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02話 曹操の苦労人な所がイイ
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朝起きて、足をすり合わせる。ベッドから起きて、体を捻る。……何の変化もない。パジャマはしっかり身につけているし、あそこが濡れた感触もないし、ぱんつも快適、筋肉痛もない。
――やっぱり夢だった。
私は今日も、いつもの結論に至るわけで。
もしかしたら、近々死ぬかもしれない。欲求不満をこじらせて。呆気ない人生だった。お母さんに「今までありがとう、そして先立つ不孝をお許しください」と電話せねばならないのか。
そうして私は決意する。
よし、合コンに行こう。
* * *
「雛子さーん」
お昼休憩になるや否や、私は総務課の雛子に会いに行った。囃子(はやし)雛子(ひなこ)は私の同期で、入社前研修と、入社後の社内インターンでちらっと関わりがあった程度。大学も趣味も全く異なり、髪が長いことと胸がでかいこと位しか噛み合う部分はないところ、実はその噛み合わないっぷりが心地よくて、しばしば一緒に飲みに行ったり買い物に出かけたりする仲だった。
「珍しいね、八千代がお昼を誘ってくるなんて」
雛子のお弁当はとても小さい。シャーベットカラーのマカロンみたいな二段のお弁当箱は、上におにぎり、下におかずが入っている。パプリカとエリンギのグリルに、ベーコンのアスパラ巻き、ハート型の卵焼き。おにぎりだってまぶしてあるふりかけの色が一つ一つ違っていて、さすが雛子、抜かりがないなと私は感心する。これならいつ意中の男に昼食を誘われても、恥じることなくドヤ! と出せる。しかし私は知っている、これは雛子のお母様が作っているということを。
ちなみに、私も昼食も手作りのお弁当だけど、「食べられたらそれでいい」くらいにしか思っていないので、夜の残りがほとんどだ。今日は野菜炒めと、プチトマトと、ちりめんじゃこ乗せ白ご飯。雛子のお弁当と並べられると若干の見劣りを感じなくもなかったけれど、張り合う必要性もない。
レストルームでお弁当を広げながら、私は本題を切り出した。
「実はね、」
「男が欲しいか」
正確には、本題を切り出そうとした。切り出すまでもなかった。
さすが雛子さん、こういうことの察しの良さは抜群だ。でも、その『力が欲しいか』みたいな魔王っぽい喋り方はいかがなものか。せっかく男ウケの良さそうな容姿をしている――彼女の努力の賜物だろう――のだから、もっと常にキャピキャピやっていたら良いと思うのだけれど。でも、以前「猫被るのもまじダリィ」って言っていたから、私といる時くらいは自由でもいいのかもしれない。周囲に気を配りながら。
私が肯定も否定もしないうちから、雛子はどんどん喋り出す。
「前の男と別れてから、そろそろ半年だもんね。次から次へと男を乗り換える尻軽女と思われず、かつ『枯れ果てている』とも思われない、あーちょっと寂しくなってきたんだろうな~って感じに男の庇護欲を煽る絶妙のブランクだわ」
「なにそれ怖い、そんな言い伝えがあったの? 今初めて聞いたよ? 私の村には伝わってないよ?」
雛子はどこまで計算をしているのか。私は末恐ろしくなった。
「でも男が欲しいんでしょ?」
「ええ、まぁ……」
実は最近、夢精しそうな淫夢を毎日見ておりまして。欲求不満でして。
そんな恥ずかしい暴露をせずとも話が進むので、助かることは助かっている。
「で? 合コンをセッティングして欲しいというわけだ?」
「うん。宜しくお願いします」
「どんなオスがいい?」
オス宣言。雛子は見た目完全にお淑やかなスイーツ系女子だけれども、その中身は完全なる肉食獣だ。
前に経験人数を聞いた時カンストして数年が経つと言っていたから、彼女にとってセックスはウォーキング程度の気軽なスポーツなのだろう。私も夢の中ではただひたすら享楽に耽らせて頂いたのだから、もしかしたら似た者同士なのかもしれない。
ちりめんじゃこの塩味を結構濃いなと感じながら、私はうーんと俯き唸る。
「どんな……と言われましても……雛子にお任せするよ。あんまり合コンとか参加したことないし、話が合えばどんな人でも。あ、でも、強いて言うなら八方美人な劉備よりは孤立してもめげずに頑張る曹操がいいし、力任せの呂布よりはクレバーな曹操の方がいい」
「あーごめん古代中国の武将に知り合いはいないんだ。現代人で許してね。じゃあ人数集まったら連絡するよ」
「どっちにしろ曹操がいいのかよ!」とか突っ込んで欲しかったのはもうどうでもいい。大体雛子は私の華麗なるボケを華麗にスルーするのだ。
「ありがとう。人数が足りなかった時とか、いつでもいいからね」
「いつでもいい」と言いながら、出来れば早めにお願いしますの意を込めて。
でもまさか、私が依頼した当日のうちに合コンに呼ばれるとは思わなかった。雛子からのメールによると、今夜開催する予定の合コンに男性側の追加の参加があったから、女性側も私を入れられるようになったという。雛子の幹事力と金曜の魔力に、私は心から感嘆した。
『営業一課のエリートが参加決定!お楽しみに(*^▽^*)/』
トイレで追加のメールを読みながら、今日の通勤服を思い出す。……しまった、もう少し露出の多い服を着て来た方が良かったかもしれない。
――やっぱり夢だった。
私は今日も、いつもの結論に至るわけで。
もしかしたら、近々死ぬかもしれない。欲求不満をこじらせて。呆気ない人生だった。お母さんに「今までありがとう、そして先立つ不孝をお許しください」と電話せねばならないのか。
そうして私は決意する。
よし、合コンに行こう。
* * *
「雛子さーん」
お昼休憩になるや否や、私は総務課の雛子に会いに行った。囃子(はやし)雛子(ひなこ)は私の同期で、入社前研修と、入社後の社内インターンでちらっと関わりがあった程度。大学も趣味も全く異なり、髪が長いことと胸がでかいこと位しか噛み合う部分はないところ、実はその噛み合わないっぷりが心地よくて、しばしば一緒に飲みに行ったり買い物に出かけたりする仲だった。
「珍しいね、八千代がお昼を誘ってくるなんて」
雛子のお弁当はとても小さい。シャーベットカラーのマカロンみたいな二段のお弁当箱は、上におにぎり、下におかずが入っている。パプリカとエリンギのグリルに、ベーコンのアスパラ巻き、ハート型の卵焼き。おにぎりだってまぶしてあるふりかけの色が一つ一つ違っていて、さすが雛子、抜かりがないなと私は感心する。これならいつ意中の男に昼食を誘われても、恥じることなくドヤ! と出せる。しかし私は知っている、これは雛子のお母様が作っているということを。
ちなみに、私も昼食も手作りのお弁当だけど、「食べられたらそれでいい」くらいにしか思っていないので、夜の残りがほとんどだ。今日は野菜炒めと、プチトマトと、ちりめんじゃこ乗せ白ご飯。雛子のお弁当と並べられると若干の見劣りを感じなくもなかったけれど、張り合う必要性もない。
レストルームでお弁当を広げながら、私は本題を切り出した。
「実はね、」
「男が欲しいか」
正確には、本題を切り出そうとした。切り出すまでもなかった。
さすが雛子さん、こういうことの察しの良さは抜群だ。でも、その『力が欲しいか』みたいな魔王っぽい喋り方はいかがなものか。せっかく男ウケの良さそうな容姿をしている――彼女の努力の賜物だろう――のだから、もっと常にキャピキャピやっていたら良いと思うのだけれど。でも、以前「猫被るのもまじダリィ」って言っていたから、私といる時くらいは自由でもいいのかもしれない。周囲に気を配りながら。
私が肯定も否定もしないうちから、雛子はどんどん喋り出す。
「前の男と別れてから、そろそろ半年だもんね。次から次へと男を乗り換える尻軽女と思われず、かつ『枯れ果てている』とも思われない、あーちょっと寂しくなってきたんだろうな~って感じに男の庇護欲を煽る絶妙のブランクだわ」
「なにそれ怖い、そんな言い伝えがあったの? 今初めて聞いたよ? 私の村には伝わってないよ?」
雛子はどこまで計算をしているのか。私は末恐ろしくなった。
「でも男が欲しいんでしょ?」
「ええ、まぁ……」
実は最近、夢精しそうな淫夢を毎日見ておりまして。欲求不満でして。
そんな恥ずかしい暴露をせずとも話が進むので、助かることは助かっている。
「で? 合コンをセッティングして欲しいというわけだ?」
「うん。宜しくお願いします」
「どんなオスがいい?」
オス宣言。雛子は見た目完全にお淑やかなスイーツ系女子だけれども、その中身は完全なる肉食獣だ。
前に経験人数を聞いた時カンストして数年が経つと言っていたから、彼女にとってセックスはウォーキング程度の気軽なスポーツなのだろう。私も夢の中ではただひたすら享楽に耽らせて頂いたのだから、もしかしたら似た者同士なのかもしれない。
ちりめんじゃこの塩味を結構濃いなと感じながら、私はうーんと俯き唸る。
「どんな……と言われましても……雛子にお任せするよ。あんまり合コンとか参加したことないし、話が合えばどんな人でも。あ、でも、強いて言うなら八方美人な劉備よりは孤立してもめげずに頑張る曹操がいいし、力任せの呂布よりはクレバーな曹操の方がいい」
「あーごめん古代中国の武将に知り合いはいないんだ。現代人で許してね。じゃあ人数集まったら連絡するよ」
「どっちにしろ曹操がいいのかよ!」とか突っ込んで欲しかったのはもうどうでもいい。大体雛子は私の華麗なるボケを華麗にスルーするのだ。
「ありがとう。人数が足りなかった時とか、いつでもいいからね」
「いつでもいい」と言いながら、出来れば早めにお願いしますの意を込めて。
でもまさか、私が依頼した当日のうちに合コンに呼ばれるとは思わなかった。雛子からのメールによると、今夜開催する予定の合コンに男性側の追加の参加があったから、女性側も私を入れられるようになったという。雛子の幹事力と金曜の魔力に、私は心から感嘆した。
『営業一課のエリートが参加決定!お楽しみに(*^▽^*)/』
トイレで追加のメールを読みながら、今日の通勤服を思い出す。……しまった、もう少し露出の多い服を着て来た方が良かったかもしれない。
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