希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

文字の大きさ
22 / 29
第1章 土佐の以蔵

1-22

しおりを挟む
差し出された刀を、以蔵は両手で受け取った。

 それは木刀なんかよりもずっと重く、手に乗せられた瞬間以蔵はバランスを崩しそうになった。

 柄は黒と赤の糸が鮮やかな色を見せ、近視が混じっているのか時折きらきらと輝いている。金色の鍔は草花の文様。それは鞘の方にも同じように金の塗料で繊細に描かれており、刀本体に絡みついているようにも見える。

 何百年も前に作られたというのに、で昨日こしらえたかのような美しさを放っていた。


「その刀は柄、鍔、鞘、そして刀身にかけられた秘術によって本当の力を発揮するがじゃ。やき、そのどれも、かけてはならん。別の鍔に交換したり、柄の糸を交換などしてはならんぞ」


 義平の言葉に以蔵は頷いた。


「抜いてみても、えいがか?」


 義平は頷くと、以蔵に刀身の抜き方を教えた。その通りに、以蔵は鞘から剣を抜く。
 薄暗い部屋に、きらりと刀身が輝いた。
 銀色の、でもどこか透き通るようなその刀。
 刃紋は浜に寄せる波のように静かで、それでいて強く、その刀身に揺らめいている。
 この世の物とは思えない程、美しい刀だった。

 これが、鬼の、自分の祖先から伝わってきた剣。

 遠い昔に想いを馳せると、ぞくりと胸が高鳴った。何百年の時を越えて、この剣は今ここに存在している。
 以蔵が刀を再び鞘に仕舞い、箱の中に置くと、義平はもう一度真剣な目で以蔵を見た。


「武市先生と話して、以蔵は明日から道場へ通うことになっちゅう。やき、その宝玉も刀も、明日から肌身離さずもっておくんじゃ。それから、ひとつ。その宝玉じゃが、今でも先祖様…奈都様の妖力が封じられちゅう。それに、明日から以蔵の妖力も蓄積されていくわけじゃ。以蔵。決して、その宝玉を壊してはならん。わしらの根源は酒呑童子様。直系ではないとはいえ、その妖力は普通の妖怪混じりと違う。以蔵のように妖力の高い者はその力に振り回されかねんき。そのために宝玉を身につけるんじゃが、もし宝玉を壊した場合、以蔵だけでなく奈都様がためられていた分の妖力まで放出してしまうことになる。そうなると、何が起こるかわからん。…ええか、以蔵。決して、壊してはならんぞ」
「うん、わかった」


 以蔵は義平の目を見てしっかりと答えた。
 ほかに誰もいない、二人だけの話。
 受け取った、宝玉と刀が以蔵の目の前に佇んでいる。
 薄暗い部屋の中、以蔵の運命の歯車は、ゆっくりと回り始めたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...