披露目することになると言っていたから、その人達からの視線は、あまり良いものではないような気がしてしまう。
 魔王の伴侶の胸が小さいと、笑いものになることだけは避けたい。レクスの名誉のためにも。

「魔界で暮らす皆にも、魔王の伴侶が私でよかったと思ってもらえるかが、心配で。やっぱり胸は、大きい方がいいでしょう?」
「大丈夫ですよ。フィオーレ様が思っているほど、胸の大きさで人を判断する魔族はいませんから」

 私はアミカのふくよかな胸に視線を向けて、なんだか寂しくなった。本当にそうだと、いいけれど。

「でも、結婚式は楽しみにしているわ。ドレスを着ることも、レクスのいつもと違う姿を見ることも。今度、レクスに渡す私の瞳の色のアクセサリーを選びたいから、手伝ってくれるかしら?」
「もちろんですよ、フィオーレ様」

 アミカは嬉しそうに微笑んだ。ドレスを選ぶ時も一緒にいていいですかと言われたので、もちろんと答える。アミカと話していると、更に楽しみが増していく気がした。

「ねえ、アミカ。変なこと聞いてもいいかしら?」
「はい、何か分かりませんが、どうぞ!」
「レクスって、私のこと、どう思ってると思う?」

 私は最近ずっと、そのことを考えていた。仕事をしている時も、孤児院に行っている時も、どうしてもレクスのことが頭の片隅を離れてくれなくて。レクスにとって私は、どんな存在だろうかと、考えてしまっていた。
 もちろん、運命の相手で、伴侶で、癒しで、それは、分かってる。そうでありたいとも思っている。
 けれど、なんだかそれだけでは足りなくて、もっと他に、別の感情を抱いてほしいと思うようになってしまっていた。

「魔王様はフィオーレ様のこと、とても大切に思っていると思いますよ」
「それは、そうなのだけれど……。レクスが私の小さな胸を気に入ってくれているのも、大切にしてくれているのも、分かっているの」

 アミカは黙って私の言葉の続きを待っていてくれた。なんとなく、言いたいことが伝わっているのかもしれない。

「私、レクスにも私を好きになってもらいたいと、思うようになってしまったの。胸だけじゃなくて、私自身のことを」

 以前アミカに私がレクスに対して抱いている感情が恋だと言われてから、自分がレクスを好きだということは、自覚していた。
 最初は、自覚したからと言って何も困らなかった。レクスは私を大切にしてくれていたし、最近では今まで以上に側にいられたから。
 それなのに、レクスの側にいればいるほど、私はとても贅沢になってしまう。レクスも、私に恋してくれたらいいなどど、思うようになってしまった。

「フィオーレ様、それは当然の感情なので、そんなに悲しい顔で言わないでください」
「ごめんなさい、なんだか切なくなってしまって」

 レクスのような素敵な人は、きっと私に恋などしない。伴侶として大切にしてくれていたとしても、喜ばせようとしてくれていたとしても、きっとそれは自分が召喚した運命の伴侶だからだ。それを勝手に、私が寂しいと思っているだけだから。

「魔王様に直接、聞いてみてください。想いをぶつけるのは私ではなく、魔王様に。案外、魔王様も同じようなことを考えているかもしれませんよ?」

 アミカはクスッと笑って、大丈夫です、と続けた。

「そんなことがあったら、嬉しいですわ。本当に、勇気を出して聞いてみようかしら。今夜にでも。私のことをどう思っていますかって」

 そうしたら、レクスはなんて答えるんだろう。やっぱり、フィオーレは僕の運命の伴侶だよって、ただ事実を言われるのだろうか。
 もし、レクスに私自身のことを好きだと言ってもらえたら。あり得ないと分かっているのに、つい想像してしまう。
 アミカはぜひそうしてくださいと言って、ふわりと笑った。

「そういえばフィオーレ様、魔王様のために刺繍したハンカチって渡せたんですか?」
「ええ。さっき無事に渡せましたわ。喜んでくれて、とても嬉しくて」

 私はハンカチを受け取ってくれた時のレクスのことを思い出し、頬を緩ませた。
 色とりどりの花の刺繍がフィオーレみたいで好きだと、そう言ってくれて、どうしようもなく胸がときめいて。いつか、レクスに私自身を好きだと言ってもらえる日がきたらいい。やっぱり私が思うのは、そんなことばかりだった。

「また何か作ってみようかしら。結婚式の時に使うスカーフに、華やかな刺繍があったら素敵だと思うの」
「そうですね、ぜひ、作ってみてください。喜ばれると思いますよ、魔王様」

 アミカは笑顔を取り戻した私を見て、釣られたようにニコニコと笑っていた。

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