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05話 覚えているから抗えぬのだ
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「お風呂! お風呂に入らせて! 仕事して帰ってきたままだし、ああ汗かいてるしっ」
「いつもより味わい深いですね。私は大歓迎ですよ? 終わったら一緒に入りましょうか」
「自己紹介! まずは自己紹介しようっ!」
「石田八千代、二十四歳。誕生日は八月一日。郷里に両親と兄夫婦が住んでいる。好きな食べ物は甘いもの、これまでの男性遍歴は六人、うち性的接触を行ったのは三人。……このように、貴女にまつわる大抵のことは存じあげているのですが」
「…………」
リュカはストーカーさんだったのだろうか。
唇が首筋を這い、言葉を紡ぐごとにささやかな吐息が皮膚をくすぐる。腹に力を入れていないと、簡単に嬌声が漏れてしまいそう。
「あっあなたの! リュカの自己紹介まだ聞いてないし!」
「リュカ・ストレイフ三十歳。魔導師。貴女に入れあげています。愛したくて愛されたくて、今にも気が狂いそうです」
既に若干狂ってると思うよ。などと、気安く言えるわけもない。
「待って待って! リュカ! やだあぅんっ!」
拒絶の言葉を述べようとしたのに、タイミング良く胸の先端を摘まれて、ついつい女の声が上がった。
「……『やだ』? ……八千代、言っておきますけど、私は初めから貴女に無理強いした事など一度もありませんよ」
胸を揉まれる。サイドから寄せて集めるように大きく優しく愛撫しながら、両方の親指が、先端をくりくり悪戯する。
「最初に口づけをした時も許可を得てから行いましたし、挿入だって」
肩の方から、中心へ。鎖骨に舌を這わせると、谷間の間を通り臍をちろちろくすぐった。
「本当は、貴女と繋がるのはもっと後でもいいと思っていた。でも、貴女がいつも、もっとしてとか欲しいとか挿れてとか仰るから。愛する女性から求められて、私に拒む理由があるとでも?」
「ふぅ……っん、だって、……っく、夢の中の事だと思って……!」
縛られた両手で彼の頭を退かそうと押したら、気に入らなかったのか片腕でまた頭上のシーツに押し付けられてしまった。細身のくせに、容易く私を押さえつけていくら暴れてもびくともしない。――確かに、脱いだらなかなか引き締まって、筋肉と筋肉の境目がはっきりわかるくらい、綺麗な線で分割されていたけれど。
「とても美しかったです。全身から甘い香りが漂って、とろんとした瞳が色気を孕んで。全てが私を求めてくれているようでした。――幸せだった」
ちゅうっと音を立てて臍にキスを落としてから、「伸び」をするみたいに顔の位置を私と揃え、額と額をこつんと当てた。
「八千代。愛しています。誰よりも深く愛しています。貴女が欲しいのです。……駄目?」
宝石みたいな翡翠の瞳が、ベッドサイドのランプの灯りに揺れている。私よりも長い睫毛、私よりも高い鼻。何をとっても私なんかリュカの足元にも及ばない。だからこそ、どうして彼にこんなにも求められているのか、全ッ然分からないところなのだ。
でも、気後れしながらも、ごくごく近い距離で私の目と唇に交互に視線を送り口づけの許しを乞う彼に、ついつい唇を差し出そうとしてしまう自分もいた。
駄目、駄目よ八千代。
サカりのついた畜生じゃないんだから。
私は私を引き止める。
でも、自然と視線が彼の唇を追ってしまう。
顎が震える。浮いてしまう。キスを強請るのはどちらだったか。――彼? それとも、私?
「八千代。私には貴女が全てだ。今も、これからも。貴女だけを愛し続けるから」
自分の事を好きって言ってくれる人がいて、すっごく凄く求められて、しかも、その人がすっごく格好よかったら?
?茲を優しく撫でながら、髪を優しく梳きながら。
私の両手を抑え込んだ手はいつしかそこから離れていたけど、だからと言って私の両手が暴れ出すこともなかった。魔法で動きを封じられていたのは関係ない。意思の問題だった。
「愛してる。八千代。絶対に、幸せにする。後悔なんかさせない。お願いですから……また、触れる事を許して?」
彼の名が呼びたかった。どうしても呼びたくなった。
勝手に上がった顎のせいで、唇と唇の距離はほぼゼロに等しかった。
「…………リュカ」
やっぱり。
一瞬。
短い彼の名を呼べば、やはり唇が触れ合った。すぐ離れたけど、触れ合った感触がものすごく強烈。頭の中で、映像と感触が反響して、あまりのうるささに意識が遠のきかけるくらい。時間が経てば経つほどに――もちろんそんなに長い時間は経過していないはずだけれど――麻薬のように激しい情慾が私を襲う。
後悔するとかしないとか。獣だとか人間だとか。
愛ってなに? 生きるってなに? 何故私は存在している?
そういう哲学論っての、私はあまり好きじゃない。理由付けは後でも出来る。とにかく今は、猛烈に、目の前の彼に愛されたい。
「リュカ、……して」
彼の唇を乞うように見つめていたから、キスの寸前彼がどんな表情をしていたのか、私には全く分からない。すぐに唇が重なりあって、服も剥ぎ取られてしまったから、近い未来に訪れる快楽で頭が支配されてしまった。
「いつもより味わい深いですね。私は大歓迎ですよ? 終わったら一緒に入りましょうか」
「自己紹介! まずは自己紹介しようっ!」
「石田八千代、二十四歳。誕生日は八月一日。郷里に両親と兄夫婦が住んでいる。好きな食べ物は甘いもの、これまでの男性遍歴は六人、うち性的接触を行ったのは三人。……このように、貴女にまつわる大抵のことは存じあげているのですが」
「…………」
リュカはストーカーさんだったのだろうか。
唇が首筋を這い、言葉を紡ぐごとにささやかな吐息が皮膚をくすぐる。腹に力を入れていないと、簡単に嬌声が漏れてしまいそう。
「あっあなたの! リュカの自己紹介まだ聞いてないし!」
「リュカ・ストレイフ三十歳。魔導師。貴女に入れあげています。愛したくて愛されたくて、今にも気が狂いそうです」
既に若干狂ってると思うよ。などと、気安く言えるわけもない。
「待って待って! リュカ! やだあぅんっ!」
拒絶の言葉を述べようとしたのに、タイミング良く胸の先端を摘まれて、ついつい女の声が上がった。
「……『やだ』? ……八千代、言っておきますけど、私は初めから貴女に無理強いした事など一度もありませんよ」
胸を揉まれる。サイドから寄せて集めるように大きく優しく愛撫しながら、両方の親指が、先端をくりくり悪戯する。
「最初に口づけをした時も許可を得てから行いましたし、挿入だって」
肩の方から、中心へ。鎖骨に舌を這わせると、谷間の間を通り臍をちろちろくすぐった。
「本当は、貴女と繋がるのはもっと後でもいいと思っていた。でも、貴女がいつも、もっとしてとか欲しいとか挿れてとか仰るから。愛する女性から求められて、私に拒む理由があるとでも?」
「ふぅ……っん、だって、……っく、夢の中の事だと思って……!」
縛られた両手で彼の頭を退かそうと押したら、気に入らなかったのか片腕でまた頭上のシーツに押し付けられてしまった。細身のくせに、容易く私を押さえつけていくら暴れてもびくともしない。――確かに、脱いだらなかなか引き締まって、筋肉と筋肉の境目がはっきりわかるくらい、綺麗な線で分割されていたけれど。
「とても美しかったです。全身から甘い香りが漂って、とろんとした瞳が色気を孕んで。全てが私を求めてくれているようでした。――幸せだった」
ちゅうっと音を立てて臍にキスを落としてから、「伸び」をするみたいに顔の位置を私と揃え、額と額をこつんと当てた。
「八千代。愛しています。誰よりも深く愛しています。貴女が欲しいのです。……駄目?」
宝石みたいな翡翠の瞳が、ベッドサイドのランプの灯りに揺れている。私よりも長い睫毛、私よりも高い鼻。何をとっても私なんかリュカの足元にも及ばない。だからこそ、どうして彼にこんなにも求められているのか、全ッ然分からないところなのだ。
でも、気後れしながらも、ごくごく近い距離で私の目と唇に交互に視線を送り口づけの許しを乞う彼に、ついつい唇を差し出そうとしてしまう自分もいた。
駄目、駄目よ八千代。
サカりのついた畜生じゃないんだから。
私は私を引き止める。
でも、自然と視線が彼の唇を追ってしまう。
顎が震える。浮いてしまう。キスを強請るのはどちらだったか。――彼? それとも、私?
「八千代。私には貴女が全てだ。今も、これからも。貴女だけを愛し続けるから」
自分の事を好きって言ってくれる人がいて、すっごく凄く求められて、しかも、その人がすっごく格好よかったら?
?茲を優しく撫でながら、髪を優しく梳きながら。
私の両手を抑え込んだ手はいつしかそこから離れていたけど、だからと言って私の両手が暴れ出すこともなかった。魔法で動きを封じられていたのは関係ない。意思の問題だった。
「愛してる。八千代。絶対に、幸せにする。後悔なんかさせない。お願いですから……また、触れる事を許して?」
彼の名が呼びたかった。どうしても呼びたくなった。
勝手に上がった顎のせいで、唇と唇の距離はほぼゼロに等しかった。
「…………リュカ」
やっぱり。
一瞬。
短い彼の名を呼べば、やはり唇が触れ合った。すぐ離れたけど、触れ合った感触がものすごく強烈。頭の中で、映像と感触が反響して、あまりのうるささに意識が遠のきかけるくらい。時間が経てば経つほどに――もちろんそんなに長い時間は経過していないはずだけれど――麻薬のように激しい情慾が私を襲う。
後悔するとかしないとか。獣だとか人間だとか。
愛ってなに? 生きるってなに? 何故私は存在している?
そういう哲学論っての、私はあまり好きじゃない。理由付けは後でも出来る。とにかく今は、猛烈に、目の前の彼に愛されたい。
「リュカ、……して」
彼の唇を乞うように見つめていたから、キスの寸前彼がどんな表情をしていたのか、私には全く分からない。すぐに唇が重なりあって、服も剥ぎ取られてしまったから、近い未来に訪れる快楽で頭が支配されてしまった。
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