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第1章 土佐の以蔵
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差し出された刀を、以蔵は両手で受け取った。
それは木刀なんかよりもずっと重く、手に乗せられた瞬間以蔵はバランスを崩しそうになった。
柄は黒と赤の糸が鮮やかな色を見せ、近視が混じっているのか時折きらきらと輝いている。金色の鍔は草花の文様。それは鞘の方にも同じように金の塗料で繊細に描かれており、刀本体に絡みついているようにも見える。
何百年も前に作られたというのに、で昨日こしらえたかのような美しさを放っていた。
「その刀は柄、鍔、鞘、そして刀身にかけられた秘術によって本当の力を発揮するがじゃ。やき、そのどれも、かけてはならん。別の鍔に交換したり、柄の糸を交換などしてはならんぞ」
義平の言葉に以蔵は頷いた。
「抜いてみても、えいがか?」
義平は頷くと、以蔵に刀身の抜き方を教えた。その通りに、以蔵は鞘から剣を抜く。
薄暗い部屋に、きらりと刀身が輝いた。
銀色の、でもどこか透き通るようなその刀。
刃紋は浜に寄せる波のように静かで、それでいて強く、その刀身に揺らめいている。
この世の物とは思えない程、美しい刀だった。
これが、鬼の、自分の祖先から伝わってきた剣。
遠い昔に想いを馳せると、ぞくりと胸が高鳴った。何百年の時を越えて、この剣は今ここに存在している。
以蔵が刀を再び鞘に仕舞い、箱の中に置くと、義平はもう一度真剣な目で以蔵を見た。
「武市先生と話して、以蔵は明日から道場へ通うことになっちゅう。やき、その宝玉も刀も、明日から肌身離さずもっておくんじゃ。それから、ひとつ。その宝玉じゃが、今でも先祖様…奈都様の妖力が封じられちゅう。それに、明日から以蔵の妖力も蓄積されていくわけじゃ。以蔵。決して、その宝玉を壊してはならん。わしらの根源は酒呑童子様。直系ではないとはいえ、その妖力は普通の妖怪混じりと違う。以蔵のように妖力の高い者はその力に振り回されかねんき。そのために宝玉を身につけるんじゃが、もし宝玉を壊した場合、以蔵だけでなく奈都様がためられていた分の妖力まで放出してしまうことになる。そうなると、何が起こるかわからん。…ええか、以蔵。決して、壊してはならんぞ」
「うん、わかった」
以蔵は義平の目を見てしっかりと答えた。
ほかに誰もいない、二人だけの話。
受け取った、宝玉と刀が以蔵の目の前に佇んでいる。
薄暗い部屋の中、以蔵の運命の歯車は、ゆっくりと回り始めたのだった。
それは木刀なんかよりもずっと重く、手に乗せられた瞬間以蔵はバランスを崩しそうになった。
柄は黒と赤の糸が鮮やかな色を見せ、近視が混じっているのか時折きらきらと輝いている。金色の鍔は草花の文様。それは鞘の方にも同じように金の塗料で繊細に描かれており、刀本体に絡みついているようにも見える。
何百年も前に作られたというのに、で昨日こしらえたかのような美しさを放っていた。
「その刀は柄、鍔、鞘、そして刀身にかけられた秘術によって本当の力を発揮するがじゃ。やき、そのどれも、かけてはならん。別の鍔に交換したり、柄の糸を交換などしてはならんぞ」
義平の言葉に以蔵は頷いた。
「抜いてみても、えいがか?」
義平は頷くと、以蔵に刀身の抜き方を教えた。その通りに、以蔵は鞘から剣を抜く。
薄暗い部屋に、きらりと刀身が輝いた。
銀色の、でもどこか透き通るようなその刀。
刃紋は浜に寄せる波のように静かで、それでいて強く、その刀身に揺らめいている。
この世の物とは思えない程、美しい刀だった。
これが、鬼の、自分の祖先から伝わってきた剣。
遠い昔に想いを馳せると、ぞくりと胸が高鳴った。何百年の時を越えて、この剣は今ここに存在している。
以蔵が刀を再び鞘に仕舞い、箱の中に置くと、義平はもう一度真剣な目で以蔵を見た。
「武市先生と話して、以蔵は明日から道場へ通うことになっちゅう。やき、その宝玉も刀も、明日から肌身離さずもっておくんじゃ。それから、ひとつ。その宝玉じゃが、今でも先祖様…奈都様の妖力が封じられちゅう。それに、明日から以蔵の妖力も蓄積されていくわけじゃ。以蔵。決して、その宝玉を壊してはならん。わしらの根源は酒呑童子様。直系ではないとはいえ、その妖力は普通の妖怪混じりと違う。以蔵のように妖力の高い者はその力に振り回されかねんき。そのために宝玉を身につけるんじゃが、もし宝玉を壊した場合、以蔵だけでなく奈都様がためられていた分の妖力まで放出してしまうことになる。そうなると、何が起こるかわからん。…ええか、以蔵。決して、壊してはならんぞ」
「うん、わかった」
以蔵は義平の目を見てしっかりと答えた。
ほかに誰もいない、二人だけの話。
受け取った、宝玉と刀が以蔵の目の前に佇んでいる。
薄暗い部屋の中、以蔵の運命の歯車は、ゆっくりと回り始めたのだった。
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