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第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険
第19話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[7]
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「……入ってみようか」
なつみが言った。
「うん」
倉庫の中は、思ったよりも暗くなかった。
西日が天窓から差し込んでいて、ほこりが舞う中に金色の筋が浮かび上がっている。
床には、木の箱や錆びた一輪車、古い棚などが散らばっていた。
だがその真ん中に、小さな脚立のようなものがぽつんと置かれていた。
「なに、これ?」
なつみが近づいていく。
脚立の上に、小さな缶がのっていた。
フタはない。中には、何かが入っていた。
「……これ」
そらたがそっと指を差した。
「小瓶?」
なつみが手に取ると、透明な瓶の中には、紙が折りたたまれていた。
開くと、小さなメモが現れた。
【そらを ながめて おもいだして】
その言葉に、ふたりは顔を見合わせた。
「……お姉ちゃんの字、だ」
なつみがぽつりとつぶやいた。
「間違いない。これ、あのノートと同じ字だもん」
「じゃあ、ここも……“しるし”の場所?」
そらたがゆっくりうなずいた。
「うん。きっと、そう」
ふたりは倉庫を出て、外の空を見上げた。
空は、すっかり夕闇に包まれかけていた。
だが、雲の切れ間から、まだかすかにオレンジ色が残っていた。
「お姉ちゃん、空が好きだったんだ」
なつみがつぶやく。
「よく言ってた。“空って、なににも縛られないよね”って。だからかな。なんだか、空を見るとね、ちょっとだけ勇気が出るの」
そらたは黙って隣に立ち、同じ空を見上げていた。
「なっちゃん」
「うん?」
「ぼく、ちょっとだけほのかさんのこと、覚えてるよ」
なつみが驚いたように彼を見る。
「図書室で、一度だけ話したことがあるんだ。“そらたくんって、おっとりしてるけど、頭の中ではいろんなこと考えてそうだね”って」
「それ、言ってた……!」
なつみの目が潤んだ。
「ほんとに、そう言ってたんだ……!」
「うん。だからたぶん、この地図をなっちゃんが見つけるって、ほのかさんはちゃんとわかってたと思う」
「……」
「それに、ぼくが一緒に行くことも」
「なんで……?」
「だって、ぼくは“まほうつかい”だから。なっちゃんのそばにいるのが、ぼくの役目なんだよ」
夕暮れの風が、ふたりの髪を揺らす。
なつみは小さな声で言った。
「ありがとう、そらた」
「ううん」
そらたがゆっくり首を振る。
「ありがとう、って言いたいのはぼくだよ。なっちゃんと一緒にこうして歩けて、うれしいから」
ふたりの間に、しばらく言葉がなかった。
その静けさのなかで、遠くの夕焼けが夜に溶けていく。
やがて、なつみが小さく息を吸い込んで、言った。
「次の“しるし”、探しに行こう」
「うん」
少しずつ、なつみの中でお姉ちゃん―――ほのかの記憶が繋がっていく。
忘れかけていた思い出のピース。
この先にお姉ちゃんが伝えたいことが眠っているんだ、そう感じていた。
「この地図にある“まわる かげ”って、どこだと思う?」
「うーん……“まわる”っていうからには、時計? それとも、風車みたいな場所?」
「影ってことは、光も必要ってことだよね」
ふたりは、また歩きだした。
“まほうのとびら”は、特別な場所なんかじゃない。こうして日常のなかに、小さな“しるし”として、静かに息をしている。
そのことを、ふたりは少しずつ理解しはじめていた。
そしてその地図は、失われた誰かの想いをたどる、小さな冒険の地図でもあった。
“ゆうしゃ”と“まほうつかい”は、まだ見ぬ“しるし”を探して、ふたたび歩きはじめる。
なつみが言った。
「うん」
倉庫の中は、思ったよりも暗くなかった。
西日が天窓から差し込んでいて、ほこりが舞う中に金色の筋が浮かび上がっている。
床には、木の箱や錆びた一輪車、古い棚などが散らばっていた。
だがその真ん中に、小さな脚立のようなものがぽつんと置かれていた。
「なに、これ?」
なつみが近づいていく。
脚立の上に、小さな缶がのっていた。
フタはない。中には、何かが入っていた。
「……これ」
そらたがそっと指を差した。
「小瓶?」
なつみが手に取ると、透明な瓶の中には、紙が折りたたまれていた。
開くと、小さなメモが現れた。
【そらを ながめて おもいだして】
その言葉に、ふたりは顔を見合わせた。
「……お姉ちゃんの字、だ」
なつみがぽつりとつぶやいた。
「間違いない。これ、あのノートと同じ字だもん」
「じゃあ、ここも……“しるし”の場所?」
そらたがゆっくりうなずいた。
「うん。きっと、そう」
ふたりは倉庫を出て、外の空を見上げた。
空は、すっかり夕闇に包まれかけていた。
だが、雲の切れ間から、まだかすかにオレンジ色が残っていた。
「お姉ちゃん、空が好きだったんだ」
なつみがつぶやく。
「よく言ってた。“空って、なににも縛られないよね”って。だからかな。なんだか、空を見るとね、ちょっとだけ勇気が出るの」
そらたは黙って隣に立ち、同じ空を見上げていた。
「なっちゃん」
「うん?」
「ぼく、ちょっとだけほのかさんのこと、覚えてるよ」
なつみが驚いたように彼を見る。
「図書室で、一度だけ話したことがあるんだ。“そらたくんって、おっとりしてるけど、頭の中ではいろんなこと考えてそうだね”って」
「それ、言ってた……!」
なつみの目が潤んだ。
「ほんとに、そう言ってたんだ……!」
「うん。だからたぶん、この地図をなっちゃんが見つけるって、ほのかさんはちゃんとわかってたと思う」
「……」
「それに、ぼくが一緒に行くことも」
「なんで……?」
「だって、ぼくは“まほうつかい”だから。なっちゃんのそばにいるのが、ぼくの役目なんだよ」
夕暮れの風が、ふたりの髪を揺らす。
なつみは小さな声で言った。
「ありがとう、そらた」
「ううん」
そらたがゆっくり首を振る。
「ありがとう、って言いたいのはぼくだよ。なっちゃんと一緒にこうして歩けて、うれしいから」
ふたりの間に、しばらく言葉がなかった。
その静けさのなかで、遠くの夕焼けが夜に溶けていく。
やがて、なつみが小さく息を吸い込んで、言った。
「次の“しるし”、探しに行こう」
「うん」
少しずつ、なつみの中でお姉ちゃん―――ほのかの記憶が繋がっていく。
忘れかけていた思い出のピース。
この先にお姉ちゃんが伝えたいことが眠っているんだ、そう感じていた。
「この地図にある“まわる かげ”って、どこだと思う?」
「うーん……“まわる”っていうからには、時計? それとも、風車みたいな場所?」
「影ってことは、光も必要ってことだよね」
ふたりは、また歩きだした。
“まほうのとびら”は、特別な場所なんかじゃない。こうして日常のなかに、小さな“しるし”として、静かに息をしている。
そのことを、ふたりは少しずつ理解しはじめていた。
そしてその地図は、失われた誰かの想いをたどる、小さな冒険の地図でもあった。
“ゆうしゃ”と“まほうつかい”は、まだ見ぬ“しるし”を探して、ふたたび歩きはじめる。
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