ちっぱい令嬢は美声魔王の甘いささやきに溶かされる

優月紬

文字の大きさ
26 / 34

26.レクスside 拗らせてる


「ヘルト、ちょっと質問があるんだけど」
「なんでしょう」

 僕は執務室で仕事をしながら、気になったことをヘルトに聞いてみた。

「僕って、フィオーレのこと好きだよね?」
「なんですか、いきなり」

 ヘルトは手元の動きを止め、僕の方をじっと見た。

「まあ、そうなんじゃないですか。ご自身の方がよく分かっているでしょう」
「好きって気持ちで合ってるのかが分からなくてさ。恋とかしたことないし、しなくてもいいと思ってたから、自分の気持ちなのに確証を得るのに時間がかかって。合ってるならいいんだけど」

 ヘルトは変なものを見るような目で僕を見た。僕は気にせず、もう一つ話したかったことを話す。

「ねえ見て、これ、フィオーレから貰ったんだよ」
「ハンカチ、ですか?」
「そう、僕が討伐に行ってる間、僕の無事を願って作ってくれたんだって」

 僕はポケットからさっきフィオーレにもらったばかりのハンカチを取り出し、色とりどりの花の刺繍を見ながら喜びを噛み締めた。

「すごいですね、俺こんな大層な刺繍、見たことありません」
「でしょ?僕もだよ。びっくりしちゃった」

 フィオーレの施した刺繍はとんでもなくクオリティが高かった。これを僕のために作ってくれたと思うと、それだけでも嬉しい。一生の宝物だ。

「僕ばっかり、どんどんフィオーレのこと好きになっていく気がするよ」

 僕は、気がつくとずっとフィオーレのことを考えている。フィオーレに、次々に幸せを与えられている。きっと僕の頭がこんなにもフィオーレのことでいっぱいだなんて、彼女は想像すらしないだろう。

「フィオーレの純白ドレス姿も、楽しみだなあ」
「あれ?あまり乗り気でなかったように見えましたが、何かあったんですか」
「フィオーレと話してたら、気が変わったんだ。純白のドレスを着たフィオーレを想像したら、絶対綺麗だなって思って。それに、お互いの瞳の色のアクセサリーを身につけるんだって。僕の色を見に纏うフィオーレなんて、想像しただけでどうにかなってしまいそうだよ」

 僕は普段以上に美しくなるであろう、フィオーレの花嫁姿を想像した。早くフィオーレにウエディングドレスを贈らなければ。式の日程も決めないといけないし、忙しい。

「なんだか最近ずっと嬉しそうですね。魔王様」
「フィオーレに会える時間が増えたからね」

 フィオーレに会う時間が増えたのは、フィオーレが僕の仕事を手伝ってくれているからだ。そう、この幸せすらも、フィオーレに貰ったものだ。僕は最近、あまりにもフィオーレにいろんなものを与えられすぎている。

「今までは全部魔王様が一人でやっていたことも、フィオーレ様が手伝ってくれるようになりましたからね」
「孤児院関係の仕事と帳簿がなくなっただけで、こんなに楽になるなんて思わなかったよ。ヘルトも事務作業の時間が減って演習場に行く頻度が増えたから、魔王軍のレベルも格段に上がってるし、いいことばかりだ」

 帳簿付けはヘルトもやってくれていたから、その分ヘルトにも時間ができた。ヘルトが演習場を見に行く時間を増やしてくれたおかげで、魔王軍や討伐隊の力量が上がっている。次に魔物が現れることがあったとしても、僕が現場に行かなくても大丈夫そうなくらいに。

「フィオーレ様のおかげですね」
「すごいでしょ、僕の伴侶なんだよ」
「存じております」

 ヘルトは自慢げに笑う僕を見て、面白そうに笑っていた。

「ああ、フィオーレも僕のこと好きになってくれたらいいのに」
「……今、なんて?」
「だから、フィオーレにも僕のことを好きになってもらいたいって言ったの」

 きっとフィオーレは、僕に召喚されて魔界にやってきて、運命の伴侶だからと言われて、それでいきなり結婚させられて、戸惑ったはずだ。
 僕の見た目や声が好きだと最初から言ってくれていたけれど、それはかつての僕がフィオーレに対してそうだったように、彼女も僕自身が好きだったわけではない。

「僕の見た目とか声以外も、好きになってくれたらいいのにな」
「あの、魔王様。お言葉ですが、好きでもない相手が媚薬におかされていると知っていてわざわざ会いに行くなんて、誰もしないのではありませんか?」
「うーん、どうだろう。伴侶だから、結婚したからって理由で、フィオーレは僕に抱かれることを義務だと思っているかもしれないよ」

 ヘルトはなんとも言えない顔で僕を見ていたけど、僕はそう思っている。違ったらいいなと思ってもいるけれど。

「最近、考えていたんだ。フィオーレが魔界に召喚されてきた時に、あまり動じなかった理由とか、いきなり結婚だ初夜だって言われても、全て受け入れてくれた理由を」
「そんなことを考えていたんですか?」
「うん。結局それって、フィオーレが公爵令嬢だったからじゃないかなってところに落ち着いた」

 最近のフィオーレを見ていて、思う。彼女はとても、人間の貴族令嬢として完璧だ。所作や能力面もそうだけど、考え方や行動全てが、人間の貴族令嬢と呼ばれる存在の見本のようで。
 それに、僕と初夜を迎えた後すぐ、魔王の伴侶とは何かを調べていたと、最近アミカから聞いた。その行動も、僕と同じように結婚を義務や政治の一つとして捉えている部分があったからな気がする。

「当人同士の問題なので俺に言えることは何もありませんが、魔王様もフィオーレ様も、かなり拗らせていますね」
「拗らせてるって、なにさ」
「気になることは、フィオーレ様に直接聞いてくださいね」

 僕はヘルトが作業に戻るのを眺めながら、フィオーレに僕のこと好きかと聞いたら、彼女は一体なんて答えるのか、考えてみた。
 流されただけだったとしても、私も好きですわ、なんて言ってくれたら嬉しいのに。

「……聞いてみようかな、今夜」

 でも、分からないとか好きではないって言われたら、今の僕はきっと、立ち直れない気がする。
 僕はいつからこんなに弱くなったんだろうと思いながら、ひとまず目の前にある書類を確認して、フィオーレとの式の準備を進めることにした。

あなたにおすすめの小説

好きなものは好きなんです!

ざっく
恋愛
うっすらと、前世の記憶があるリオ。そのせいで、この世界では、自分の容姿は好ましいものであることとか、自分が好きな・・・筋肉が、一般的な嗜好とかけ離れていることに気が付いていない。ある日、舞踏会で、理想の方を見つけてしまう。一生懸命淑女らしく振舞おうとするリオと、それに振り回される公爵様のお話です。 アルファポリス様より書籍化しました。本編は引き下げています。 お引っ越ししてきただけです。内容は全く変わっていません。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される

狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった 公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて… 全編甘々を目指しています。 この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。