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王国崩壊編
157.疾く、王都へ。
しおりを挟む微睡みの中からユストゥスが私を揺らしているのがわかる。断続的なその振動に快感で頭の中がバチバチと弾けた。
「あ、ああ、ぁああっ」
うるさい声に邪魔されて、気持ちの良い眠りから急激に起こされる。途端にぐりゅっと深く奥を突かれて「んぁっ!」と私は嬌声を上げた。
「……っ? ……???」
まだうまく働かない思考のまま周囲を見回す。視界が上下に揺れていた。ぎゅっと枕を抱きしめ、口からは無意識に甘えた声が漏れていた。
背後からパンパンと突き上げられるたびに声を漏らし、ぴりっとした電撃が臀部から背筋を這って脳髄を焼き尽くそうとしている。
あさっ、ごはんんんっ……!
「ぁあああ”あ”あ”ッ!!」
状況は理解したが、いつにも増して行為が激しい。ふっとい私の奴隷のおちんぽが熟れた肉襞を抉り、やつのために降り切ったくびれでちゅっちゅっと吸い付き亀頭を舐め回しているのが自分でもわかる。
あまりの快感に枕を半ば引き裂きながら、精液を強請るようににゅるにゅるといやらしい粘液を分泌したおまんこが痙攣した。
びゅるるるっと朝から腹を重くしてくれる白濁を注ぎ込み――ユストゥスは私のうなじにがじがじと甘噛みを繰り返す。私が絶頂していることに気付いていて身動きを止めてはくれているが、自らの蠕動でその快感を長引かせてしまった私は、呼吸の仕方を忘れたように息を吸うのを忘れてしまった。
「っはあっはあっ、かひゅ……っ!」
ろくに息も吸えない私に気付いたのか、ユストゥスは無理やり顎を掴むと強引に私の唇を封じ……ねっとりとした甘い口づけを続けた。力が入らないまま男の首に片腕を巻き付け、息苦しさから長めの襟足に指を絡めて引く。
するとちゅぷっと水音を立てて、男の唇が離れた。長い舌が名残惜しそうに差し出されているのが見える。うっとりと見惚れてしまうが、目元を笑みの形に変えた男の指が戯れに私の口元に伸び、軽く舌を弄んでから口に押し込まれた。
物欲しそうな表情を浮かべていたのは、私も同じだったらしい。
「っはぁ……はぁ」
ユストゥスが私の頭を撫で回し、こめかみにちゅっと口付けを落とした。呼吸を思い出させるキスでようやく息も吸えたが、ユストゥスは離れない。
身体を休めるようにうつ伏せになっていたが覆いかぶさったまま、ぐぅっとゆるく押し付けてくる。私のいやらしいおまんこは、まだ美味しくユストゥスのおちんぽをもぐもぐしていた。
普段なら朝は一回で終わるのに、精液を馴染ませた後もユストゥスは引き抜かなかった。
「んぁっ……、ユストゥス?」
蠕動を促すような腰の動きに、私に覆いかぶさったユストゥスは両手を私に見えるように動かした。
<昨日、一回しかしねえで寝ただろ? だから今日はもう一回>
「んんっ、でも、じかん……っ」
<ちょっと早めに起こしたから大丈夫だって>
「でもっ、あっ、あっ、ぁんっ、あああっ!」
……朝から疲れてしまった。
いやっ、確かにユストゥスとおまんこするのは気持ちが良いし、私自身も満足している。してはいるが、その……これから勤務というときに、ねっとりじっくりとユストゥスに愛された身体は、まだ熱が燻っているかのようだった。
火照った頬に手を当てて気分を切り替えると、全身に鎧を身に着け大剣を背負い、兜を被って部屋に向かう。私が歩いているといつものように露出の激しい侍女たちが絡んできた。
「おはよぉクーちゃん」
「おはよう」
「ふぁ~あ、今日もしっかり着込んでるね」
「無論、仕事だからな」
「特殊な鎧で暑くないって聞いてても暑そう~」
「体温調整が利いているから大丈夫だ」
彼女たちもこれから仕事なのだろう目指す先は一緒だ。囲まれて話がてら向かえば、ザイグレンター卿の部屋からガシャンという何かが割れたような音が聞こえて、私たちは足を速めた。
「ディー先輩ッ」
「旦那様ぁ」
それぞれ即座に部屋に飛び込む。けたたましく開いたドアに、中にいたディー先輩が弾かれたようにこちらを凝視した。床に散らばっているのは部屋に置いてあった大きな花瓶の破片と思しきもの。そして倒れ伏した部屋の主。
「ヤっちゃった?」
「とどめ差しちゃったぁ?」
「ギロチンまっしぐら?」
「っちがっ!」
艶やかな侍女たちの言葉に、怒りで顔を赤くしたディー先輩が怒鳴る。私は慌てて兜を床に脱ぎ捨てると、どすどすと足音を立てて駆け寄り、ディー先輩を抱きしめた。
「こんなに思い悩んでいたなんて……すまなかったディー先輩ッ!」
いつかは……いつかはやると思っていたのだ……!
温厚なディー先輩と言えど、セクハラに次ぐセクハラ。今まで良く耐えてきた方だろう。
裁判にでもなった時には私はディー先輩の刑を軽減させるために何ができるだろうか。ユストゥスに任せればどうにか無罪を勝ち取れたりするかもしれない。よく知らない男だが、あいつに任せれば……。
「っだから、ちがううぅうっ!」
「えっ? なに?」
ディー先輩が癇癪を起こしたようにがんがんと私の甲冑を叩くものだから、その音が響いて言葉が聞き取れない。そんなことをしているうちに、侍女たちは卿に近づいて「あら生きてらっしゃる」「旦那様、腹上死希望ですもの。そう簡単に死なないわよぉ」「ほら、手を握ってくださいませ」と甲斐甲斐しく抱き起こしていた。
「僕は別に、ザイグレンター卿を害してはない!」
ご本人がうっかり花瓶を巻き込みながら倒れただけだと主張する。私と侍女たちはそっと視線を交わした。
常日頃の卿の言動を考えれば、倒れそうになっていてもディー先輩が助けないのは当然のことだが、本当に害そうとしていないかは疑問が残る。
「いやっはっはっはっげほげほ! ちぃとからかい過ぎたわ」
高笑いしたと思ったら咽ている卿を見やる。ディー先輩は顔を赤く上気させたままだ。
「いやなに、その娘っこが随分と奴隷の態度で悩んでるようでのお。わしが相談に乗ってやろうと」
「余計なお世話だ! それに誰が娘だッ!」
敬意もなにも全くない口調でディー先輩が怒鳴るが、ザイグレンター卿は平然としたものだった。
がるがると威嚇せんばかりのディー先輩を追いかけるように手を伸ばす好色爺……もとい警護対象。身辺警護が私たちの任務だからそう離れるわけにもいかない。
が、詰め寄られての逃げるために部屋の端にあった花瓶を台ごと動かして、盾替わりに周囲をぐるぐるしていたらしい。それでうっかり目を回したザイグレンター卿が花瓶もろとも倒れたと。
えっ? ディー先輩が追いかけっこに興じていた……?
思わずまじまじと見つめてしまう。素早さ重視のディー先輩がわざわざ、花瓶の周りをまわるとは……いったい何が……?
「まあよい。ほれ」
ぽんと部屋の主がディー先輩に何かを投げた。片手に収まるほどの小瓶に見えたが、それはディー先輩の手に収まってすぐに見えなくなってしまう。私と侍女たちが見守る前で、眉間に皺を寄せたまま、ディー先輩はそれをごそごそ腰に付けた小さなポシェットにしまっていた。
「ディー先輩?」
「……なんでもないから気にするな」
「そうじゃ追いかけっこの礼だからな」
何とも言えない微妙な空気に私は侍女たちと顔を見合わせる。そんな私にわざとらしく咳払いをしたディー先輩が「それより」とねめつけてきた。
「僕がいくらあのクソじじいを嫌ってるからと言って、花瓶で殺そうとすると思うなんて。僕はクンツに信用されてないんだね」
「えっあっ、……うう、すまない……でもディー先輩は良く頑張った方だと思う!」
「だからやってないって!」
「イェオリも心配していたようだったぞ! ある程度道筋が付けられたら群青騎士も招集がかかると言っていたから、この任務ももうすぐ終わるはずで……」
ディー先輩を慰めたい一心でつい見きかじった言葉を口にして、クンツは動きを止めた。どくりと心臓が嫌な音を立てる。ぶわりと汗がにじみ出て私は思わず拳を握った。
「招集って……いったい何の話?」
ディー先輩は、今日別にバルタザールは何も言ってなかったけど、と首を傾げている。
バルタザールは王都を離れたと手話していた。通信魔具を持って歩いているのかもしれない。
私たちが任務で離れている今、別段告げなくてもいいことかもしれないが、それでも休暇に出ているなら通信の際に一言あってもいいはずだ。なのにそれもない。
ユストゥスとイェオリの話が嘘だとでも? でもあの二人がわざわざ私の目の前で嘘の話をするはずがないだろう。することに意味がない。むしろ私に気取られないようにしていた。イェオリの手を遮ったのは、ユストゥスで……。イェオリは。
気付いた時には私は絨毯に膝を付いていた。
「クーちゃん、大丈夫? すっごい顔色悪いよ?」
「旦那様のベッドしかないけど横になるぅ?」
「旦那様が添い寝してくれるわよ!」
「だれがそんな筋肉だるまと添い寝するか!」と何やら罵倒されたが、侍女たちの言葉もザイグレンター卿の言葉も私の耳を素通りしていく。
何度か深呼吸を繰り返して、私はディー先輩の手を握った。
「クンツ?」
「行こうディー先輩」
「え、どこに?」
「王都に戻らなければ。我らは王の盾となるのが使命」
群青騎士としては、今の任務を優先しなければいけない。でもまずはリンデンベルガーの騎士としての役割を果たさなければ。
ここはだいぶ辺境の地だから、王都に戻るには転移魔法陣を使わねば時間がかかるはずだ。
「ザイグレンター卿、急ぎ王都に戻らなければいけない用事が出来ました。転移魔法陣を使わせていただいてもよろしいか」
「ほう? お前はわしの警護でいるのではなかったのか」
「それよりも大事なことです」
「く、クンツッ?!」
言い切った私にディー先輩が慌てている。不遜すぎると言わんばかりだが、ディー先輩も人のことは言えないと思う。
「王都でクーデターが起こるのです」
「……お前それどこから知ったの?」
重々しく告げた私に、ディー先輩が目を細めた。
「昨晩、私が気をやってる間にユストゥスがイェオリと話していた。多分私が見ていないと思っていたのだと思う」
私自身、すぐにそれを思い出せるような状況でなかったから、思い出したのが今なのだが。
「クーデター?そんな」
侍女たちは何を馬鹿なことをと言わんばかりに呆れた表情を浮かべたが、ディー先輩は押し黙ったままだった。その表情は目まぐるしく何かを考えているかのようにも見える。
「だから、行こうディー先輩」
手を引きながらの私の催促に、ディー先輩はどこか緊張を孕んだ面持ちで首を横に振った。力の篭った手に逆に強く引かれる。
「……行けない。俺たちは騎士団本部の意向に沿って動くんだ。新たな指令が来ているならともかく、情報もろくに入って来ない状況で勝手に動くわけにはいかないよ。それに……その話が本当かもわかりはしない。単なる二人の勘違いかも」
ディー先輩は口にしたが、白々しく場を滑っていった。本当はそうは思っていないだろうというのは表情から読み取れる。
「……わかった」
ディー先輩のいうことももっともだ。群青騎士ならその任務を優先しなければならない。
でも私は群青騎士の前にリンデンベルガーの騎士だ。
王族を守るのが我らの責務。
ディー先輩の手を離し、落ちていた兜を拾った。
私もここの屋敷に長く居候している。どこに転移魔法陣があるかは知っていた。それが使えなくともいざとなったら、走ってでも王都に戻らなければならない。
ふと私は私より年上の近衛騎士の兄弟を思い出した。兄弟はクーデターがあるということを知っているのだろうか。今日はまだ顔を合わせていないが、教えておくべきだろう。
もしかしたらあいつであれば転移魔法陣が使えるかもしれない。……まあ、あやつもリンデンベルガーの騎士だから無理かもしれないが。
兜を被りながら廊下に出ると、一陣の風が私の脇を通り過ぎた。
「クンツ、どこに行くつもり」
回り込んで私の目の前に立ったのはディー先輩で、佩刀した腰のレイピアに手をかけている。その足もとに魔力が漂っているのを見て、私は眉間に皺を寄せた。
「クンツ、冗談だよね? 任務放棄は駄目だよ。認められない」
「任務放棄ではない。私はリンデンベルガーの騎士だ。最優先の任務を優先する」
「クンツッ!」
ディー先輩に怒鳴られてしまったが致し方ない。私は背負っていた大剣を引き抜いた。貴族らしい屋敷は天井も高く通路も広いが、私が剣を存分に振り回せるだけの広さはない。
さてどうするか。
「クーちゃんちょっと!」「なに仲間割れ?」「やめてよぉこんなところでっ!」
そんな侍女たちの悲鳴交じりの声が上がり、それが届いたのか廊下に他の召使いの姿が見え始めた。騒ぎを聞きつけたのか、私兵の姿も見える。
「何の騒ぎだ」
とうとう姿を現したのは、近衛騎士服に身を包んだ私の兄、フィンリーだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
蛇足です。
絶対今後出てこない部分なので説明しておきますと、情報収集でここのところ態度が妙だったイェオリとディーが少しぎくしゃくしてて、そこを破廉恥おじいちゃんが狙いを定め、あの手この手でベッドに誘い、褥でも使用している自白剤交じりの媚薬を餌に追いかけっこして、負けたのでその薬をディーに渡すと言った裏話が勃発してます。ディーはそれをイェオリに使って情報を吐かせるつもりでした。おじいちゃんは捕まえたら、その薬をディーに飲ませてセクハラ三昧を画策してました。日中警護はディー担当なのでおじいちゃんと一緒にいる時間が長く、本人は嫌々ながらそれなりに会話してます。
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