冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第1章 魔犬

13.旅立ち

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【夜露の儀】を終えて2時間後、ユウトは城の入り口に立ち、皆との別れを惜しんでいた

疲れきった王の代役として、アーノルド第一王子が執事やメイド達を後ろに従え、リオルド夫妻の見送りに出てきた

「リオルド、ユウト気をつけて行くように。ユウト、城にまた顔を出すんだよ」

いつも大人しく、時にはクリスの後ろでオドオドしているようにすら見えるアーノルドだが、茶色の髪を後ろに撫で付け、サーコートを着ているとやはり王族なのだと知らしめられる

「私は1週間もすれば城に戻ります。それまで城を頼みます」
「あぁ、勿論だ。新婚旅行も行かないという話だし、代わりに一週間二人でゆっくりしてきてくれ」
「ありがとう。悪いが言葉に甘えさせて貰う」

ユウトが城に来てから驚いたことの一つはこれだ
クリスを二人で取り合ったのだから、さぞ険悪なんだろうと予想していたが、アーノルドとリオルドの兄弟仲は至って良好である
過去に二人がクリスを妃として取り合ったことは、貴族達の間では勿論のこと、領民達が日常的に噂話をするくらいカナーディルでは有名な話である
最終的にはクリスの判断に任せ、結局アーノルドと結婚し第一王子夫人に落ち着いたが、その後2~3年はリオルドの女遊びが激しくなり、非嫡子が出来てしまうのでは無いかと王も気が気でなかった…という後日談までついている

ーーーでもさ、クリス達は結婚して3年目。その後2~3年ってことは最近までリオルドは遊んでたってことだよね
身代わりの妃を貰ったくらいだし、まだクリスを忘れられないんだろうな
そう考えると可哀想な気がしてきて、早く別のいい人をみつけられるよう応援したくなってしまう

「ユウト」見慣れた大きなコバルトブルーの瞳が視界を遮った
「クリス!城では全然一緒にいれなかったね」
「それはリオルドのせいだよ」
ーーーうん、それは間違いない

「ハハッ。参ったな、クリスに言われたら謝らなきゃな。第一王子夫人、申し訳なかった。また城に連れてくるから」
「リオルド、約束だよ?必ずユウトを連れてきて」
「仰せのままに」

リオルドとクリスは冗談混じりに楽しそうに話していた。二人が話している時はいつもこの調子なので、ユウトはおろかアーノルドも会話には入ることが出来ないでいる

「ユウト様、お気をつけてくださいね。これ、持っていってください」

最初は苦手だったメイド長が餞別に紙袋を渡してきた
開けなくても袋の中から甘い匂いが漂ってきて、思わずお腹がぐぅ~と鳴り響く

「ありがとうございます。いい匂いだからお腹がなっちゃった」
「ふふふ。道中で召し上がってくださいね。メイ!しっかりユウト様のお世話をするんですよ!!」

急に自分に矛先が向いたメイは飛び上がり「あ、当たり前ですよ!任せてください!」と片手で胸をドンと叩いた

挨拶を終えたリオルド達はいよいよ馬車に乗り込む
王家の紋章がついた大きな馬車が一両、後ろに通常の馬車が二両。馬に乗った騎士が10人程度いて、その中にはクロードの姿もある

「じゃあ、行きましょうか!」と荷物を持ったメイが二両目の馬車に向かって歩く。ユウトもメイド長から貰ったお菓子の入った紙袋を抱えながらメイの後に続いた。
「よいしょっと」馬車の扉を開けたメイが「さあ、ユウト様どうぞ」と先に入るように促した。
ユウトが中へ一歩踏み出すと、後ろから襟首を掴まれ馬車から引き摺り降ろされてしまった

「おまえはこっちだ」

リオルドに襟首を捕まれたまま引き摺られ、足がもつれて上手く立ち上がることも出来ない
ズルズルと土の上にユウトの引き摺られた跡がつき、何とか両腕を回して抵抗してみたものの、騎士であるリオルドの力は強く全く歯が立たたない
段々首元が絞まってきて息が苦しくなったころ、一両目の大きな馬車の中にユウトは放り込まれた

「ゲホッゲホッ」

馬車に投げ込まれたユウトは通路の奥まで転がり、そのまま座り込んだ

「リオルド、あまりユウトを雑に扱うな!」
アーノルドの怒る声が聞こえる
「兄さん、あれはクリスとは違うんです。兄さんも同じ立場になればわかります」
「リオルド!」
「では、我々は旅立ちます。また一週間後に会いましょう」

リオルドはそういうと馬車に乗り込みバタンと扉を閉めた

「早く座れ」

革張りのシートに座ったリオルドは通路に座り込んだユウトを見下ろしながら言った
ユウトが起き上がり対面したシートに座ると、リオルドは自分の後ろにある小さなカーテンを開け、小窓から従者に馬車を出すように指示を出し、カーテンを閉めた

馬車はゴトゴトと音をたて順調に走っている
ユウトは窓際にもたれかかり窓の外の景色を黙って眺めていた
ーーー面白くない
何が...かはわからないけどモヤモヤする
ひどくバカにされたような気分だ
リオルドのクリスとユウトへの態度の違いは目を見張るものがある
引き摺られるユウトを見る皆の目は、憐れなものに向けられる、それその物だった

「おい」

ーーーなんだよ、うるさいな。今はお前と話したくない
本来なら今頃メイド長から貰ったお菓子を広げて、メイと景色を見ながら楽しく食べてるはずだったのに

「おい、返事をしろ」
「…なに?」

窓の外の流れる景色を目で追いながら適当に返事をした

「お前、肩を怪我してるだろう」

ーーー…なんで分かったんだ?
リオルドに馬車に放り込まれた時、ユウトは通路を転がり、壁に右肩を強打して止まった。ずっと座り込んでいたのも、肩が痛くて動かしたく無かったのだ

「…してない」

別にいい。別邸に着くまでくらいなら我慢出来そうだし、寄りかかっていれば耐えられる
あとでメイに薬草を塗ってもらえば大丈夫だ

「シャツを開けて肩を見せろ」

ユウトが窓にもたれ掛かったまま訝しげにリオルドを見ると、透き通るサファイヤブルーの瞳に捕まった
視線はユウトの瞳からとそれると鼻へ、首筋へと下におりていき、首元まで辿り着くとシャツのボタンのあたりをじっと見ている

「嫌だ!見てもらう必要なんてない!」

本当に見て貰う必要など無いのだ
骨が折れている訳じゃない。このくらいならみんな冷やしたり、薬草を塗って我慢する
もっと痛めば、町の診療所で見て貰えばいい

回復魔法は本来そんなことには使わない
戦闘時の体力回復や怪我の治療の為にある
平時に使うのは緊急の場合のみだ
只でさえ魔力を使う
普段から有事に備えて蓄えて置かなければならない

「早く治さないと悪化するぞ、見せろ」

ーーー今頃なんだよ。お前が荷物みたいにぶん投げたんじゃないか

リオルドがシートから腰を浮かせてユウトに近づいてくる
「いいってば!」ユウトは痛めていない左手で防ごうとしたが、その腕をリオルドに掴まれ捻り上げられてしまった

「大人しくしておけばいいものを」

器用に片手でボタンを開けたリオルドはシャツに手をかけると胸のあたりまで下げ、ユウトの右肩を露出させた

「真っ赤に腫れてるじゃないか」

熱く腫れた患部に冷たい手が触れたとき、ユウトは右手を大きく振りリオルドの手を払った

「いって……」

ユウトの右手は屈みこんでいたリオルドの頬にあたり、爪がかかった部分にはうっすらと線が入り血が滲んでいる

「本当にいらない!触らないで!」

ユウトは解放された左手を使い何とか脱がされたシャツを元にもどして、また壁に寄りかかり窓の外を見た

「チッ…勝手にしろ」

リオルドの遠ざかっていく気配がする
ホッとすると共に右肩にジンジンと痛みが戻ってきた
動かしたせいでさっきより痛みが増している
ーーーリオルドのせいだ、いいって言ったのに。
ユウトは肩の痛みからくる冷や汗と、馬車の揺れの度に襲う痛みに耐えながら窓の外の景色を見続けていた



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