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第一章

第四話 今出来る事をやろう

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 自分の身体で生まれて初めて味わった、壁ドンは私も壁もぐちゃぐちゃになるほど強烈だった。

(……知らなかったな、異世界の壁ドンは壁を貫く威力があるんだね)

 「ハッ! すまん! 大丈夫か?」

 ラアタンは私を蹴り飛ばしたことを謝ってくれた。現在、私は全身の骨が砕かれ、手足がおかしな方向に捻じれた状態で崩れた壁に埋もれていた。手足以外は全部、瓦礫の中なのでよく分からないが慌てて掘り出してくれている気配を感じる。
 死にそうな程の激痛の中で気を失うこともできずにいると光が見える。ラアタンが顔を青くしながら、顔に被さっていた煉瓦の壁片を持ち上げている。

「ギギファラ! 最上級回復薬を!」
「はい!」

 どこからか取り出したのか頭ほどの大きさがある瓶の蓋を開け、ドス黒い色の液体を浴びせるように飲まされる。次の瞬間、激痛が全身を駆け巡り、身体を強制的に元道理に戻していく。

「いだだだだだだだ!」

 捻れた手足が力尽くで逆回転しながら治っていくのは、同じ痛みを追体験しているのとなにも変わらない。やはり痛みで気を失うことすらできずに叫びながらのたうち回る。
 数秒後、全身が治り床に這いつくばって肩で息をする私がいた。

「死ぬかと思った二回も!」
「おお! 死ななくて良かったぞ? 本当にすまなかった……その呼ばれ方をすると昔を思い出してな。つい、やってしもうた」

 涙目でラアタンが弁明する。

「そうですよ! 折角ラヴィアタン様の為に死ぬ覚悟までして下さったのです。死ぬならば戦場で死にましょう! ね?」

 聞きづてならないので起き上がりこちらからも弁明する。

「死なないから! 死ぬ気ないから!」
「そうなのですか? 手伝って下さると仰られたので、てっきり」

 涙目あわあわしてるラアタンには聞きづらかったので、もうしわけありませんとお辞儀するギギファラさんになんで自分が蹴飛ばされたのか、声には出さずに聞いてみる。

(なんでラアタンって呼んだらあんなに怒ってたの? ギギファラさんが心の中でそう呼んでたんだよね?)
(それは私の口からはちょっと)

 そんな会話を心の中で見つめ合ってしていると、ラアタンが教えてくれる。

「あのな、その呼ばれ方は昔、母だった者がしていたんだ。だから思い出すとどうしても耐えられなかったんだ」
「お母さんが……」

 もしかしてもういないの? 肩を震わせ、涙目で拳を握り締めて聞かれる。

「なんでお前が、その呼び方を知ってるんだ?」

 ギギファラさんがまた凄い勢いで首を振っている。いっそギギファラさんに聞いたって言いたいけど。雰囲気的に言いづらいので咄嗟に誤魔化す。

「な、なんとなく呼んでみただけだったんだ、ごめんね。馴れ馴れしく呼んじゃって、お母さんとの大切な思い出の呼ばれ方だったんだね」
「ハッ?」
「え?」

 ラアタンがゴミを見る様な顔で吐き捨てる様に怒り出す。

「大切な思い出な、わけがなかろう! あんな奴が母など、恥以外のなんでもないわ! あの裏切り者のせい魔王領は滅びかけておるのだぞ! いずれ出会うことがあったら必ず、私が自ら八つ裂きにしてこんな感じでズタズタにしてくれるわ!」

 そういうとラアタンは地団駄しながら床を踏み砕き、壁を殴り崩し始める。

(ええ、裏切り者の四天王ってお母さんのことなの? 大切な思い出とかじゃないじゃん! 嫌いな人からの呼ばれ方だったよ! どうして、そんな呼び方してるのさギギファラさん?)
(だってラヴィアタン様ってフルネームで呼ぶより可愛いじゃないですか? ラヴィって呼んでも良いんですがラアタンって言う方が可愛可愛くないですか?)
(知らないよ! いや解るけど! さっき完全に同意したし)
(心の中でくらい好きに呼んでも、良いじゃないですか!)

 なんにしても、壁を粉砕し続けるラアタンを止めないと部屋が無くなっちゃう。

「お、落ち着こう? お部屋が無くなっちゃうから、お母さん倒すなら手伝うから! 見境なくなるほど酷い裏切り方した人だったの?」
「ぬう」

 後に回り込み壁から引き剥がすと、唸りながら答えてくれる。

「母は『竜』と呼ばれる魔族だ。今は裏切りの聖魔竜と呼ばれ帝国で勇者共の一人『竜姫士』と暮らしている。いや下僕に成り下がったのだ」
「ラヴィアタン様は魔王と魔族の間に生まれた御子様なのです」
「え? じゃあ魔族の魔王なの? 確かに私も種族が魔王って成ってたけど尻尾も角も無いし」
「違わい!」

 私から離れ、ベッドに仰向けに倒れ込みながら力説する。

「今のご時世、魔族の魔王なんぞもうおらぬわ。良くて四天王止まりよ。魔王とは人間族から生まれると言ったであろう、確かに我の様に産まれた時から魔王であるには『魔王と魔王』か『魔王と魔族』のハーフである必要があるが魔族とのハーフで在っても人間よりに決まっておろう」

 ちらっとギギファラさんを見る。

(そうなの?)

「そうですね。以前は魔族達の王が魔王と名乗っていましたが人間族からジョブとして迷宮師ダンジョンマスターと呼ばれる者達が現れ始め種族が魔王である事が分かって以来、初代魔王様が人間族と敵対し魔族の味方をして下さった時から魔王とはジョブを持ち種族が魔王で在る者と成りました。そしてジョブは人間族しか持ちません。魔獣や魔族と呼ばれる者達はどんな魔法や能力でも勝手に身につけますジョブと言う概念すら持たないのです」

 なるほど、よく分かんないけど、ラアタンが落ち着いてくれたからもう良いや。

「じゃあ、その竜はいつか倒しに行くとして、なんて呼べば良い? ラヴィアタン様って呼んだほうがいいかな? それとも魔王様?」
「ぬぅ、我らは同じ魔王として民達にも認められておるでな、お前も魔王だ。お互いに様呼びや魔王様と呼んでは下の者達が混乱する。とはいえ『魔王ラヴィアタンよ』と毎回呼ばれるのは鬱陶しい」
「ラヴィは?」
「却下だ! その呼ばれ方はすかん!」
「じゃあラタンは『魔王ラタン』とかは?」

 大分、短くなったし鬱陶しくないんじゃないかな?

「少しありだな。では、お主のことは魔王ウミヤカナエではなく『魔王カナエ』……カナエと呼ぼうぞ」
「良いね。魔王やるよ私、私が二人を護って上げるよ」

 身を起こし、ラアタン改めラタンとギギファラさんがこちらを見て呆れている。

「我に蹴られ死にかけた奴が我を護るだと? いったいどうやって私達を護るのだ?」
「多分、私のユニークスキルならどうにか出来ると思う。何たってレア度が『災厄級』らしいから。女神様の呪いで知識が『1』で固定されてるから片方は役に立たないかもしれないけど」
「レア度? 何だそれは? スキルにもユニークスキルにもレア度など無いぞ? 知識固定とやらもよく分からんのだが」
「え? いやいや、ステータスにあるコレとコレとかだよ」

 ステータスボードを出しつつレア度か「災厄級」の部分やスキル欄の「女神の呪い」、ステータスの知識の「固定」の部分を順番に指差す。

 つまり、この部分だ。

チート能力
『変異召喚』レア度『※災厄級』
※知識に依存。
ユニークスキル
『複合錬成』レア度『※災厄級』
ステータス
知力『1』(※固定)※知識の影響するスキルにマイナス補正。
スキル
『・異世界言語理解』『※女神の呪い』

「何も無いではないか?」
「……ですね」

 二人が覗き込むのを止めて訳が分からないとお互いを見つめる。
 もしかして私にしか見えてない? ステータスボードを見つめているとある可能性に気が付く。

「スキル欄どう見える?」
「空っぽじゃな?」
「……空っぽですね」

 確信に変わる。女神様からスキルを貰った時【C】が色分けされていたから。見やすいように色分けしてあるのかと思ってたけど、レア度と女神の呪い、固定は『※/赤』異世界言語は『・/青』で表示されている。他は黒色だ。もしかしてカラーの部分私にしか見えてない?

「ラタンのステータス見せて?」
「構わんが」

『ラヴィアタン・ドゥース』

種族『魔王』
※HPとMPに✕100の補正
その他
※運のステータスに以外に✕10の補正

年齢『130歳』
身長『132センチ』
体重『48キロ』

ユニークスキル
『魔物魅力』レア度『・SSR』

ジョブ
メイン『魔人』レベル58
サブ『ダンジョンマスター』レベル42

ステータス
HP『100000/1000✕100』
MP『77200/772✕100』
DP『10,208,566』

力『8030/803✕10』
守備力『7970/797✕10』
素早さ『5460/546✕10』
器用さ『1580/158✕10』
知力『2600/260✕10』
運『184』
ステータスポイント『100』

スキル
『継承の加護』レア度(・SSR)
・四天王達のステータスの半分をステータスに換算する。
(他のスキル多過ぎるので省略)

 うわぁ! ステータス強い! 突っ込みどころ多過ぎなんだけど! 聞くべきことを聞かないと。色が違うのはレア度がだけか……こちらは青色で表示されている。ただのスキルにもレア度が付いてる。私のスキルについていないのは何でだろう転生者専用スキルとか?

「ラタンのユニークスキルと継承の加護の後にレア度が在るの見える?」
「いや、見えぬな」

 間違いない普通は見えないらしい。見える理由として一番考えられる可能性は異世界言語理解の力かな? 確認のしようがないので私以外の異界人にあった時に聞いてみよう。

「二人には見えないだろうけどユニークスキルにはレア度があって私のはかなり強い思うよ。戦闘向きでは無さそうだけど」
「ムゥ、ユニークスキルにレア度だと、本当に強いのか?」

 かなり疑わしげだ。まあ無理もない私のスキル欄は空っぽだしチートの方も何かの詳細を調べたり、鑑定したりする系の能力とは関係なさそうだから適当な事言ってる様にしか見えないかもしれない。

「因みにラタンのユニークスキルと『継承の加護』はレア度はSSR私のユニークスキルはレア度が災厄級だから私の方が大分上だよ思うよ?」
「継承の加護より上だと?」

 いや、待って良く考えたら? レア度が災厄級て何だろう? 使だけだから本当に上なのか分かんなくなってきた。多分上だよね?

「う、うん。後もう一つ、私以外の異界人も今後かなりの数が来ると思うよ。結構強い人達が私のユニークスキルで女神様に呪いを掛けられる前に悪戯して置いたから、あの女神様の性格なら気付かないと思う」
「大勢の異界人ですか?」

 ギギファラさんが眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに聞いてくる。

「うん、私と同じ迷宮師ダンジョンマスターとして来た人がいれば見つけて仲間に引き込めば力強い味方になってくれると思うよ? 私の世界にいた人達って奴隷のように扱われそうでユニークスキル持ってる状態なら迷わずこの世界の人間と敵対すると思うし」
「なるほど頼もしいではないか、現地の勇者共は国に良いように操られるか金で雇われている様な奴らだからな。異界人ならばもしかすると童話の魔王や勇者の様に我ら側の味方になってくれるやも知れぬな」

 ラタンはもしそれが叶うならばと微笑む、童話に出てきた異界人の魔王や勇者達はどうやら良い人だったみたいだ。

「私は余り不確かな者達を頼りにしたくはありません、味方になるとも必ず来るとも言えないのでしょう?」
「それは、絶対とまでは言えないけど私達が生き残る為の可能性と一つとして考えても良いんじゃないかな? 何もしないよりは良いと思うよ」
「それならやぶかさではありませんが」

 渋々と行った感じで納得する。

「それとラタンの『継承の加護』だっけ? それ私も覚えれないかな」
「加護は迷宮師ダンジョンマスターのレベルが20になれば継承のダンジョンから一人前の魔王として認められ授けて貰えるぞ」
「20かぁ、時間掛かるかな?」

 私のレベルは恐らく、女神様が適当に設定してこっちに送ったんじゃ無いかと思っている。
レベルを20まで上げるのに掛かる時間とか分からない。

「ダンジョンの封印を解き私達が全力で手伝って魔獣系の魔物達と毎日戦っても半年近く掛かると思われます。殆どの人間族の者達はレベル20に至れずに一生を終えると言われる程にレベルとは上がり辛いものですからラヴィアタン様に至っては先代の頃に上げていたレベルと各部族の王達と血の滲む特訓を十年続けて今のレベルに成られましたから」

 ギギファラが言うとおり一筋縄では行かなそうだ。

「四天王を今決めて私が後から継承の加護を受けた場合でも効果はあるの?」
「あるぞ! 父がそうだったらしいからな」

 前例があるなら安心だ。

「なるほど、じゃあ今私達に出来る事は異界人を味方に引き入れる事とダンジョンでのレベル上げかな? そう言えば四天王って決まってるんだよね?」
「継承の間で大きな魔物達と一際派手に飛んでおる魔物が居ったであろう、あの者達が次の四天王候補の各部族の王達よ」
「なら加護も大丈夫そうだね。後は異界人をこの国の中でどうやって見つけるかだね」
「待ってください。過去の文献で異界人が魔王領内に出現したと言う話は聞いた事がありません。人間族の領内に出現したと言う記録しか残っていません。魔王領内に異界人が直接が出現のは今回が初めてのことだと思いますよ」
「え?」

 ギギファラさんの言葉に驚愕する。

「え? じゃあ、わ、私って?」
「かなりの例外かと思われますね」
「ど、どうしよう? 人間の方の領内に行く事って出来るの?」

 異界人を誰も味方にできないって事? 志穂もこっちに来るかも知れないのに会えない?

「フフフッ! 案ずるでないぞ! 外に出る方法ならあるぞ! 我が継承のダンジョンの力を見せてやろうぞ!」

 ラタンが物凄いドヤ顔で私達に告げる。歩き出す。

「ついて来ると良いわ!」
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