ハルカカナタ

立花 律

文字の大きさ
上 下
5 / 8

勉強

しおりを挟む





「で、このざま?本当にお馬鹿だね」




佐山の声が聞こえて、脳で理解することをやめた。


目の前には、52点と書かれた国語の答案用紙と課題のプリントたんまりと。




「お馬鹿なメガネくん。僕が助けてあげようか?」



「もちろん、有料でさ」





女子の皆さん。

お前らが天使だと宣うこいつは、間違いなく悪魔だ。
ミルクティー色の癖っ毛がチャームポイントらしいが、いつかその髪グッシャグシャにしてやりたい。


ぎろりと睨みつけても、けたけた嗤うこいつには効果がない。
目つき悪いはずなのに、おかしい。



「古典難しいし、赤点って訳じゃないしさ。春希は色々言い過ぎ」


「だって、あーんなに言ったのに。結局ここでも読む順番間違えてるしさ。レ点、忘れたの?」


「いや、忘れてない。覚えてはいるけど…」


「応用は、別だよな」



篠原の前には、化学の答案用紙。

点数部分は端から折られて伏せている。見えない。俺はこんなに堂々としてるのに。

だが失点部分は多そうだ。

こいつも、仲間だな。



「2人とも、ぐだぐだ言わずさっさとプリントやりなよ。僕帰るからさ」




にんまり笑顔。

佐山の片手にはコーヒーの缶。
ぐびりと飲む姿は、いまだに慣れない。





「春希、それ俺のおごりだったよね」



ぽつりと、篠原が。




佐山の顔が、ぴしりと固まった。

ちなみにそれ、俺も出資してるからな。




ーーーーー

ーー




「あり得ない!あり得ないでしょ!お前ら60円ずつで僕の家庭教師代?ふざけんなよ。足りないって!」



女子ではない、少しトーンの高い声。
教室に響く響く。

癖っ毛が逆立っているようにも見える。
猫か、お前は。



「よかったね鈴木。ちょうど教えてくれる人がいて」


「お、おう。助かるわ」


「彼方!ふざけんな!メガネも、なーに教えてもらう気満々なのさ」


「ありがとね、春希」


「ありがとな、佐山」



ふわりと笑う、篠原はつよい。

これはもう、右に倣えでいいか。




「お前ら2人とも、覚悟してなよ」






なんだかんだで、こいつ。
俺のこと見捨てないんだな。



しおりを挟む

処理中です...