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王国崩壊編
156.たまには冴えわたる勘
しおりを挟む「ふん。その程度の訓練でカインザートを打つことができると思っているのか。どうしてもというのであれば、私が直々に手合わせをしてやらないでもないが」
「……、……オネガイシマス」
私とユストゥスが番だと知ったことで、なにやら次兄に親近感が湧いたらしい。翌日から何かと言い訳がましく口にしながら、警備後の自由時間に身体を鍛えている私のところに顔を出すようになった。
これがまた私がそっと断ろうとすると、罵倒しつつ申し出を受けるまでねちねち嫌みを言われる。その上受ければ受けたで、近衛騎士の兄弟は嬉々とした表情で私を打ちのめしてきた。
同じリンデンベルガーの割にこの兄弟は強い。
私より15歳以上も年が上の割に、魔力量も技術も体力も私とは違う。兄弟の中でたまたま群青騎士になった私も、その特性でそれなりに強いと思っていたが伸びた鼻を挫かれた気分だった。
<任務の前にクンツの方がぼろぼろになっちまう>
「死にはしないから大丈夫だろう」
打ちのめされて部屋に帰れば、ユストゥスが私をマッサージしつつため息を付いてそうぼやいた。
<あのにーちゃん、まじでなんなんだ?>
「なにがだ?」
<近衛騎士は王族直下の騎士だろ。あのお姫さんを見張ってるって言う割に、クンツにちょっかい出したりぼんやり庭に座ってたりして>
「なんだお前。兄弟を見張ってでもいたのか?」
雄弁に語る指にそう問いかければわきわきと言葉にならない指の動きを繰り返して、マッサージが再開された。
「……っは」
あお向けに横になった私に、丁寧に指圧を咥えていく。打撲打ち身の手当てをするからと言われ、衣服はあっという間にはぎ取られた。
その後を見越してかと思うと無意識に強化魔法を使いそうになるが、その眼差しは真摯で、ふしだらな色香はどこにも見当たらない。だというのに私の身体は男の指が這うだけで、肌が粟立つような感覚に陥った。
思わず膝頭を擦り合わせる。うつ伏せならまだしも、あおむけでは身体の……特に下半身の反応は顕著だった。
打撲には薬草を練ったものをガーゼで蓋をするような形で押し当てられ、切り傷擦り傷には包帯を巻かれる。この程度放置しておいても治るというのに、甲斐甲斐しく世話をしてくれる……だ、……だ、旦那様に、私はうっとりしてしまう。
今は気恥ずかしさと気持ち良さが半々だ。どこか神秘的な色合いの瞳に見られたくないと思う反面、すべて暴かれたいとも思ってしまう。ツボをぐっぐっと刺激されるたびに、腰が揺れた。熱い吐息が堪えきれない。
あお向けだからこそ股間の隆起が赤裸々に晒される。だというのにユストゥスは表情を変えぬまま、私の身体から凝りを解そうとするから始末が悪い。
「ゆ……ゆす……」
はく、と熱い吐息を零して視線で訴えても、素知らぬ顔で指圧を続けていく。
<揉みやすいように足広げて>と手で指示を受けて、私は両膝を外に曲げて両足の足裏を合わせるような形ですべてをユストゥスの眼下に露わにした。
熱い手がぐうっと足の付け根や太ももの裏を揉みこむ。露わになった私の陰茎が呼吸をするたびに軽く揺れた。先端の鈴口には雫が浮かんでいるというのに、ユストゥスの目にそれは入っていない様子だ。
「っは、っは、っぁあ……」
まっさーじ、されている、だけなのに……っ。
置き場所に悩んであちこちを彷徨っていた手は頭上へと言われ、枕をぐっと掴む。じんわりと身体が熱くなり、横隔膜が震えそうだった。もう少し、もう少し中心を揉みこんでくれれば……と願わずにはいられない。
だというのにユストゥスは下半身のマッサージを止め、私の身体に覆いかぶさるような形でぐうっと鎖骨の下あたりのツボを押す。それからやんわりと筋肉質な私の胸筋を両手でぐうっと揉んだ。
「っはひ、っは、あうう……」
マッサージだというのに、ユストゥスに触れられるだけでこんな……。臀部がシーツを波打たせ、腰が浮く。すりっと奴隷の腹にペニスが触れると、それだけで頭がぴりぴりと弾けるような快感が生まれた。
するとユストゥスの手が止まり、男が私の腹を跨いだまま身体を起こした。
<駄目だろクンツ。こりゃ単なるマッサージなんだから>
「ん、ん……す、まない」
<お嫁様は敏感だから、気持ち良くなっちまうのはわかるけどな。明日のためにちゃんとほぐしておかねえと>
「わか、ってる、から……っは、ゆすとぅす……っ」
<じゃあもうちょっと我慢できるな?>
「する、するから」
こくこくと頷く。正直すでに私のアナルは魔肛として蕩けて淫液を滲ませているが、ユストゥスがせっかくしてくれているマッサージを中断してまで、お……っお、ぉまん、っこをねだる、のはどうかと思うのだ。
ユストゥスは私の専属奴隷だから言えば無論すぐにでもあっつあつの、……おちんぽを与えてくれるが、その前に丁寧に身体を解してくれているだけだ。
<じゃあ、乳首もしっかりツボを刺激するからな。暴れるとまた筋肉が強張っちまってやり直しだ。わかるだろ?>
「ん、んぅ……っひぃんっ!」
いやらしく刺激を求めた乳首の芯を潰すようにしっかりと指の腹で摘ままれ押しつぶされて、私の口から耐え切れなかった嬌声が漏れ、震えるペニスからは白濁交じりの体液が糸惹くように垂れ落ちた。
悶える私の目にはユストゥスが欲情していることなど少しもわからない。ただただその手管に溺れ、どこを触れても甘イキを繰り返すような状態に陥ってから、ようやくユストゥスにおちんぽを与えられた。
「っぁあァアああああっ!」
明確な絶頂をはぐらかされ、熟れた身体は一突きされただけですぐさま堕ちた。絶頂の快感に震える肉襞が陰茎に絡みついて、ぎゅっぎゅうっと白濁を強請る。
私にマッサージを続けている間、密かにおちんぽを滾らせていたユストゥスは、その締め付けにご褒美を与えるようにぐぐうっと奥のくびれを押し広げるようにして精液を吐き出した。
「っ~~~っ」
白濁を受け入れたことでまたうねるおまんこに、快楽に弱い私はぐりぐりと自ら感じるところをカリで押しつぶすように腰を動かし触れ合う男の肩口に顔を埋める。
すうっと息を吸い込むだけで感じるユストゥスの体臭に、くらりと酩酊した。すんすんと半ば意識のない私が抱き着き匂いを嗅ぐ様に目を細めたユストゥスが後頭部を掴んで顔を上げさせる。
「あ、っふ」
ねっとりと舌を絡ませ合いながら、白濁を内壁に刷り込むように腰を動かしていたユストゥスは、ぴたりと動きを止めた。
その時だ。やけにリズミカルにノックをする音が部屋に響いた。通常であれば一度で終わらせることのないユストゥスはその音にゆっくりと身体を引き離す。
「っは……っは……っ」
呆けた私の頭をそっと撫でると、ユストゥスはベッドから降りてドアを同じようにノックし返した。それからもう一度外からノック音が響き、そこでようやくそっと開け、相手を受け入れた。
<『食事』中に悪いね>
<いや、一回目は終わったとこだ>
入ってきたのはディー先輩の専属奴隷のイェオリだった。ただいつもの奴隷服ではなく、どこかの農民のような姿だ。中肉中背でこれといって特徴がない中年のイェオリがそんな恰好をしていると、本当に近隣の農民が忍び込んで来たかのようにも見えるだろう。
私が快楽に意識を飛ばしているのを見やり、近づいてきて目の前で手を振る。
手が振られているなとは思ったが、快感に飲まれたままの私は反応を示すことが出来なかった。するとそれをどう思ったのか、すぐさまユストゥスに向けてイェオリは手を動かした。
<君の言った通りだったよ、ユストゥス。本当に奇妙だ。カインザートの目的とされた貴族以外にも、何人か王都を出ている。領地がない下級貴族や一部の商人たちも、自分たちの意思というよりも……何かの強制力が働いてるみたいに王都を離れてる。それぞれ事情が異なるから、誰も怪しんではいないようだけど>
イェオリの手話を見たユストゥスは、面白くなさそうな表情でベッドに腰を下ろすと私の頭を軽く撫でながら頷いた。
<それから、不思議と群青騎士が出撃するような魔獣や魔物の出現も激減しているらしい>
<そっちもたぶん、魔族側が調整入れてくれてるんだろうよ。ありがたくって涙が出るね>
<……ディーの胎を弄った魔族が?>
剣呑な色を滲ませて殺気立つ同僚に、ユストゥスは肩を竦めた。
<いや、おそらく別口だ。が、あいつも一枚噛んでるのは間違いない>
<それに群青騎士団も関わってるって?>
<この様子だとそうだろうな。はー……バルタザールはもう王都を離れたか?>
<ああ。隊員が全員王都を出ているから、寮監は休暇も申請しやすかったみたいだ。ご家族で親類のいる地方に向かったよ>
寝転んだ私の上で静かになされる会話。ひらひらと揺らめく指先を、ぼんやり眺めながらゆっくりと呼吸を整えていく。イェオリが少しだけ言い淀むように一度ぎゅっと両手を握った。
<あのド変態のクソじじいのせいで、ディーが辛そうなんだが>
<慰めんのは得意だろイェオリ。悟られんなよ? ある程度道筋を付けられたら、群青騎士も招集されるはずだ>
<だけど、本当に? 本当に魔族が王都でクーデタ>
ユストゥスがイェオリの手を掴んで言葉を遮った。ユストゥスとイェオリの視線が、ぼうっと天井を見上げる私に落ちてくる。
<とにかくディーは宥めとけ。俺もお嫁様が正気に戻ったら、気にかけとくように言っておくから>
<わかった。現状維持を最優先、だね>
<ああ>
それ以外にもいくつか無音の会話を続けてイェオリは出ていった。その頃には私も意識を取り戻していて、ゆっくりと身体を起こす。目が合うと気恥ずかしさに頬が赤くなるのを感じた。
「ユストゥス……お、おまえのまっさーじで、いつも、その……」
<そろそろ俺に慣れたか? たまには普通に抱きてぇんだけど>
「だっ、だっ、抱くなどと! お前は! 破廉恥な!!」
さっきまで散々弄ばれたことを様々と思い出してしまい、頭が瞬時に沸騰してしまう。
振り被ってユストゥスの肩を強く叩きそうになったところで、私はぴたりと動きを止めた。自ら飛ぶことで衝撃を和らげようとしていたらしいユストゥスが、とんとんとベッドから数歩歩いたところで不思議そうにこちらに視線を向けてくる。
<クウ?>
「わ、たしとて……その……」
身体の大きな私がもじもじしているのは気持ち悪いと思うのだが、すぐに言葉が出ない。そんな私にユストゥスは穏やかな視線で言葉を促してくる。喉の渇きを覚えながら口を開いた。
「ふつうに……っだ、だんなさまに、さわ、さわりたい……」
ちらっと下から見上げると、ユストゥスは眉間に皺を寄せ、手をわきわきと動かしながら何かを堪えているようだった。
<ああー……あ~~~~……それじゃ、クンツから俺に触るか?>
「え?」
<俺から触るとびっくりしちまって力加減間違えるんだろ? ならクンツが俺に触って>
ベッドに腰かけたユストゥスに手招きをされる。這って近づけば、さあと言わんばかりに両手を差し出された。が、その手は私に触れることなく止まってしまった。
戸惑う私をよそに、ユストゥスはそれ以上動こうとしない。
私は恐る恐る両手を広げると、男の背に腕を回しながら抱き着いた。顔をうずめれば、さっきまでの行為の名残をその汗の匂いで感じる。すうっと息を吸って、私は胸板に頬を擦りつけた。
ゆっくりとユストゥスの腕が私の背に回り、抱きしめられる。強すぎず、かといって引き剥がすには少しばかり力の篭った拘束に、なぜか安堵を感じてしまう。
体温と鼓動。そして息遣い。……堪らない。
単なる触れ合いなのに、身体より心が満たされる。
ユストゥスがとんとんと私の背を叩いた。
「?」
蕩けた瞳で見上げれば、ユストゥスは眉尻を下げて困ったような表情をしている。両手が塞がられているからか、間近にある男の唇が動いた。
しょくじ、と端的に行為を進めるよう言われて、私は唇を尖らせた。
「たまには、よいだろう。いつもいつも、私は意識を飛ばす形で寝落ちしている。たまにはお前とこう、穏やかに触れ合っていたい」
腹が満ちてるわけではないが、この温かな体温を上げて熱くする気分ではない。抱き着いたまま強引に横たわれば、はあっとため息を吐かれた。
だがユストゥスは不埒な真似をすることなく、私を抱きしめ布団をかけてくれる。瞼を閉じて寝る姿勢を見せた私は、じんわりと心を満たされて顔を綻ばせた。
そのまま抱き合って、明日の訓練ではどうしようか、ディー先輩が明日こそセクハラされないようにするにはどうしたらいいか。などと、取り留めもないことをうつらうつら考えながら意識を緩やかに沈めていく。
普段の私であれば、全く何も気付かなかっただろう。
ユストゥスに高められて絶頂を迎えた後は意識を飛ばしていることも多いし、目を開いていても見たものをほとんど覚えていない。
でも今日は私が誘ったからか、ユストゥスは抱きしめるだけにしてくれた。だから。
イェオリがディー先輩の心配をしていたな、ああ……、早く本当に任務が終われば良いのだが。もしくはディー先輩だけでも任務完了の形を取れないだろうか。しかし、現状維持と言っていた。なぜ現状維持なのだろうな。王都に戻ってはいけない理由があるのか。王都で魔族が……。
睡魔に意識を奪われる寸前。
王都で魔族がクーデターを起こすのであれば、戻るべきだろう?
そんな結論を出して、私は眠りに落ちていた。
応援ありがとうございます!
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