3 / 7
高校時代①
しおりを挟む
放課後の教室は、まだ人が残っていた。
受験が近づき、机の上には問題集や赤本が積み重なっている。
月城悠真の周りにも、自然と人が集まっていた。
「だから、この条件をそのまま式に入れると詰まるんだって。」
月城は、クラスメイトのノートを覗き込みながら言う。
自分のノートの余白に、小さく図を書き足した。
「一回、対称性だけ抜き出して考えてみ。」
「あ、ほんとだ……。」
「そこ気づけば、あとは式を解いていくだけ。」
説明は淡々としている。
声を張るわけでも、得意げになるわけでもない。
それでも、聞いている側は誰も口を挟まない。
「なるほどなあ。」
「そんな考え方あるんだ。」
感心した声が上がる。
月城は、少しだけ口元を緩めた。
「見方を変えるだけで、簡単になるだろ。おもしろいよな。」
その様子を、廊下の向こうから久世透は見ていた。
カバンを抱えたまま、月城の教室の前で足を止める。
――楽しそうだな。
そう思った瞬間、
胸の奥が、わずかにざわついた。
月城は、人付き合いが上手いタイプじゃない。
それを、久世は知っている。
なのに今は、クラスメイトと自然に笑って話している。
久世は、自分が迎えに来た理由を改めて考えた。
――約束はしていない。
ただ、放課後は自然と一緒に帰っていた。
それが、いつの間にか日課になっていただけだ。
それだけのはずだ。
それなのに、教室の中にいる月城を見て、少しだけ、落ち着かない。
しばらくして、人が散り始めた。
月城がノートを閉じ、鞄を肩にかける。
そのタイミングで、久世は声をかけた。
「悠真。」
月城が振り向く。
「あ、透。来てたんだ。」
「うん。」
「そっか。」
それだけで、話は通じる。
月城は教室を出て、久世の隣に並んだ。
「何してたの。」
「A大の数学。難しいのが出ててさ。」
「教えてたんじゃないの。」
「んー、まあ。聞かれたから一緒に解いてただけ。」
月城は、少し楽しそうに言った。
さっきまで考えていた数式が、まだ頭の中で転がっているみたいだった。
「ああいうの、きれいに解けると気持ちいいじゃん。」
「へぇ。」
久世はそれ以上何も言わなかった。
月城がクラスメートと話していたことより、今も問題の続きを考えていそうな横顔のほうが、ずっと月城らしかった。
久世は、さっきまで胸に残っていたざわつきが、少しずつ引いていくのを感じた。
廊下を並んで歩く。
歩幅は、いつも通り。
月城が誰かと話していたことが、なぜ気になったのか。
理由はまだ分からない。
ただ、こうして隣を歩いている今のほうが、落ち着く。
久世は、それを言葉にする必要はないと思った。
このあと、二人で一緒に過ごす時間がある。
それだけで、十分だった。
受験が近づき、机の上には問題集や赤本が積み重なっている。
月城悠真の周りにも、自然と人が集まっていた。
「だから、この条件をそのまま式に入れると詰まるんだって。」
月城は、クラスメイトのノートを覗き込みながら言う。
自分のノートの余白に、小さく図を書き足した。
「一回、対称性だけ抜き出して考えてみ。」
「あ、ほんとだ……。」
「そこ気づけば、あとは式を解いていくだけ。」
説明は淡々としている。
声を張るわけでも、得意げになるわけでもない。
それでも、聞いている側は誰も口を挟まない。
「なるほどなあ。」
「そんな考え方あるんだ。」
感心した声が上がる。
月城は、少しだけ口元を緩めた。
「見方を変えるだけで、簡単になるだろ。おもしろいよな。」
その様子を、廊下の向こうから久世透は見ていた。
カバンを抱えたまま、月城の教室の前で足を止める。
――楽しそうだな。
そう思った瞬間、
胸の奥が、わずかにざわついた。
月城は、人付き合いが上手いタイプじゃない。
それを、久世は知っている。
なのに今は、クラスメイトと自然に笑って話している。
久世は、自分が迎えに来た理由を改めて考えた。
――約束はしていない。
ただ、放課後は自然と一緒に帰っていた。
それが、いつの間にか日課になっていただけだ。
それだけのはずだ。
それなのに、教室の中にいる月城を見て、少しだけ、落ち着かない。
しばらくして、人が散り始めた。
月城がノートを閉じ、鞄を肩にかける。
そのタイミングで、久世は声をかけた。
「悠真。」
月城が振り向く。
「あ、透。来てたんだ。」
「うん。」
「そっか。」
それだけで、話は通じる。
月城は教室を出て、久世の隣に並んだ。
「何してたの。」
「A大の数学。難しいのが出ててさ。」
「教えてたんじゃないの。」
「んー、まあ。聞かれたから一緒に解いてただけ。」
月城は、少し楽しそうに言った。
さっきまで考えていた数式が、まだ頭の中で転がっているみたいだった。
「ああいうの、きれいに解けると気持ちいいじゃん。」
「へぇ。」
久世はそれ以上何も言わなかった。
月城がクラスメートと話していたことより、今も問題の続きを考えていそうな横顔のほうが、ずっと月城らしかった。
久世は、さっきまで胸に残っていたざわつきが、少しずつ引いていくのを感じた。
廊下を並んで歩く。
歩幅は、いつも通り。
月城が誰かと話していたことが、なぜ気になったのか。
理由はまだ分からない。
ただ、こうして隣を歩いている今のほうが、落ち着く。
久世は、それを言葉にする必要はないと思った。
このあと、二人で一緒に過ごす時間がある。
それだけで、十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
交際0日婚の溺愛事情
江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。
だから緩やかに終わりを探して生きていた。
──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。
誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。
そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。
■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。
■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる