「勇者のハラワタは美味いらしい」

呑竜

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「第二章:残るは四人」

「昔の話」

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 ~~~フルカワ・ヒロ~~~



「……なあ、ひとつ聞いていいかい?」

 レインの寝息を確認してから、俺はアールにたずねた。
 レインにあまり騒がれたくないというのもあったが、一番大きいのは、今からする質問がアールの最もデリケートな部分に触れるものだろうと思ったからだ。
 
「アールはさ、どうしてそんなに、俺のために力を貸してくれるんだい?」
 
 パチパチと弾ける焚火の熱を掌に感じながら、かねてからの疑問を口にした。

「……うん?」

 聞こえなかったのだろうか、あるいは聞いていないふりをしているだけか。
 アールはこてんと可愛らしく首を傾げた。

「それだけの年月をかけてまで準備してきたのは、どうしてだい?」

 俺は構わず、言葉を重ねた。

「なあ、わかるだろ? 魔族なのに、勇者の味方をしてきたのはどうしてだって聞いてるんだよ」
「んんー……そうだのうー……」

 核心を突いた俺の質問からのがれられないと思ったのだろう。
 アールは鍋に残った豆のスープに茶褐色のお茶っ葉を入れると、かき回しながら口を開いた。
 
「信じてくれるかはわからんが、我にも幼い頃はあってな……」

 ポツリ。
 ポツリと。
 優しい雨だれのようなトーンで、語り出した。



 ──トーコが死んだのは、今から5年前のことになる。
 我とトーコが出会ったのは6年前。つまりはせいぜい1年程度のつき合いしかないことになるな。

 その頃我は、見聞を広めるために人族の領土を旅していた。
 角を隠す帽子をかぶり、尻尾を隠すローブを着てな。
 当時よわい10歳の幼生体ようせいたいであった我の角や尻尾は、ちょこんと可愛いものだったからの。
 それぐらいの変装でも、旅するのに支障はなかったのだ。

 だがある時、街の衛兵にバレてしまってな。
 逃走むなしく、捕まってしまってな。
 さんざんぶたれ、蹴られてな……。
 骨が折れて、内臓が破れて、至るところから出血が止まらなくなって……。

 ああ、これで終わりなのか。そう思った。
 短く意味のない生涯だったなと、路上にうずくまりながら思っていた。

 だけどそこに、救いの手が差し伸べられた。
 白銀の全身鎧フルプレートに身を包んだ女が、我と衛兵たちの間に立ち塞がったのだ──



「それが……トーコさん?」

 俺が問いかけると、アールは目を細めるようにしてほほ笑んだ。

「そうだ。『白銀』の勇者トーコ。北の魔神を単騎で討ち取ったあいつは、当時は生ける伝説として崇められていた。多くの吟遊詩人の物語サガに歌われ、庶民にも絶大な人気があった。魔族とはいえだいの大人が寄ってたかって子供をいたぶるものではないと衛兵たちをさとしたトーコは、すかさず『大治癒メジャーヒール』で我を癒すと、その場から連れ去ってくれたのだ。ただ命を助けるだけでなく、安全な場所へ連れて行こうとまでしてくれたのだ」
  
「勇者なのに……魔族を助けたの? しかもアフターケア付きで?」

「そうだ、その通り。わかるだろう? トーコはな、なんともおかしな奴だったのだ」

「……」

 くすくすと笑うその姿には、七星セプテムと対峙した時のような鬼気迫る様子は無い。
 年頃の普通の女の子みたいな無邪気さだけがあった。

 そしてそれが、余計に俺の胸を締め付けた。
 本来のアールとはもしかしたらこういうごくごく普通の女の子だったかもしれないわけで……。
 でも、今ここでこうしているということは……。

「それからしばらくの間、我とトーコは共に旅をした。はぐれた仲間とトーコが合流するまで。もしくは我が真に落ち着ける場所にたどり着けるまでという期限付きでな」

 なおも続くアールの昔話に、俺は真剣に耳を傾けた──
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