「勇者のハラワタは美味いらしい」

呑竜

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「第二章:残るは四人」

「残るは4人」

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 ~~~七星セプテム~~~



「これは……本当に現実の光景なの?」

 仲間ふたりの亡骸と濃厚な死の臭いに、シャルロットは声を震わせた。

 ベックリンガーは入り口からすぐのどん詰まりで、巨人に踏み潰されでもしたかのような無残な状態で発見された。 
 洞窟の奥、祭壇とおぼしき場所で、ジャカは自らの武器である素槍すやりで首筋を刺し貫かれていた。
 
「外にあった無数の骸骨兵士スケルトンの破片から考えるに、ふたりとも敵の罠に誘い込まれたと見るべきでしょうね」 

「ちょっとあなた! 何をそんな他人事みたいに……!」

 冷静に周囲を観察するパヴァリアの様子に、シャルロットはいきり立った。
 肘を掴んで怒鳴りつけようとしたが……。

「……他人事ですよ。少なくとも死んだのは僕じゃない」

 冷たい言葉とは裏腹。
 血が出るほどに強く歯を噛み締めているパヴァリアの心中を察し、すぐに手を離した。

 ちょうどそこへ、ミトの先導を受けたカーラが遅れてやって来た。
 ジャカの死骸、そして周囲の状況を観察したかと思うと、相変わらずの酷薄な調子で告げた。

「ジャカはヒロごと胴を刺されたな。そうして身動きのとれなくなったところを素槍で突かれたのだろう」

「まあ、さすがねカーラ。この状況からよく……」

「──どうしてそんなことがわかるの?」 

 感激の声を上げるミトをにらみ付けて黙らせると、シャルロットは斬り込むようにカーラに訊ねた。

「ただの勘で言ってるわけじゃないでしょうね? だとしたら、ふたりに対して失礼だわ」

「傷の形状、これはレインの短剣によるもので間違いない。しかも真っ正面からのものだ」

 カーラはしゃがみ込むと、ジャカの傷口を指差した。
 
「にも関わらず、深さは実に中途半端だ。間に何かを挟んだように見受けられる。状況及び身体的特性・ ・ ・ ・ ・から推測して、ヒロを囮に使って油断させたと考えるのが妥当だろう」

「味方ごと刺したってこと? そんな非常識な……」

 おぞましい光景を脳裏に思い描き、ふらつくシャルロット。

「逆だろう。ジャカほどの使い手から勝利をもぎ取るために打てる限りの手を打ったのだ。勝って生き残ることを戦場での常識とするなら、敵は極めて常識人だ」
 
 そう言い捨てると、カーラはさらにベックリンガーの殺害場所に移動すると、すぐにその仕掛けを看破かんぱし見せた。

「なるほど、入り口付近にあるスイッチを叩くと鉄格子が落ち、同時に天井全体が落ちてくる仕掛けだな。そして特に秀逸なのはここだ」

 部屋の奥まで行くと、カーラは上を指差した。

「ちょうど人ひとり分の穴が開いていてるだろう? おそらく敵は、この部屋に先に入ることでベックリンガーを誘い込んだのだ。そうして後から何者かにスイッチを操作させた。天井が落ちてくれば、普通の人間はまず脱出口である鉄格子の方に走る。まさか奥へ走ることが正解だとは思うまい」

 状況へのほぼ完璧な推察を披露すると、カーラはバッと手を振った。
 それは彼女が命令を出す時の癖だった。
 
「皆、よく聞け。敵は勇者信仰者の一群だ。しかもこの日のために多くの仕掛け、策略を施している。レインはすでに敵の懐にあり、我らにその剣を向けている。努々ゆめゆめ油断するな。我らが手の内は、すべて知られていると考えよ」

『……はっ』

 3人は一斉にひざまずくと、矢継ぎ早に繰り出されるカーラの命令に耳を傾けた。

 そんな彼女らの背後の壁に、おそらく死者の血で書かれたものだろう文字がある。
 リディア西方域の古語で数語。

 ──残るは4人、と。 
 
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