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高校時代②
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教室を出ると、廊下は少し蒸した空気が残っていた。
夏の終わり。
部活を引退した生徒が増え、放課後の校舎は、受験生のための時間に変わりつつあった。
月城の前に、久世が立っている。
「学習室、行く?」
「いいよ。」
それだけで話は通じる。
月城は自然に久世の隣に並んだ。
学習室の扉を開くと、
中はすでに多くの生徒で埋まっていた。
机に向かう背中が、静かに並んでいる。
空いていたのは、奥のほうの二席だけだった。
二人はそこに並んで座る。
久世が、問題集を開く。
「ここ。」
声を落として、ページを指さす。
月城は身を乗り出し、同じページを覗き込んだ。
「ああ、これは式をあの公式を当てはめるやつ。」
小声で言いながら、ノートに式を書く。
ペン先の動きに、迷いはない。
「でも公式を当てはめるより、面白い解き方あると思うんだよな。」
楽しそうな声も、きちんと抑えられている。
周りには、同じように机に向かう受験生たち。
ページをめくる音と、鉛筆の擦れる音だけが続く。
久世は、月城の説明を追いながら、
ふと、肩が触れそうな距離に気づく。
けれど月城は、気にする様子もなく、式の続きを書いている。
しばらくして、時計を見る。
「……もう、こんな時間か。」
壁の時計は、20時前を指していた。
そのとき、学習室の扉が静かに開く。
見回りの教師が入ってくる。
「そろそろ下校時刻だぞ。」
小さく声をかけながら、机の間を歩いていく。
「続きは、また明日。」
月城がノートを閉じて言った。
「うん。」
二人は静かに席を立つ。
校舎を出ると、空気はすっかり夜だった。
昼の名残はなく、風が少し涼しい。
並んで歩き出す。
駅までの、いつもの道。
放課後はいつも、こうして一緒に帰っていた。
それが特別だと思ったことはない。
ただ、当たり前だった。
選ばれなくてもいい。
特別にならなくてもいい。
ただ、こうして並んでいられるなら。
それでいいと、思っていた。
夏の終わり。
部活を引退した生徒が増え、放課後の校舎は、受験生のための時間に変わりつつあった。
月城の前に、久世が立っている。
「学習室、行く?」
「いいよ。」
それだけで話は通じる。
月城は自然に久世の隣に並んだ。
学習室の扉を開くと、
中はすでに多くの生徒で埋まっていた。
机に向かう背中が、静かに並んでいる。
空いていたのは、奥のほうの二席だけだった。
二人はそこに並んで座る。
久世が、問題集を開く。
「ここ。」
声を落として、ページを指さす。
月城は身を乗り出し、同じページを覗き込んだ。
「ああ、これは式をあの公式を当てはめるやつ。」
小声で言いながら、ノートに式を書く。
ペン先の動きに、迷いはない。
「でも公式を当てはめるより、面白い解き方あると思うんだよな。」
楽しそうな声も、きちんと抑えられている。
周りには、同じように机に向かう受験生たち。
ページをめくる音と、鉛筆の擦れる音だけが続く。
久世は、月城の説明を追いながら、
ふと、肩が触れそうな距離に気づく。
けれど月城は、気にする様子もなく、式の続きを書いている。
しばらくして、時計を見る。
「……もう、こんな時間か。」
壁の時計は、20時前を指していた。
そのとき、学習室の扉が静かに開く。
見回りの教師が入ってくる。
「そろそろ下校時刻だぞ。」
小さく声をかけながら、机の間を歩いていく。
「続きは、また明日。」
月城がノートを閉じて言った。
「うん。」
二人は静かに席を立つ。
校舎を出ると、空気はすっかり夜だった。
昼の名残はなく、風が少し涼しい。
並んで歩き出す。
駅までの、いつもの道。
放課後はいつも、こうして一緒に帰っていた。
それが特別だと思ったことはない。
ただ、当たり前だった。
選ばれなくてもいい。
特別にならなくてもいい。
ただ、こうして並んでいられるなら。
それでいいと、思っていた。
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