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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜

X-27話 燃え盛る集落

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 業火が俺たちが走っている場所の方にまで範囲を広げ始める。先ほどまで、遠くの方で燃えているだけであったのに、尋常ではない速度でその延焼範囲を秒単位で加速させていた。熱さで額から汗が滴り落ちる。同様に、握られている手からも汗が滲み出てくるのがわかった。だが、そんなことを気にするそぶりもなく、目の前を引っ張ってくれる彼女はどんどんと前に突き進んでいる。

「もう少しで着くから!」

 後ろをほんの僅かな間振り返り、そう叫ぶと再び正面を捉えて前進を始める。ここで、彼女に天恵を使用するように声をかけるべきかふと悩む。この場面はすでに緊急を要しているので、時を遡って説明したそれを使用するタイミングに該当すると、俺は考える。が、すぐにその考えを否定した。

被害の規模が分からない上に、此処からどこまで居住区まで距離があるのかも不明なまま、それを使用するのは無駄にしかならないと結論づけざるを得ない。俺は黙って彼女の後ろをついていくと、途端にある声が耳を貫いた。

「キャアァァァァァ!!!!」

 聞き逃すはずもない。先程のは紛れもなく悲鳴。それも緊急の助けを求める声だ。二人は一瞬目を合わすと、何の打ち合わせもなくコルルは両足を青白く発光させ始める。天恵を使用する際に漏れるそれだ。彼女はこの場面でこそ使用するべきだと判断したのだ。

俺は彼女に対して何も言葉をかけることはなかった。彼女の判断は間違ってはいないし、何よりこの場に置いて正解を100パーセント見出せる人はこの世を探してもいないことは明らか。そうなると、自分が直感的に信じたことで行動を起こす方が何よりも後に後悔をしない。

 手が先ほどまでと段違いの勢いで引っ張れていく。辺りの景色はまるで新幹線に乗っているかのように前から後ろへ流れ、強大なGによって身体が自然の法則に則って後方方向に流れる。だが、彼女と繋がれた手だけはそんな影響を全く受けていないようで、その場でじっと静止しているかのように宙に浮いていた。それをただじっと見つめることが、何もできない俺にとって唯一できることであった。

「ここね!!」

 時間にしてほんの数十秒。彼女が天恵を使用してから進んだ先には先ほどよりもより一層鬱蒼とした場所に、それこそ医療場とは段違いのほどの家が建てられていたが、当然それらも燃え盛っている。医療場とは違い、森と同化するように建てられた家々はそれがより一層火に引火して事態を深刻化させていた。目の前には逃げ惑う人々がパニックを起こし、どこに逃げれば良いのか分からず困惑しているように見て取れる。

「大丈夫か!!!」

 俺は大きな声をあげるが皆それどころではない。声すら届かないほどに怯え、何かから逃げている。

「コルル。俺はあの中に入って何がこの延焼の原因なのか探ってくる。君は、逃げ惑う集落の人達のところに駆け寄って、安全な場所に避難させてくれ」

「わ、分かったわ。いきなり責任重大ね。クーリエさん。一つ確認させて」

 コルルはいざ乗り込もうと身体が前のめりになっている俺の服の端を少し握る。途端に動きが止められた俺は彼女の顔を真正面から捉えた。一方で、彼女は顔を俺から背ける。轟々と燃えたぎる炎の仕業で顔色までは見て取れないが、何かを伝えようとしているのだけは俺でも分かった。

「気を付けてね」

 彼女はこの一言だけを、目を背けたまま俺に伝えてくるのであった。
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