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「第一章:謎の援軍」
「もうひとりの仲間」
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~~~フルカワ・ヒロ~~~
倉庫街の奥の奥、絡み合うツタによって隠されていた古びた木の扉を開けると、らせん状の階段が下へと伸びていた。
石壁や踏板も、街を形成するそれとは微妙に材質が違うななどと思いながら下っていくと……。
「ここはな、かつては悪魔族が支配していた砦だったのだ。それをリディア王国が奪い、防衛力を強化して拠点とした。元々の水道施設の使える部分は使い、そうでない部分は放置した。その結果、こういった空白が産まれることとなったのだ」
この先に水道整備用の、今は使われていない小部屋があるのだとアールは教えてくれた。
「そ、そうなんだ……?」
聞きたいことはいくらでもあったが、聞けなかった。
助けてもらったとはいえ、アールは悪魔だし。
そんな会話をしながらも今まさに、レインは悲鳴を上げながら階段を引きずり降ろされている最中だったから。
俺はおっかなびっくり、その後に続いていた。
辿り着いた先は、10畳ぐらいの地下室だった。
大きなテーブルがひとつ、椅子が4つある。
食料貯蔵用と衣服収納用に長持がひとつずつ。
壁には頑丈な壁掛けフックがある。
今はアールのものだろう背負い袋やマントなどが掛かっているが、昔は水道整備用の道具類でも引っ掛けていたのだろうか。
「奥の扉を開けると受水槽があり、そこから導水管が伸びている。いずれも今は使われていないものなので水は無い。辿れば門を通らずに外の取水口へと出ることが出来る」
「なるほど……」
悪魔族のアールがどうして街の中にいられたのかが不思議だったんだけど、その理由がようやくわかった。
秘密の通路じみたここを通じて、適宜出入りしていたんだ。
「アールはずっとここに住んでるの?」
部屋にはしっかりとした生活感がある。
食事をした形跡、睡眠をとった形跡、テーブルの上には読みかけの本がある。
数年間をかけて蓄積されたのだろう体臭も感じた。
悪魔族特有のものなのだろうか、アールのそれはミルクみたいな良い香りがした。
「ずっと、というと語弊があるな。たしかにここを住めるようにしたのは数年前だが、ここだけではないのだ。他の都市にも同じような拠点があり、それぞれを転々として暮らしてきた。いつどこに勇者殿が移動してもいいように」
「…………マジすか」
悪魔族のアールが、危険を冒してまで人間族の領域に隠れ家を設けてそこに潜む。
『七星』たちの手から勇者を、つまりは俺を解放するために、常に油断なく機会を窺う。
まだ年若いアールにとって、それはどれだけ大変なことだっただろう。
「それ全部……先代の……トーコさんという人との約束を果たすために?」
「その通りだ。トーコは最後まで、自らの後輩が同じ目に遭わぬようにと願っていた」
「最後まで……」
つまりアールは、死の瞬間を目にしたのだろうか。
王族貴族の食卓に上がり、喰われたというトーコさんの。
どうやって? どんな状況で?
ふたりはそもそもどういう関係なの?
聞いていいのかどうか悩んでいると……。
「なので良かったぞ、勇者殿。そなたを助けることが出来て」
アールはすっと目を細めるようにして笑った。
思わず見惚れてしまいそうな、静かで、綺麗な笑みだった。
「いささか急ではあったが、最悪の事態を防ぐことが出来た。トーコとの約束の、まずは三分の一を果たすことが出来た」
「三分の一?」
首を傾げる俺の目の前に、アールは指を三本立てた。
「ひとつ、勇者殿を七星の手から逃がすこと。ふたつ、勇者殿を安全な場所まで移送すること。みっつ、勇者殿を元の世界に還すこと」
指を三本順番に折ると、アールは約束の内容を聞かせてくれた。
「俺を……元の世界に……?」
思ってもみなかった言葉が出てきたことに驚いていると……。
「さて、当面の問題はふたつ目だな。七星どももこのままで済ませる気はあるまい。あらゆる手段を使い、地の果てまでも追って来るだろう」
「こ、怖い事言うな……」
「だが事実だ」
怖気を振るう俺に、アールは冷静に告げた。
「勇者喰いは国の根幹に関わる秘密なのだ。それを逃がしたとあらば、たとえ七星だろうと極刑は免れまい。本人はもちろん、家族だとて無事には済まぬ。当然、死に物狂いになるだろう」
「……っ」
俺は思わず、ゴクリと唾を呑み込んだ。
『鉄壁のベックリンガー』
『黒槍のジャカ』
『神弓のシャルロット』
『縛鎖のパヴァリア』
『不死のミト』
『皆殺しのカーラ』
それぞれが一騎当千の力を持つ七星を敵に回す。
その想像はあまりにおぞましく、恐ろしすぎた。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあどうすれば……はっ? 逃げる? そうだよな? 今すぐ逃げないとヤバいよな? 導水管を通って街の外に出て、ともかく遠くへ……」
「まあ待て、勇者殿」
奥の扉を開けようとした俺の襟首を、むんずとばかりにアールが掴んだ。
「地の利も組織力も、完全に向こうのものだ。単純に逃げてもすぐに追いつかれる」
「だ、だったらどうすれば……っ?」
「先制攻撃を仕掛け、出鼻をくじくのだ」
「……は? え、ええー……?」
思ってもみない返答だった。
あの七星から逃げずに、むしろ仕掛けていく?
「そ、そんなの無理じゃ……? アールがいくら強くたって、ひとりではさすがに……」
「何を言っている。三人いるではないか」
「……は? ん、んんー……?」
思ってもみない返答だった。
どう考えたって計算が合わない。
「だってここにいるのはアールと……」
「勇者殿と」
「え? 俺? は? え、マジで? 俺も計算に入ってるの?」
「そしてもうひとりだ。のう、ここまで言えばわかるであろう? どうして我が、わざわざ他に見とがめられる危険を冒してまでここに連れて来たのか」
驚く俺に、アールはニヤリと笑って見せた。
先端の尖った尻尾をくいくいと器用に動かし、もうひとりを指し示した。
「………………え?」
指し示された当の本人が、一番驚いたようだった。
両手両足に鉄枷を嵌められて床に転がらされていたレインは、目をパチクリさせて驚いた。
「もしかして……ボクのことを言ってるの?」
倉庫街の奥の奥、絡み合うツタによって隠されていた古びた木の扉を開けると、らせん状の階段が下へと伸びていた。
石壁や踏板も、街を形成するそれとは微妙に材質が違うななどと思いながら下っていくと……。
「ここはな、かつては悪魔族が支配していた砦だったのだ。それをリディア王国が奪い、防衛力を強化して拠点とした。元々の水道施設の使える部分は使い、そうでない部分は放置した。その結果、こういった空白が産まれることとなったのだ」
この先に水道整備用の、今は使われていない小部屋があるのだとアールは教えてくれた。
「そ、そうなんだ……?」
聞きたいことはいくらでもあったが、聞けなかった。
助けてもらったとはいえ、アールは悪魔だし。
そんな会話をしながらも今まさに、レインは悲鳴を上げながら階段を引きずり降ろされている最中だったから。
俺はおっかなびっくり、その後に続いていた。
辿り着いた先は、10畳ぐらいの地下室だった。
大きなテーブルがひとつ、椅子が4つある。
食料貯蔵用と衣服収納用に長持がひとつずつ。
壁には頑丈な壁掛けフックがある。
今はアールのものだろう背負い袋やマントなどが掛かっているが、昔は水道整備用の道具類でも引っ掛けていたのだろうか。
「奥の扉を開けると受水槽があり、そこから導水管が伸びている。いずれも今は使われていないものなので水は無い。辿れば門を通らずに外の取水口へと出ることが出来る」
「なるほど……」
悪魔族のアールがどうして街の中にいられたのかが不思議だったんだけど、その理由がようやくわかった。
秘密の通路じみたここを通じて、適宜出入りしていたんだ。
「アールはずっとここに住んでるの?」
部屋にはしっかりとした生活感がある。
食事をした形跡、睡眠をとった形跡、テーブルの上には読みかけの本がある。
数年間をかけて蓄積されたのだろう体臭も感じた。
悪魔族特有のものなのだろうか、アールのそれはミルクみたいな良い香りがした。
「ずっと、というと語弊があるな。たしかにここを住めるようにしたのは数年前だが、ここだけではないのだ。他の都市にも同じような拠点があり、それぞれを転々として暮らしてきた。いつどこに勇者殿が移動してもいいように」
「…………マジすか」
悪魔族のアールが、危険を冒してまで人間族の領域に隠れ家を設けてそこに潜む。
『七星』たちの手から勇者を、つまりは俺を解放するために、常に油断なく機会を窺う。
まだ年若いアールにとって、それはどれだけ大変なことだっただろう。
「それ全部……先代の……トーコさんという人との約束を果たすために?」
「その通りだ。トーコは最後まで、自らの後輩が同じ目に遭わぬようにと願っていた」
「最後まで……」
つまりアールは、死の瞬間を目にしたのだろうか。
王族貴族の食卓に上がり、喰われたというトーコさんの。
どうやって? どんな状況で?
ふたりはそもそもどういう関係なの?
聞いていいのかどうか悩んでいると……。
「なので良かったぞ、勇者殿。そなたを助けることが出来て」
アールはすっと目を細めるようにして笑った。
思わず見惚れてしまいそうな、静かで、綺麗な笑みだった。
「いささか急ではあったが、最悪の事態を防ぐことが出来た。トーコとの約束の、まずは三分の一を果たすことが出来た」
「三分の一?」
首を傾げる俺の目の前に、アールは指を三本立てた。
「ひとつ、勇者殿を七星の手から逃がすこと。ふたつ、勇者殿を安全な場所まで移送すること。みっつ、勇者殿を元の世界に還すこと」
指を三本順番に折ると、アールは約束の内容を聞かせてくれた。
「俺を……元の世界に……?」
思ってもみなかった言葉が出てきたことに驚いていると……。
「さて、当面の問題はふたつ目だな。七星どももこのままで済ませる気はあるまい。あらゆる手段を使い、地の果てまでも追って来るだろう」
「こ、怖い事言うな……」
「だが事実だ」
怖気を振るう俺に、アールは冷静に告げた。
「勇者喰いは国の根幹に関わる秘密なのだ。それを逃がしたとあらば、たとえ七星だろうと極刑は免れまい。本人はもちろん、家族だとて無事には済まぬ。当然、死に物狂いになるだろう」
「……っ」
俺は思わず、ゴクリと唾を呑み込んだ。
『鉄壁のベックリンガー』
『黒槍のジャカ』
『神弓のシャルロット』
『縛鎖のパヴァリア』
『不死のミト』
『皆殺しのカーラ』
それぞれが一騎当千の力を持つ七星を敵に回す。
その想像はあまりにおぞましく、恐ろしすぎた。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあどうすれば……はっ? 逃げる? そうだよな? 今すぐ逃げないとヤバいよな? 導水管を通って街の外に出て、ともかく遠くへ……」
「まあ待て、勇者殿」
奥の扉を開けようとした俺の襟首を、むんずとばかりにアールが掴んだ。
「地の利も組織力も、完全に向こうのものだ。単純に逃げてもすぐに追いつかれる」
「だ、だったらどうすれば……っ?」
「先制攻撃を仕掛け、出鼻をくじくのだ」
「……は? え、ええー……?」
思ってもみない返答だった。
あの七星から逃げずに、むしろ仕掛けていく?
「そ、そんなの無理じゃ……? アールがいくら強くたって、ひとりではさすがに……」
「何を言っている。三人いるではないか」
「……は? ん、んんー……?」
思ってもみない返答だった。
どう考えたって計算が合わない。
「だってここにいるのはアールと……」
「勇者殿と」
「え? 俺? は? え、マジで? 俺も計算に入ってるの?」
「そしてもうひとりだ。のう、ここまで言えばわかるであろう? どうして我が、わざわざ他に見とがめられる危険を冒してまでここに連れて来たのか」
驚く俺に、アールはニヤリと笑って見せた。
先端の尖った尻尾をくいくいと器用に動かし、もうひとりを指し示した。
「………………え?」
指し示された当の本人が、一番驚いたようだった。
両手両足に鉄枷を嵌められて床に転がらされていたレインは、目をパチクリさせて驚いた。
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