きもちいいあな

松田カエン

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獣軍連邦潜入編

86.濃霧の中

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 思案している態度は、いつものゲスな素振りとは一線を画していた。なんだというのだ。多少私の態度が乗り気でないぐらいで。
 お前がド下手で遅いから、搾り取っているだけであって、いつも別にノリノリで騎乗位やイラマチオをしているわけではないぞ。

「はぁあ……なんかあったなお前。ヒュギル様呼ぶぞぉ?」
 その言葉にびくっと私は肩を跳ねさせた。
「ま、待て!私は何もない。なんともない。……普通に交尾をすればよいのだろう?ほら、来い」

 今ヒュギル様を呼ばれて、頭を見られたら、どうなるかわからない。私は何かの……誰かの記憶が消えている。ユストゥスのことは覚えているが、ヒュギル様が予定を前倒ししてしまうかもしれない。そうすれば私は、あの狼のことも、忘れてしまう……!

「ほら、フィルジ。舐めてやる。私の口淫は、好きだろう?口に出してもいい。だからっ」

 男の下半身に縋りついて、ベルトを外して引っ張り出したペニスを口に咥える。小さい蝙蝠の時と違って、大きい状態だと喉奥まで入れないと、すべて飲み込むことができない。
 だが、フィルジは私の喉で締め付ける感覚が好きだったはずだ。口で愛撫して育ててやる。裏筋を舐め上げ、唾液で濡らして、陰嚢を優しく揉みこむ。ユストゥスに教わった玉と穴の中間地点をぐりぐりと刺激してやれば、私の頭を掴んで、腰が揺れた。掴まれた耳が痛い。痛いが、これでいい。

「ぅおっ、おっあっこの……っ」

 ぎし、っと身体に急な圧がかかった。身動きが取れない。私は驚愕の面持ちで男を見上げる。開いた口の中から、ずるりとそそり勃ったペニスが抜けていき、私は口を閉じられぬまま唾液を零した。

「ぅうっ……っとに、あのなぁ。俺はこれでも、ヒュギル様の部下なんだからなぁ?餌やりだって言いながらぁ、お前のちょーし、見てんだよぉ。わかるかぁ?」
「っいや。いやだ。呼ばないでくれ。ユストゥスをわす、わすれたく、ない……いやっ」

 どうにか喋れるようになったが、身体の自由は聞かなかった。拘束呪文も使わなかったが、私を取り巻く濃密な魔力を感じる。まだ、まだ大丈夫。フィルジがご主人様を呼んだ気配はない。大丈夫、大丈夫……っ。

「クーちゃん」
「ひぃっ!」

 少し甲高い声をかけられて、私は悲鳴を上げてしまった。振り返りたいのに動けない。そんな。フィルジは、なにも、なんの素振りも見せなかった。それなのに。
 ととと、と軽い足音を響かせて、身動きの取れない私の前に回ってきたその姿は、紛れもなくヒュギル様だった。どうして。ドアの空く音も聞こえなかったのに!

「そこまで怯えられると、ちょっと複雑……でも仕方ないね。いい子だから、大人しく頭見せてごらん。フィルジはいつまでもペニス出してないで、一旦閉まって。部下のイチモツなんて見たくないね。フィルジがクーちゃんみたいな男の娘なら考えるけど」
「いや、それは俺の方からお断りします」
「お前ぐらいだね、ボクにそんな口叩くの。ほら、クーちゃんいい子いい子……」
「あ、……ぅ、あ……」

 頭を撫でられるたびに、思考が霞がかり、ヒュギル様への好意が膨らんでいく。にへら、と笑みを浮かべると、ご主人様も微笑み返してくれた。好き。大好き。ああ、私のご主人様はなんて可愛らしい方なのだろうか。

「さあ、クーちゃん」
「はいっ」

 靴を脱いでベッドに上がったヒュギル様が、正座をした膝の上をポンと叩く。私もいそいそと上がり、膝に頭を乗せるように横たわった。周辺に綺麗な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、くるくると激しく回りだす。回る速度に合わせて、ふわりと光が散らばるのが幻想的で綺麗だった。

「クーちゃん………なんっでこんなに記憶がずたずたになってるんだね……?なんでここ数日で加速度的に症状が悪化してるの??圧倒的天才のボクだから、ひとまずの応急処置ができるけどね!これほっといたら頭パーンするよ!?なんで悪化させちゃうの!!」
「申し訳ありません……」

 大好きなヒュギル様に怒られてしまった。うう……。なぜ、と言われても、今の霞がかった頭では、何も思い出せない。ただ、ただひどく、苦しいまでの罪悪感と、泣きたくなるような寂しさを、胸が覚えている。

「ああ……うん、そっか……大斧のドゥシャンと、狐の、記憶に続く糸が途切れてるね……ああもう、どこもぶつ切りだらけじゃないか。魅了解除すれば、もう少しもちそうなんだけど、そうすると真っ先に殺されそうなのが辛いしね……」
「ヒュギル様ぁ。こいつさっさと連れて行って、記憶取っちまう方がいいんじゃないっすかぁ?」

 手持ち無沙汰に私の部屋の中を物色していた肉棒が、そんなことを言う。それに対してご主人様はこめかみを抑えたまま、首を横に振った。何やらひどく悩んでいるようである。どうしたのだろう、お慰めしたい。
 私が身体を起き上がらせると、ご主人様は邪魔せずに動かさせてくれた。ただ。私の頭周辺を、手のひら大の魔法陣が三つほど、くるくると飛び回る。綺麗だが少し邪魔だ。虫を追いやるように手を振ってみても、突き抜けるばかりで離れない。チッ。

 仕方なく魔法陣はそのままに、今度は逆にヒュギル様を、私が膝に乗せて抱き締める。ちょっと強めに抱きつかれるのがいいらしい。横向きがいいといわれたので横向きにしたら、くりくりと小さな手で私の乳首を弄りだした。

「駄目だね。クーちゃんを今連れていくとなると、どうしてもGMにバレるね。探知魔具が破壊されたイベント開始後のどさくさに紛れて出るのが、連れ出すには一番いいね」
「んっ」

 思考する際の手慰みに扱われる私の乳首は、引っ張ったりつねられたりしている。ご主人様は全くただ遊んでいるようなのに、私ばかりが呼吸を乱していた。

「別にヒュギル様なら、バレてもいいっしょぉ?元々そっち側なんですし。それに肉爆弾一匹連れてったところで、盤上は変わりゃしないっすよぉ」
「……お前意外に、クンツのこと気に入ったじゃないか」
「そりゃまあ。俺、物には愛着持つ方なんで」

 肉棒がしれっと告げているが、絶対嘘だ。よくまあ白々しいことを口にする。黙って聞いている私でもそう思ったのだ、ご主人様も信じてはいなさそうだった。

「ふうん?でも駄目だね。ボクの計画にはクーちゃんが不可欠なんだもの。説明しただろう」
「まあ……でもあの話、本気っすかぁ?」
「本気も本気。大まじめだね。クーちゃんが一番必要だし、それからクーちゃんのお相手に、獣人は絶対必要だね。別にあの灰色狼でなくてもいいけど……ふふ、相思相愛だもの、引き剥がしちゃ可哀想だね。後は……あのスパイ君に准将閣下もいたらいいかもしれない。でも一番大事なのは、クーちゃんの身体と精神だ。この子がいないと始まらないね。ボクの理想を現実化するために、クーちゃんは何が何でも、役に立ってもらう。ね、クーちゃん」

 甘い声で名を呼ばれた。さえずるような愛らしい声をうっとり聴いていた私は、大きく頷く。
「私の全てはご主人様のものだ。なんでも貴方の望む通りにしよう」
 だって大好きなご主人様のためだ。私のことは、どのように扱ってもらっても構わない。ご主人様のお役に立てるのが、私の使命だ。

 張り切る私に、ぎゅっと乳首を引っ張りながら、ヒュギル様が笑った。

「ふふ。可愛いねえボクのクーちゃんは。……どうする?クーちゃんボクと一緒に、もう魔界行こっか?クーちゃんが行くというなら、もう連れていくね。いいよね?もう狼とは二度と会えなくなるけど」
「……」

 はい。もちろんです。ご主人様。と答えるべきところなのに、なぜか言葉が出なかった。頭の周囲に浮かんだ魔法陣が回転を速めていく。ばちばちと散る火花のような光に、肉棒は目を細め、ご主人様は笑みを深めた。

「あはは冗談だよ。クーちゃん本当に狼のことを想ってるんだね」
「もうし、わけ……」

 頭痛は起こらないが、思考がまとまらない。狼が誰のことだったか、深く考えようとすると意識が朦朧としてくる。

「別に式なんて、本当はボクはどうでもいいけど。クーちゃんがボクに対して、嫌な感情を持つのは良くないからね。ぎりぎりまで調整するね。ああボクって本当に優しいご主人様!」
「っは、い……ひゅぎる、さ、ま……は、すばら、しいごしゅじ……」
「うわあー言わせてるぅ」
 やだやだ、と肩を竦めた肉棒に、ヒュギル様は楽しそうに笑っただけだった。

「クーちゃん。記憶を保たせるために、この魔法陣と同じ効果を持つサークレットを付けるから、外さないようにね。フィルジも、外さないように。頑張って式の準備するんだよ」
「……はい」

 ご主人様は私の頭に何かを付けたが、自分では見えない。わずかにそわそわしていると、鏡の前に立つように言われた。覚束ない足取りのまま、ベッドを下りて鏡の前に立つ。
 見れば、細いゴールドスクリューチェーンが頭に嵌っていた。ぎゅんぎゅん回っていた魔法陣が、そのチェーンに吸い込まれていく。ぼんやりとしたまま自分の姿を見やる。裸のままで、頭にはサークレット。手首には二本の細いブレスレット。なぜか履いたままの靴下。

 思考がまとまらないし、心がぞわぞわしている。これを恐怖心と言うのだということは、理解しているが、どうして自分が怯えているのかも、あまり理解できない。ただ、漠然とベールを作らなければいけない、ということだけが頭に残っている。それを作るのかの理由は、霞んで、少しも思い出せなかった。

「さてと、ボクはダーヴィドに説明しに行ってくる。クーちゃんは部屋に隔離しておいてもらわないといけないし、外にいるちゃんにも、クギ差さないとね。フィルジは今日は餌やり中止でもいいね。クーちゃんずいぶんたっぷり食べさせてもらったみたいだし」
 ベッドから降りたヒュギル様が、ぽんぽんと私の下腹部を撫でた。

「中止ってことはぁ、餌やりしてもいいってことっすかぁ?」
「したいんなら問題ないね。でも意識レベルを極端に抑えてるから、反応鈍いよ?」

 会話がすべて右から左へと流れていく。ただでくの坊のように突っ立ったままの私の腕を掴むと、フィルジはそのまま引っ張って自分の腕の中に収めた。

「さっき中断しちまったんで。まあ出来の悪いダッチワイフと思えばやれますよぉ」
「あっははは!フィルジがエッチ中断してまで、ボクを呼ぶぐらいには気に入ってるんだ?……クーちゃんは、最高級の、ボクの愛玩動物ペットだから、そこのところ、間違えないでね」
「……うす」

 ぎらっと、わずかに目をぎらつかせたヒュギル様に、フィルジは首を竦めながら頷く。その答えに満足したのかどうかはわからないが、現れた時と同様にふわりと姿を消した。

「ヒュギル様もわかってねえなぁ。こいつが口うるさく騒いでんのをねじ伏せてやんのが、最高に面白いのに」
 ぶつぶつとぼやきながら、肉棒は私を乱雑にベッドに突き飛ばす。ぐったりと横たわった私はのろのろと顔を上げた。ベッドに上がってきた男が服を脱ぎ捨て、のしかかってくる。それをぼんやりと見上げた。

「おーい、クンツ。俺がわかるかぁ?」

 ぺちぺちと頬を叩きながら顔を覗き込んでくる。目つきの悪さは誰かを彷彿とさせるが、大きい蝙蝠は目鼻立ちは整っていてまあまあ見れる顔をしている。私にとってはおちんぽの大きさや長さの方が重要だが。

「……にくぼう」
 ひとまず問われたので答える。すると顔をしかめられた。なんなのだ。
「フィルジだ、ほら言ってみろ」
「にく、ぼう」
「フィルジ」
「にくぼう」
「おっまえなあ……」
「おまんこ、するのだろう?」

 緩慢な動きで、足を開き、膝裏に腕を入れて身体を晒す。とろんとした眼差しを向けると、男が青ざめた。わかりにくいが、男の赤面というのは、赤くなるわけではなく、青くなるらしい。
 血が青いからだと言われたが、そんなまさかと笑い飛ばした。確かに肌は青みかがってはいるが、血が青では、まるで魔族ではないか。どこからどう見ても大きなだけの蝙蝠なのに、変なことを言うのだ、この男は。

 無言で指を二本、私に付き出してくる。足を広げたまま、私はその指にねっとりと舌を這わせた。唾液を絡ませて、男根に見立てて頭を前後に揺さぶる。ぢゅっと引き抜かれると、すぐに後孔に押し込まれた。
 ぐちゅぐちゅとかき回されて、息が弾む。気持ちよさもあるが、全てがどうにも霧に包まれていて、曖昧だった。

「……」
「声出せっての」
「あ、あ……あ……」

 こりこりと前立腺を擦り上げ、ナカを激しく責め立ててくる。半勃ち程度に収まったペニスは、身体の揺れに合わせてぷらぷらと力なく揺れた。

「くっそぉ……マジで反応鈍い!外してえ!」

 男の手が私の額に着けられたサークレットに伸びる。が、その手を私は掴んだ。これは、外したら駄目なのだ。ご主人様がそう言っていた。だから駄目だ。
 眉間にしわを寄せた男は、指を引き抜くと早急におちんぽを私のおまんこに収めながら、手を私の頭上に伸ばした。枕と毛布の下から、私が隠していた狼ぬいを引っ張り出す。

「これ、破っちまうぞ?」
「……」

 言われていることは頭を滑る。それでもどうにか首を横に振ることは出来た。だめだ。やめてくれ。それは私の大事なものなのだ。
 両手をのろのろと伸ばし、ぬいぐるみを掴むと、肉棒は大きく舌打ちしながら、手を離してくれた。このまま抱き込んでおきたいが、汚れるのは絶対に嫌だ。頭の上に緩慢な動きのまま置いておくと、視界が暗くなる。気づけば、男が覆いかぶさってきていた。

 顎を掴まれ、口を割られる。そのまま、唇を重ねられた。差し入れられた舌に自分の舌を絡める。自分でもよくわかるほど、動きが鈍い。

「は……ぅ、ん」
「……」

 よくわからないが、肉棒は苛立っているようだった。不思議に思う。私が自分勝手に動くたびになにかと突っかかってきたくせに、それこそ今なら好きに私を使だろうに、面白くもなさそうな顔で腰を振っている。

 ほどなくして達すると、すぐさま引き抜いて身繕いを始めた。終わった後のお掃除フェラもしろと言わないとは。胸で挟めなどと言わないとは。肉棒のくせに。どうした、具合でも悪いのか。

 精液を飲みこもうとナカが勝手に震えている。すぐに引き抜かれたせいで、少し零れて濡れた感触がある。意識がぼんやりしていても、不快は不快なのだな、と少し思った。
 足を投げ出したまま、そのまま寝転ぶ私に、フィルジはなぜか不機嫌そうなまま出ていってしまった。

 ……なんだか、今日は疲れたな。少し寝て、また明日からベールを作ろう。せめて、精いっぱい綺麗に。もう、理由も良く、わからないが。
 頭は少しも痛くなかった。けれど、胸がきゅうっと痛む。気づけばぼろぼろと涙が零れていた。なぜ自分が泣いているのかもわからない。

「じゅすと」

 狼ぬいを抱き寄せると、すうっとその匂いを吸い込む。胸の痛さは変わらなかったが少しだけ心がほっこりした。先の見えない濃霧の向こう側に、誰かがいる。……そうだ、私はあいつのために、ベールを縫うのだ。
 それが思い出せただけでも、少しだけ気が楽になった。

 寝ている場合ではないぞ。しっかりしろ。私。

「ふんふふふん、ふん……」
 唯一覚えている国歌で心を奮い立たせながら、私は起き上がると、ジュストを片手に机に向かう。引き出しから縫いかけのベールを取り出して、椅子に座ると縫い始めた。ジュストは机に乗せて、見守ってもらう。
 完成すれば、式が出来れば、きっと喜んでくれる。私の、わたしの……だれ、だったろうか。
 意識を阻害する魔法が組み込まれたサークレットが、きらきらと輝く。私はその光に気づかないまま、鼻歌を歌いつつ、朝になるまで自分の髪の毛をベールに編み込み続けた。


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