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26.レクスside 拗らせてる
「ヘルト、ちょっと質問があるんだけど」
「なんでしょう」
僕は執務室で仕事をしながら、気になったことをヘルトに聞いてみた。
「僕って、フィオーレのこと好きだよね?」
「なんですか、いきなり」
ヘルトは手元の動きを止め、僕の方をじっと見た。
「まあ、そうなんじゃないですか。ご自身の方がよく分かっているでしょう」
「好きって気持ちで合ってるのかが分からなくてさ。恋とかしたことないし、しなくてもいいと思ってたから、自分の気持ちなのに確証を得るのに時間がかかって。合ってるならいいんだけど」
ヘルトは変なものを見るような目で僕を見た。僕は気にせず、もう一つ話したかったことを話す。
「ねえ見て、これ、フィオーレから貰ったんだよ」
「ハンカチ、ですか?」
「そう、僕が討伐に行ってる間、僕の無事を願って作ってくれたんだって」
僕はポケットからさっきフィオーレにもらったばかりのハンカチを取り出し、色とりどりの花の刺繍を見ながら喜びを噛み締めた。
「すごいですね、俺こんな大層な刺繍、見たことありません」
「でしょ?僕もだよ。びっくりしちゃった」
フィオーレの施した刺繍はとんでもなくクオリティが高かった。これを僕のために作ってくれたと思うと、それだけでも嬉しい。一生の宝物だ。
「僕ばっかり、どんどんフィオーレのこと好きになっていく気がするよ」
僕は、気がつくとずっとフィオーレのことを考えている。フィオーレに、次々に幸せを与えられている。きっと僕の頭がこんなにもフィオーレのことでいっぱいだなんて、彼女は想像すらしないだろう。
「フィオーレの純白ドレス姿も、楽しみだなあ」
「あれ?あまり乗り気でなかったように見えましたが、何かあったんですか」
「フィオーレと話してたら、気が変わったんだ。純白のドレスを着たフィオーレを想像したら、絶対綺麗だなって思って。それに、お互いの瞳の色のアクセサリーを身につけるんだって。僕の色を見に纏うフィオーレなんて、想像しただけでどうにかなってしまいそうだよ」
僕は普段以上に美しくなるであろう、フィオーレの花嫁姿を想像した。早くフィオーレにウエディングドレスを贈らなければ。式の日程も決めないといけないし、忙しい。
「なんだか最近ずっと嬉しそうですね。魔王様」
「フィオーレに会える時間が増えたからね」
フィオーレに会う時間が増えたのは、フィオーレが僕の仕事を手伝ってくれているからだ。そう、この幸せすらも、フィオーレに貰ったものだ。僕は最近、あまりにもフィオーレにいろんなものを与えられすぎている。
「今までは全部魔王様が一人でやっていたことも、フィオーレ様が手伝ってくれるようになりましたからね」
「孤児院関係の仕事と帳簿がなくなっただけで、こんなに楽になるなんて思わなかったよ。ヘルトも事務作業の時間が減って演習場に行く頻度が増えたから、魔王軍のレベルも格段に上がってるし、いいことばかりだ」
帳簿付けはヘルトもやってくれていたから、その分ヘルトにも時間ができた。ヘルトが演習場を見に行く時間を増やしてくれたおかげで、魔王軍や討伐隊の力量が上がっている。次に魔物が現れることがあったとしても、僕が現場に行かなくても大丈夫そうなくらいに。
「フィオーレ様のおかげですね」
「すごいでしょ、僕の伴侶なんだよ」
「存じております」
ヘルトは自慢げに笑う僕を見て、面白そうに笑っていた。
「ああ、フィオーレも僕のこと好きになってくれたらいいのに」
「……今、なんて?」
「だから、フィオーレにも僕のことを好きになってもらいたいって言ったの」
きっとフィオーレは、僕に召喚されて魔界にやってきて、運命の伴侶だからと言われて、それでいきなり結婚させられて、戸惑ったはずだ。
僕の見た目や声が好きだと最初から言ってくれていたけれど、それはかつての僕がフィオーレに対してそうだったように、彼女も僕自身が好きだったわけではない。
「僕の見た目とか声以外も、好きになってくれたらいいのにな」
「あの、魔王様。お言葉ですが、好きでもない相手が媚薬におかされていると知っていてわざわざ会いに行くなんて、誰もしないのではありませんか?」
「うーん、どうだろう。伴侶だから、結婚したからって理由で、フィオーレは僕に抱かれることを義務だと思っているかもしれないよ」
ヘルトはなんとも言えない顔で僕を見ていたけど、僕はそう思っている。違ったらいいなと思ってもいるけれど。
「最近、考えていたんだ。フィオーレが魔界に召喚されてきた時に、あまり動じなかった理由とか、いきなり結婚だ初夜だって言われても、全て受け入れてくれた理由を」
「そんなことを考えていたんですか?」
「うん。結局それって、フィオーレが公爵令嬢だったからじゃないかなってところに落ち着いた」
最近のフィオーレを見ていて、思う。彼女はとても、人間の貴族令嬢として完璧だ。所作や能力面もそうだけど、考え方や行動全てが、人間の貴族令嬢と呼ばれる存在の見本のようで。
それに、僕と初夜を迎えた後すぐ、魔王の伴侶とは何かを調べていたと、最近アミカから聞いた。その行動も、僕と同じように結婚を義務や政治の一つとして捉えている部分があったからな気がする。
「当人同士の問題なので俺に言えることは何もありませんが、魔王様もフィオーレ様も、かなり拗らせていますね」
「拗らせてるって、なにさ」
「気になることは、フィオーレ様に直接聞いてくださいね」
僕はヘルトが作業に戻るのを眺めながら、フィオーレに僕のこと好きかと聞いたら、彼女は一体なんて答えるのか、考えてみた。
流されただけだったとしても、私も好きですわ、なんて言ってくれたら嬉しいのに。
「……聞いてみようかな、今夜」
でも、分からないとか好きではないって言われたら、今の僕はきっと、立ち直れない気がする。
僕はいつからこんなに弱くなったんだろうと思いながら、ひとまず目の前にある書類を確認して、フィオーレとの式の準備を進めることにした。
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