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第一章

第二話 魔王として生きて抜き死んでくれ

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 継承のダンジョンコアを二人で魔法陣の中心に戻したあと、ラヴィアタンを抱きしめ尋ねる。

「ここにあるもの全てが私のものなら、君も私のものだよね? 貰っちゃっても良いよね?」
「同じ継承の魔王である我が、お主のものな訳がなかろう! 離れぬか!」

 ラヴィアタンが抱きついていた私を引き剥がす。

「先ずは、邪魔の入らぬ場所でお主の話を聞きたい」

 その一言で、私達はラヴィアタンの部屋にきていた。ぬいぐるみがところ狭しと飾られ、大きな天蓋付きのベッドが置いてある部屋だ。正確には『魔王の間』と呼ばれる場所だ。

「こちらが魔王様方の部屋でございます」

 ギギファラさん……褐色の肌をした、身長170センチ、黒髪のロングヘアーを編み込んでいる綺麗な女性だ。普段は目を閉じているようにしか見えないけど普通に歩いてるから見えてはいるのだろう。
 そのギギファラさん曰く、魔王の住む部屋だという。今日から、私の部屋でもあるらしい。つまりは合法的にラヴィアタンと同じ部屋で寝泊まりできる訳だ! 自分の身体より大きな枕を膝に乗せ、抱き締めてこちらを睨んでくるラヴィアタンを見ながら心で呟く。

 ……役得!

 ブボファッ! 口と鼻から血を噴き出すと、ラヴィアタンが叫ぶ。

「ヒィ! なんだこいつ、怖いんだが」

(顔を青くして仰け反り、怖がっている姿も可愛い)

『解りますよ』と言う声が頭の中に直接響くる。

 おや? と思い辺りを見回すと、ギギファラさんが少し興奮した様子で頬を染め頷いてくる……

(ナチュラルに心に語りかけてくるの止めて下さい?)

 ジト目で睨み、瞳から光を無くして微笑み、心の中で呟くと返事が来る。

(いえいえ、折角『ラアタン』の魅力を分かち合える方がいらしたのです。今から夜通し語り合いましょう!)
(私は一向に構わないけど、ラアタン? ラアタンが確実に暇しますよ。なかなか可愛い呼び方ですね。私もそう呼びましょう)

 呼び方が気に入ったので、心の中で同じ呼び方をしようと決めた。

(気やすく呼びすぎかな? これって嫌われるやつでは?)

 ちらりと、ラアタンを見て最高の笑顔で微笑む……にちゃあっ。

「ヒィ! こっちを見るなぁ!」

 怖がられた。おかしいな、最高にいい笑顔ができたと思ったんだけどな? ラアタンは盾のように枕を構え、その後ろに隠れる。

 ……可愛い!

 ンブボファ! 先程より多く倍近い量の血を流す。するとお腹が盛大に鳴る。

「血を吐き過ぎたのでお腹が空きましたね? ご飯にしませんか?」
「ええ~、お前変な体してるなぁ」

 本気でドン引きされた。少しショックだったので、今後は吐血や鼻血を控えようと心に誓い、ギギファラさんに心の中で語りかける。

 (ファニチキ下さい)

 と心の中で語りかけてみる。

 (ファニチキですね。分かりました)

 頷くと部屋から出て行く。

『こいつ直接脳内に!』

 とかボケてはくれなかった。私の記憶を全て覗ける訳では無さそうだ。などと考えているとラアタンが気になったのか聞いてくる。

「お前達、なんでアイコンタクトで会話できるんのだ?」

 なるほど、ラアタンとはこのテレパシーぽいのしたことがなさそうだ。なんとなく言わないでおこうと思った。
 ギギファラさんが持ってきてくれた料理は、ただのでかい骨つき肉だった。美味しそうに被り付くラアタンを見ながら普通に聞いてみる。

「コレは、何ですか?」

 普通に聞いてみると、もじもじしたギギファラが頬を染め、恥ずかしそうに答えてくれた。

チキ、です!」

 青い顔をして「コトンッ」とラアタンの方へお皿を渡す。なんで違うお肉持ってきたのかな? 自分を食べさせたいのかな?

「要らんのか? 旨いぞ、ファーラル・ココッコのチキン?」
「頂きます」

 皿を戻しながら、心の中で突っ込みを入れる。

(名前が似てるだけかよっ!)

 ギギファラは手で口元を隠しながら「プククッ」と笑っている。本当は心の中も記憶も全部が見えてるんじゃないだろうか?

(こ、こなくそー!)

 からかわれていたことに気がつき、顔を赤くしながら骨付き肉の骨部分を掴み、豪快にかぶりつく。ファラチキの肉汁が口内に満ちる、めちゃくちゃ美味しかった。

(これ絶対に太るやつだ。飲み物が赤ワインぽいけど、お酒じゃ無いよね?)

 葡萄ぽい味がした。

「それで、どうやって魔王城に入った。なぜ、継承の魔王としてダンジョンコアに認められたのだ? お主、何者だ?」

 真面目な顔でラアタンに聞かれたため、今までの成り行きを骨つき肉に齧りつきながら話す。

「女神か……異世界から来た異界人いかいびとなどニ百年以上前の文献か子供向けの童話にしかないぞ? 実は忍び込んだだけの変質者ではないのか?」
「違いますから! 私が変質者なら、地球人は全員変質者ってことですよ!」
「そうか、酷い世界だったのだな」

 なぜか、同情された。分からない。

「だが異界人なら、継承の儀を受けれたのも納得ができるぞ」

 継承のダンジョンを創った初代の魔王は異界人だったという。異界人であることか、その血を継ぐことが継承の条件なのかも知れない。なぜ同時に魔王になれたかは分からないらしいが。

「お主、こちらの世界についてどれほど知っておる?」
「この世界についての説明は、なにもなかったのでまったく分かりません」
「そうか、酷い女神だったのだな」

 私が暴走したせいで、話せなかったのかも知れない。
 
「この世界については聞けなかったけど、かわりに特別なユニークスキルとか貰えましたよ」
「おお! 定番のアレか」
「定番のアレですね」
「定番なの?」
「うむ、定番だぞ! 異界人は魔族の間では魔王として、人間共の間では勇者として伝えられていたからな。変わったユニークスキルを持っていたとな」

 定番なのか、さっき話していた童話とやらに出てきてたのかも知れない。定番といえばもう一つ……

「ステータスオープン?」

 連れて来られる前に見た。ステータスボードさんが現れる。

海屋ウミヤ カナエ

種族『魔王』
※HPとMPに✕100の補正。
その他
※運のステータスに以外に✕10の補正

年齢『15歳』
身長『150センチ』
体重『41キロ』

ユニークスキル
『変異召喚』レア度『※災厄級』
※知識に依存。

『複合錬成』レア度『※災厄級』

ジョブ
メイン『魔法師』レベル20
サブ『ダンジョンマスター』レベル5

ステータス
HP『2000/200✕100』
MP『5000/500✕100』
DP『1,000,000』

力『650/65✕10』
守備力『1200/120✕10』
素早さ『1530/153✕10』
器用さ『1380/138✕10』
知力『1』(※固定)※知識の影響するスキルにマイナス補正。
運『58』
ステータスポイント『0』


スキル
『・異世界言語理解』『※女神の呪い』
スキルポイント『25』

と出ている。

《知力『1』!》

 左右で覗き込む様に移動して来ていた二人がステータスボードから目を話し私の方を見ながら言う。

「知力以外は平均的だな」
「知力以外は平均的ですね」
二つ・・のユニークスキルも持っておるし、異界人で間違いなさそうだな」

 知らない内に種族が〝魔王〟になってたり、勝手に決められてるぽい〝ジョブ〟とかは一旦置いておいて、あからさまに『※女神の呪い』が際立って見える!

(女神様、抱きついて匂いかいでだの恨んでるよね? ちきしょぉぉぉぉぅ!)

 プルプル震えながら、心の中で叫ぶ。

「頭は悪そうだが、知力は一部のスキルにしか影響せぬしな、魔王しての素質はなかなかだ。異界人なのも良いな……」

 思考顔していた。ラアタンが私に向き直り一歩飛び退き、こちらを指差し問いただす。

「お主! 我の代わりに魔王として生き抜き死んではくれぬか?」

 私も立ち上がり、くしゃくしゃにした顔で拒絶のお辞儀をする。

「死にたくないでっす!」


 私が迷わず、死亡宣告を断っていた頃。過酷な一日のノルマをなんとか終わらせ、神界に戻ってきた女神がいた。

「つーかーれーたー」

 なんで私がこんなに働かなくては、いけないんだろうか? 序列の上の方になれば毎日食っちゃ寝できると聞いて頑張って第三位まで上り詰めたのに、全然話が違う気がする。三十年ほど惰眠を貪りたい。

「まあ、温泉に入って疲れを癒やしますかー」

 神々の神殿には、日本の銭湯に似た暖簾のれんがかかった温泉がある。因みに混浴だ。序列、第二位の神が趣味で用意したものらしいが割と人気だった。いつものように服を脱ぎながら暖簾を潜ろうとするとハッと気がつく、なんで私はまだ子供の姿でいるんだろうか? 自分の姿を確認すると縮んだままだった。いつの間にか胸の大きさだけ、元のサイズに戻っていたので違和感が消えていたのかも知れない。

「忘れてたー。あのあと対応した人間達全員に、この姿が本当の姿と認識された気がする……はぁ」

 ため息と共に指を掲げ鳴らす。光が身体を包み、元の姿に戻って……はいなかった?

「はふぇ? な、なんで?」

 目線の高さが変わらなかった。

(おかしいなぁ?)

 自分の身体を確認すると髪は水色になり、三割増で髪にウェーブがかかり、フリフリの子供用のドレス、片手にはステッキを握り。頭には無いはずの光の輪っかが輝いていた。翼も半分以下に縮んでいる。

「第三位の? なんだその姿は? なぜ縮んでいる?」

 暖簾を潜るように出てきた第一位が、神気で判断したのか変わってしまった私の姿について聞いてくる。内心困惑しながらも取り繕う。

「し、趣味よ! そっちこそなんでここにいるのよ、戦線で化物達と戦ってたんじゃないの?」

 神々の国を守護するために、この世界にやってくる〝外なる化物〟と呼ばれる化物を前線で追い返す任務についていた第一位が戻ってくるのは、物資の補給時のみのはずだ。今朝、戻ってきていたから、今頃は戦線の真っ只中で自慢の筋肉で戦っている頃合いなのだが。

「し、趣味か……変わった趣味に目覚めたな」
「ぐぅ、言わないで!」

 小さくなってしまった身体を抱きしめ身悶える。原因不明で元に戻れないとか情けなすぎて、言えるわけもないので否定ができない。

「吾輩がここでのんびりしているのは、戦線にいた全ての外なる化物共が急に戦線から姿を消したからだ。数万年と続いた奴らの猛攻が止まるのも珍しいものだ。しばらくはここでのんびりと、身を休めるつもりだ」

 元々ここは、序列持ちの神々のために建てられた神殿住居だ。滅多に序列持ちの神々が戻って来ることはないが、どの神々が使っていても不思議ではないのだ。完全に引きこもって、入り浸っていたのが第三位の女神だけと言うことを除けばだが。

「そ、そうなんだ、ふーん」

(暫くは、ここで、のんびりと身休める? 溜まったものじゃないんですけど! 
 サボれないじゃん?)

 次に物資を取りに戻ってくるのはもっと先だと思ってたから、何日おきにのんびりノルマをこなしていければいいなと思っていたのに、第三位は涙目で第一位を睨む。

「お前はなにをしていたのだ? まさかまたサボっていたのか?」
「まっさかー、一日で7個づつでもいいからオーブを処理しろって言ったのは第一位のでしょう? ノルマが終わったから休みに帰ってきたの! 私だってやればできるんですー」

 片手を胸に当て、どーよ?っ言う感じでポーズを取る。

「本当か? サボっているのではないか?」
「ちーがーいーまーすー! ほらぁ!」

 日頃の行いが悪いためにわかには信じ難い。だが、ステータスボードを見せつけられては信じない訳にはいかない。オーブの数は減っている。

「じゃあ、私はもう温泉に入りますから」
「う、うむ、のんびりすると良い」

 勝ち誇った顔で、シシシっと笑いながら指を鳴らし、服を消して暖簾を潜っていく。一瞬、背丈は変わらなかったが髪の色が、いつものピンク色に戻るのが目に入る。

「あ、服を消したら、髪の色とか元に戻るんだ!」

 第一位は上機嫌で鼻歌を刻む女神の声に、背を向け去っていく途中で、ふと考える。先程の服、神具ではあるまいな? 勝手に持ち出していたのならば叱らねばならない。だがあのような神具があった記憶はないと首を傾げ、考えるのを止めた。子供の姿をされると叱り辛いなとだけ思い、帰っていく。
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