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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜

X-46話 特殊加工製紙

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「そう・・・なのか。知らなかったとはいえ確かにそれは気分を悪くする内容だったな。悪い」

「謝罪なんて求めていない。そんなもので今まで犠牲になった人は戻ってこないからな。はっきり言ってほしい。お前達は一体何者なんだ。奴らの、カーブス医師の仲間なのか?」

 ユウシに纏う炎はゆらゆらと彼の心境を表しているかのように燃え盛る。それは微力の風でありながらも、全てを受け止め激しく左右に揺らめく。何か一言彼の立ち入れない領地に足を踏み入れてしまっては、後戻りできなくなるようなそんな脆さを、炎は物語っていた。

「仲間——なのかも知れない。これ以上隠し事をするのは後々それが知られたときにどれだけ君を傷つけるか分からないからはっきり言うよ。俺自身のことでありながら、本当のところが分からないというのがネックなんだけど」

 一度激しく空高くまで登った炎だったが、最後の方になるにつれてその高さは減少していく。気がつけば彼を纏っていた炎も心なしか威力を弱めていた。彼は、ユウシは天才であり、神童だ。そして、人の心の内を覗くことができる天恵も複数所持実験の影響で持ち合わせている。

その能力を用いてもしかしたら俺の心の中を覗いたのかも知れない。嘘をついていないかどうか確認するためだったのか、その理由は分かるよしもないが、炎の延焼が止まったと言うことは彼の望む答えが得られたと言うことだろう。

「ユウシ。これを読んでみてくれ」

「なんだよ、これは? 古い紙質だな。ざっと20年ほど前に作られた紙だな。その上で、本来の用途とは違った手紙として利用しているのか? よほどこの内容が重要なものなんだな。これを使うなんて」

 ユウシは手紙を受け取り、さっと触れるだけで年代を言い当て、そして奇妙なことも口走った。俺はその言葉をあまりにも一瞬に口ずさまれたが、聞き逃すことは無い。

「本来の用途と違うってどう言う意味だ? これはただの紙ではないのか?」

 そういうとユウシは呆れたようにふっと笑ってみせる。その顔はいつも通りの表情。どこにも憎悪の感情を感じさせるところはない。

「これは一度書き込んだらその上から何か手を加えようとしても元から書いてあった文字に影響を与えることができない特殊加工製紙。洞窟などにある魔性石を砕いてそのエネルギーを抽出、そして適切な過程を経て紙に落とし込むとこれが形成されるんだ。

主な使用用途は魔法書、そして絶対に覆らないものであるウェルズ教会が定める聖典の2種類。どちらも庶民が手にするものではないし、その一ページを貰うだけでも大変名誉なこととされているんだけど。これ、どうやって入手したの?」

「いや、コルルの、そこにいる彼女のお父さんから頂いたものなんだ。もう亡くなってしまったが」

 ユウシは聞いてはいけないことまで聞いてしまったと、軽く頭を下げ詫びをしてからその中に書いてある内容を読み始めた。
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