ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

文字の大きさ
18 / 68
第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険

第18話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[6]

しおりを挟む
ふたりが次に向かったのは、公園から少し坂を上った先にある、古い路地裏だった。

地図には、「かくれた みち」とだけ書かれている。
地図を広げたそらたが「ここだと思う」と指さしたのは、住宅街のすき間のような、狭い路地だった。
車も通れないほどの細い道で、夕暮れ時のせいか、少しだけ薄暗い。

「……なんか、懐かしい匂いする」

なつみがつぶやいた。
夏の夕方の空気は、アスファルトの熱と土の匂いと、遠くから聞こえるセミの声を運んできた。
汗ばんだ肌にまとわりつく空気は、どこか子どもの頃の秘密基地を思い出させた。

「ここ、小さいときに一度だけ通ったことがあるかも」

彼女は目を閉じ、小さな頃の記憶を手繰るように言う。
そらたは優しくうなずきながら、彼女の後ろを静かに歩いた。
やがて途は折れ曲がり、向こうには古びた倉庫。
錆びたフェンス越しに見える屋根のわずかな隙間から、夕焼けに染まる空が顔を覗かせている。

──この景色には、ほのかの面影がある。

なつみは息を詰めて小さくささやいた。

「幼稚園くらいのとき。この場所の近くで、わたし泣いちゃったことがあるの。お姉ちゃんが抱きしめてくれて、『空を見なさい』って背中を向けさせたの。そこに映る雲が、全部流れていったから」

それだけ言うと黙り込み、ほんの数歩だけ進んだ。
そしてそらたのほうを向いて、言った。

「『空を見ると落ち着くんだ、空はどこまでも続いていくんだ』って―――」

そらたはなつみの瞳を見ながらそれだけ聞いてゆっくりと頷いた。

ふたりは並んで歩くことができず、縦に並んで進む。
まるで探検隊のように、ゆっくり歩を進めた。

路地は途中で折れ曲がっており、その先に、ぽっかりと空いた空き地があった。
フェンスに囲まれて、もう使われていないような古びた倉庫がひとつ建っている。

そらたは立ち止まり、じっと彼女を見る。
目の前にする幼い姉妹の記憶が、夕暮れの光と絡み合う。

「『空ってね、過去も未来も関係なくつながってるの』って、お姉ちゃんが言ってた。だからこの倉庫の上に見える空にも、つながる思いが詰まってる気がするんだ」

そんな記憶を思い出していた―――。
やがて進んだ道の先に地図と一致する場所があった。

「地図の“かくれた みち”の先にあるのは……“ひみつの そら”?」

そらたが地図を見ながら確認する。

「ここかな?」

なつみが倉庫を見上げた。
屋根が少し傾いていて、空が覗いている。
その空はちょうど夕焼けと夜の境い目で、どこか不思議な色をしていた。

ふたりはフェンスの隙間から中へ入る。

「だいじょうぶかな……入って」
「うん、たぶん大丈夫。でも気をつけて」

そらたがフェンスを押さえ、なつみが体をすり抜ける。
続いて彼も中へ入ると、ふたりは倉庫の前で立ち止まった。

扉は少しだけ開いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです

春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。 ここは通過点のはずだった。 誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。 触れない客。 身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。 「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」 突然の身請け話。 値札のついた自分と向き合う三日間。 選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、 通過点は終わりになる。 これは救いではなく対等な恋の話。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

処理中です...