首席魔導師は癒しが欲しい

葛城阿高

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01話 欲求不満を拗らせると死ぬ

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 最近、おかしい。

「八千代……八千代」

 彼が優しく私を呼ぶ。

「八千代……今日もとても貴女は可愛い。ほら、こんなにたくさん蜜を垂らして」

 ぬるぬると数度撫でてから、指がナカに入ってくる。少しひんやりして心地良く、また、くさびを打ち込んで欲しくてたまらない程に熱に浮かされている私には、その刺激がひどく切ない。瞼を閉じそうで閉じなさそうで、とにかく力が入らない状態で恍惚のため息が漏れてしまう。

「気持ちいい?」

 私は頷く。そして願う。――もっと、もっとして、と。
 指は二本か三本か。私の様子をつぶさに観察しながら、彼は抽送を繰り返す。時折漏れ聞こえる水音が恥ずかしくもあり、私の興奮をより煽りもし。

「ああ……なんて好い顔をしているのか、貴女は自分で分かっている? 可愛い。綺麗。愛している。……私の知っている言葉だけでは、貴女へ想いを伝えきれない」

 これは夢である。きっと私は欲求不満なのだろう。一週間ほどだろうか、突如として連日連夜私の夢に現れるようになった彼に、私は夜毎愛を囁かれている。こげ茶色のさらさらの髪に、翡翠色の澄んだ瞳。均整の取れた美しい顔は、日本人より西洋人に近い。さりとて石膏像ほど彫りが深いわけでもない。夢は記憶を整理するために脳が見せる幻なのだそうだけど、彼の事を私は知らない。彼は自分を「リュカ」と名乗った。……やっぱり、知らない。

 ――リュカ……もっと欲しい。早く欲しい。挿れて。キスして。めちゃくちゃにして。

 前の彼氏と別れて半年。まさか自分が淫夢を見て、恋人でもない男をビッチの如く求める程に欲求不満だとは思わなかった。童貞をこじらせると死ぬというのは、本当なのかもしれない。もちろん私は童貞でも処女でもないけれど、これは欲求不満の末期症状なのかもしれない。私は、死ぬのか。などと悪ふざけの延長として世を儚んでみるも、謎の男に火を点けられた体は、とにかく鎮火して欲しいと、強く強く触れ合いを求めている。
 彼の顔に手を伸ばす。?茲にかかる髪を?惜きあげて、その耳たぶにそっと触れる。耳裏の首筋から後頭部の髪に指を差し入れ、強請るように彼を見つめる。すぐに彼は根を上げて、甘い吐息を私にかける。

「……八千代、貴女はまったく」

 困ったような物言いだけれど、その顔は全く困っていない。むしろ嬉しそうに見える。嬉しくて嬉しくて、舞い上がりそうなのを必死で堪えているような。翡翠色の瞳が潤んで、本物の宝石のように煌めきを増す。とても印象的だったので、すぐにその目が好きになった。
 私をじっと見つめながら、リュカが唇を重ねてくれる。最初から深いものになる事を私も彼も知っていて、柔らかな唇が触れたと同時に舌と舌が絡まりあった。唾液が垂れて?茲を伝う。舐め取る時間すら惜しい。こんなに情熱的で切羽詰まったキスなんて、これまで一度もしたことがない。私はこんなキスがしたかったんだな。さすがは夢、欲望に忠実だ。
 唾液が垂れるのと同じように、あそこから愛液が垂れていく。彼の指を濡らし、秘所周辺をベタベタにしても飽くことなく、更にこぼれてシーツを濡らした。

 濃厚なキスを交わしながら、彼の背中を手が彷徨った。この夢の中で私は裸。そう、いつも。裸同士で彼に組み敷かれた体勢から始まる。広い肩幅、出っ張った喉仏。他者のぬくもりと、程よい重み。夢なのだから、彼が何者でも関係ない。ただ、肌の触れ合いによる艶福えんぷくを、私は享受すればいい。
 夢だし。夢の中なんだし。誰にもこの痴態がばれることはないし、起きた私はビッチでもなんでもない。彼のことはよく知らないが、夢の中なのだから、欲望に身を任せたってなんの問題もないはずだ。

――リュカ、好き。

 キスの合間に、睦言をつぶやく。夢は所詮夢。しかも、閨での言葉だ。信憑性の有無なんて私たちには関係ないのだ。
 言いながら、太ももを擦り合わせた。指での奉仕の為に彼は下半身を少し浮かせていたから、そうやって動くと私の足に彼のアレがぴとりと当たる。露骨なおねだりだった。

「っだから、本当に、貴女という女性は……!」

 分かる、私には分かる。苛立ちを含んだような物言いは、私のおねだりが気に食わないのではない。私をめちゃくちゃにしたくて堪らなくなったからだ。気持ちは焦るけど、ゆっくり私を食べたいと。――何て自意識過剰なのとはもちろん思うけれども、起きれば消える泡沫うたかたの夢なのだ、誰に恥じる必要もない。

「どうなっても知りませんよ」

――早くリュカが欲しいの。

 震えるため息を漏らしながら、リュカが私から指を抜いた。それからすぐに膝を開かれ、つん、と先端があてがわれる。熱い。でも、この熱が、堪らなく心地よい。これから与えられる甘美な刺激に、早くも胸がドキドキ高鳴る。

「八千代」

 ぐ、と圧がかかる。少しずつ、リュカが沈んでいく。
 これまでに経験したことのないサイズのそれは、とても大きくて――具体的に言えば太くて、長くて、熱くて――すっかり私はとりこになっていた。夢の中のブツだというのにこの骨抜きの有様は、やっぱり末期だからだろう。ナカをゴリゴリ擦っていくし、長いから奥の奥までしっかり当たって痛いくらいだし――もちろんただ痛いだけではなく、痛気持ちいいというヤツだ――熱いのも、私に興奮してくれているような気がして嬉しいし。ピストンの途中できゅっと膣圧をかけると、特に大きなエラ部分が引っかかってロックがかかったみたいになる。これもまた、愉しい。このブツは私のものだと、逃さないと主張しているみたいで――いや、私は何を考えているんだろう。確実に末期だ。どうしようもないほど末期だ。

「八千代、愛しています……早く貴女に出会いたいのに」

 時々、この夢の男は不思議な言葉を口にする。夢だからだろう、そういうわけで突っ込んでも意味がないだろう。当然私は無視をして、歓喜に身を任せるのみ。情緒など道端に置いておいて率直に述べるなら、男に媚びるような甘ったるい声を出すことに忙しいので、他の言葉を発するだけの余裕などないという話なだけで。とにかく、気持ちよくて仕方がないのだ。
 上から覆いかぶされて、噛み付くみたいなキスをされて、胸を乱暴に揉みしだかれて。でも、ちっとも嫌だとは思わなかった。愛の証みたいで、とても満たされた気持ちになった。

 やっぱり、この欲求不満ぶりは、末期だ。
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