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第一章

第五話 蘇る継承のダンジョン

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 薄暗く広い階段を上へ上へと上がって行く、吹き込む肌寒い風を感じ見上げると天窓から月光が差込み時折ちらちらと星と夜空見える。

 ……夜だったんだ。

「寒いか?」
「大丈夫、でも何だかムズムズする」
「今は魔王城に魔力が満ちようとしているからな、風に乗って魔力の奔流が流れ込んで来ている。この魔力を感じられるのは継承のダンジョンの後継者と成った故だ魔王たる証しよ。カナエも継承の力の全てを知らねばならぬ」

 継承の力って加護だけじゃないのかと思っているとラタンが話を続ける。

「継承のダンジョンの力は『継承』『加護』『反撃』『転移』の四種類がある。加護とは先程見せたものだ。異界人を探すならば反撃と転移の力を使う必要がある。この力を使うにはダンジョンを完全に復活させる必要もあるが反撃とは先代が倒され新たなる魔王が一年の準備期間内で人間共の領内にDPダンジョンポイントの許す限り多くのダンジョンを出現させることだ。反撃で創り出したダンジョンから先遣隊として大量に魔物の群れ送り込む事で人間領の情報を収集し戦力を削るのが目的だ。無論ダンジョン自体にはDPの再回収の役割もあるぞ」
「それって無差別に人間を襲うって事?」
「そんな訳が無かろう、魔族には小さき魔王を食い物にしておる悪人のみを狙うように言ってある。魔獣達は悪人の肉を好むからの見つけ出すのは得意なのだ。まあ、振りかかる火の粉を払うかことは許しておるので怪我ぐらいは覚悟してもらわねばならぬがな」

 それはそれで……

「良い人間を死なせるなって指示をしてるなら魔物達は物凄い命懸けで大変そう何だけど」

 ギギファラさんが付け足す。

「一度お話したようにダンジョンで創り出した魔獣達は例え倒されても一定の時間が経過するとダンジョン内で復活します。これはどこのダンジョンでも同じですね。復活するとはいえダンジョン自体は各魔王の存在その魂とも言われるダンジョンコアに深く絡み付いたものですので魔王の死とダンジョンコアの破壊共にダンジョンの魔獣達も全て消え去ってしまいます。ですが魔王様やボスに忠誠を誓い身命を捧げた魔族達は倒されてもダンジョンと共に消えることはなく、魔王様が死ぬと自由になります。因みに野生化してダンジョンをさった魔獣も自由になります」

 倒された後のことは置いておいて、それって倒されても倒されてもゲームみたいに何度も永遠に蘇ってくるって事なのでは? 無敵だよね?

「聞く限りそれってかなりチートなんじゃない? もしかして人間も最後に立ち寄った街とかで甦えるの?」

 ギギファラがさんのため息が背後から聞こえ、ラタンが振り返りジト目で見下ろしてくる。あれ? 少しゾクゾクするよ? 今なら新しい扉を開ける気がする。

「そんな訳がなかろう? 異界の者は常識が無さ過ぎる」

 やれやれと首を振り、こちらからもため息を吐かれる。知らないよ! 異世界の常識とか! 二人は私の世界の常識とか言えるのかな!

「確かに魔物達は蘇るが魔獣が復活するのはダンジョンの中でのみ、外で死んだ魔獣は蘇らん。魔族は蘇るにしても力が強さに比例して復活に掛かる時間も増える。復活する前に主を倒された場合も生き返れぬしな、油断をして隙きを突かれれば一気に攻め込まれ瓦解するぞ? 我が父の様にな……」

 え? お父さん事なの? 油断して隙きを突かれたの? 裏切られた事だけが原因で亡くなられた訳じゃ無かったんだ。

「先代様は大雑把な……失礼しました失言でした。おおらかな御方でしたので……」

 ギギファラさんはラタンに睨まれたため言い直した。

「『継承』の力を使い。継承のダンジョンを復活させた場合は魔族は無理だが、ダンジョンで創り出された魔獣達も蘇るぞ。それだけではないこの国中に張り巡らされたダンジョン自体も蘇る! 難攻不落、風光明媚ふうこうめいびなダンジョン都市と自然が調和した我が国が完全に蘇るのだ! だが……蘇った魔獣達は主が変わった場合、リスポーンしなくなる。故にその命は一度限りの者となる。一年の時がある故ある程度までは繁殖して増えてくれようが強き魔獣は減っていくであろうな」

 ふと、聞いた限りで疑問が湧く、じゃあ強い魔獣達は徐々に居なくなったら何も出来なく成るんじゃない? 子供の魔獣が残るだけで強い魔獣が居ないダンジョン何て、お肉が入って無いカレーより酷いかもしれない。

「だが継承の力で、父が使わずにいた大量のDPもダンジョンを蘇らせれば引き継げるはずだ! 故に我らで魔族や魔獣達を『呼び』『作り』『増やす』必要がある」

 ラタンがチラリっとギギファラさんを見つめ続きを促す。

「魔王達はDPを使って『召喚』『創造』『繁殖』と言う行為を行い。魔王に忠誠を誓う魔族を呼んだり、魔獣達を創り出したりすることができます」
「ん?」

 何か最後のだけよく分からなかったんだけど、何か聞いてはいけない言葉だったような気がするな? 繁殖って聞こえたんだけど、魔族と子作りしろって事かな? 
 脳内にボディービルダーの皆さんが良くやるポーズでゴブリンさん、オークさん、ミノタウロスさんがポージングを決めて微笑み笑顔で近付いてくる姿を想像する。

(止めて下さい! そう言うのは見たくありません!)

 ギギファラさんってちょいちょい勝手に脳内を見てるよね? 止めて下さい。プライバシーが死んでしまいます。

「と言うか聞き捨てならない台詞が聞こえたんだけど?」

 ラタンを見ると咳払いをし顔を赤くして目を逸らされた。

「更にこれらには供物を捧げ、捧げた供物により様々な恩恵を得られたり、呼び出す魔物達の強さを引き上げる効果も御座います。」
「いやいや、繁殖って何さ?」

 ラタンが完全に前を向いて少し先に行ってしまう。ギギファラさん仕方ありませんねーと首を振って言う。

「そんなに繁殖に付いて知りたいんですか? 助平ですね。今日からカナスケベェ様とお呼びしますよ?」
「私も魔王だからね? 実害被るからね? 説明はよ!」

 呼び方とかどうでも良いから詳しく! つまらなそうな顔をしたギギファラさんが詳しく説明する。

「供物を使ってDPで『召喚』『創造』『繁殖』を行った場合、召喚では縁のある上位の存在を呼び易くなり、創造では素材に由来した強力な個体が創り出され、繁殖では数分で子供がいっぱい産まれ数分で成体になったりしますね? ラヴィアタン様が御子をお産みになる場合に使う予定でした。カナエ様でもできますよ?」
「ストップストップ! 最後、やっぱり最後のだけ聞き捨てならないんですけど!」
「因みにDPを使った繁殖に、性別と種族の壁は御座いません。候補は私か王の方々でした」

 なん……だと……! そんなん戦争が始まんぞぉ! 私を候補に選ばない限り!

「我らがこ、子づくりする必要はもう無いのだぞ! なんとかしてくれるのであろう? そんなものは四天王達にでも一任すれば良いのだ! 反撃の力は、人間領内にだけダンジョンを造る力ではない! 魔王領内にも多くのダンジョンを造る事ができるのだ。中でも四天王用に造られ魔王城の四方を囲む様に聳えそびえ立つ要塞型ダンジョンは見ものぞ? 前の四天王の一人はそこで繁殖を使っておったからの次もそうすれば良いのだ!」
「DPを使った召喚とかって四天王達も出来るの?」
「魔王様達の許可が有れば問題ありません。それどころか四天王の方々、次第では任せる事により、魔王様達が魔物を用意するより低コストで自身の力や種族と相性が良い魔物達を揃えて自軍を強化し続けて下さいましょう。先代四天王が一人であられたオークの亜種であられる『猪爺いのじい』様は人間族の数を凌駕するのではと言う勢いで一時期、繁殖を成されて居ましたよ?」

 供物召喚、四天王に任せれる……それって

「ええい! 話を戻すぞ? 反撃の力で人間領内ダンジョンを作った後、転移の力で人間領内に我々も侵入する事ができる。元々転移とは魔王が自身のダンジョン内を移動する方法であったが反撃の力でダンジョンを複数持つ事ができる我らは離れたダンジョンからダンジョンへの移動も可能となる」
「それって凄いよね? 小さき魔王達をこっちにそれで呼び戻せないの?」

 ラタンは首を振る。

「もちろん問題もある。継承のダンジョンの結界は内から外へ超える場合は問題ないのだが逆は百万DPかかる。あと移動した先でダンジョンから出た時に待ち伏せされていたりした場合は死ぬ」
「死ぬの!」

 驚愕する! それって転移の意味なくない?

「死ぬぞ? ダンジョンから出た瞬間、勇者共に待ち伏せされておったら終わりぞ? 故にな? 小さき魔王達が作る様な普通のダンジョンを増え方が疑われぬ様に大陸中に造り、怪しまれぬ程度の魔物達を配置し情報を集めようと思うのだがな、適任の四天王が居らぬのだ」

 適任? よく分かんないけど。

「適任とかあるの? 何度も往復して探し回るんじゃ駄目?」
「駄目に決まっておろう。戻ってくる転移には大量のDPを消費するのだから各ダンジョンに人間共に怪しまれぬように魔獣達を配置して、管理するには魔王領内から魔獣達と感覚を共有し確認して統括する者が居らねば話にならぬ、適任の四天王が居らねば何も把握ができぬぞ!」
「現在四天王候補と呼ばれていらっしゃる『タイラント・トロール・キング』様『メタボール・ギルマン・キング』様『インフェルノヴァンパイア・キング』様しかおられません」

 ラタンは難しい顔をする。

「いずれも潜入策戦には適さぬ」
「あれ? 後一人は?」

 四天王だよね。一人足りなくない? と言うか名前変じゃない! そう言えば継承の間とやらで見た感じその三種族以外は居なかった気がする。

「裏切り者の所為でな、小さき魔王共々大多数の力ある魔族は分断されたままだ。それと裏切り者のおった要塞ダンジョンに住みたがるものがおなぬでな四天王の席は一つ空白になっておる」

 フムフム、なるほどなるほど、私は今までの話から一つの可能性を見出す。

「だったら私の力で四天王を呼び出す供物を造らせてくれないかな? 私のユニークスキルを使えば最高級の供物を用意できるかも知れない」

 やって見ないと分からないけど、呪われてるし、知識「1」がどれだけ能力に影響してるのか分からない。 

「頼もしいではないか! 我は今日、子を孕み産み落とし一年後に命を賭して戦い、残す者達の中から継承のダンジョンに認められる新たなる魔王が現れる事を祈り、託すしか無かった。だがカナエのおかげで違う道も開けるやも知れぬ。流石、女神の御使いだ」
「御使いじゃなくて、ラタンと同じ魔王だよ。あの女神様に仕えるのはちょっと」

 見た目は好みになったけど。
 
「であろうな」

 二人して笑う。 ラタンが足を止める大きな大きな扉だ。

「この先が魔王城の天辺であり、ダンジョンを蘇らせる『復活の間』に御座います。我が国を一望出来る唯一の場所です」
「全盛期の我が国はそれは美しかったぞ! 人間共の国なぞ足元にも及ばぬほどにな! さあ見よこれが我が国ぞ!」

 大きな扉が勝手に開いてゆく、美しい夜空が空が目に入る。そこから更に少し階段を登ると塔の天辺のような場所に出る。魔力に満ちた風が吹き、街を中心に魔王城はウエディングケーキの如く段々と高くなっていた。昔ネットで見たバベルの塔のようだ。大きさは、富士山と同じくらい在りそうだ。長めが凄い、ただ外壁はぼろぼろでおどろおどろしい。遠くを見ると東西南北に巨大な砦が見える。砦を中心に街が築かれ広がる様は壮観だ。あれがダンジョンなのだろうか? ただ、いずれもぼろぼろで壁の一部が崩壊している。東の砦などごっそりと半分ほど崩れている。森も枯れ、島を取り囲む、巨大な湖も水位が下っているのか河に水は流れておらず、街の水路なども干乾びている。街の至る所では継承の間で見かけた強大な魔物達がぼろぼろの街並みの中暮しているのがぎりぎり見える目が良くなってる気がする。

「これは……」
「本当に美しかったのだぞ昔はな」

 少し悲しそうに国を見つめる。なんと声を掛ければ良いか分からず。でも何か言わなければと口を開く。

「あ、ラタ……」
「だがそれも今日までの事よ!」

 ラタンは先程の暗い顔を一転させ、自信に溢れた顔で私の手を取り自分の手と一緒に掲げ叫び! 声を張り上げる!

「我らが名により! 『継承の魔王』の真なる後継者として命ずる! 時は来たれり! 目覚めの時だ! 我らが願いを聞き届けよ! 今こそ我が国は蘇るのだ!」

 声に呼応するかの様に風が吹き荒れる。魔王城が、国中が震え、建築物が直っていく! 湖から水が溢れ、河が水で満たされ、水路にも大量の水の奔流が流れ込む! 森の木々も蘇り紅葉色に染まった葉が煌めき、椛に似た小さな花びらが桜の様に舞い上がる!
 それに合わせる様に魔獣達が崩れていたと思った建築物から溢れ出し空に地に湖に満ち満ちて行く!

「フハハハ! 閉じ込められておった魔獣共が喜びに満ち溢れておるわ!」

 ラタンの声に呼応するかの様に街を森を河を見ていた魔族達が雄叫びを上げ涙を流し歓喜する!
 ある者は抱き合い、ある者は水路や河に飛び込んで行く、殴り合う者達さえ居た。だが全員が笑っている。魔物の顔なんて区別が付くのかと思うかも知れないが泣きながら心から笑っているのだ。

「ははは、民の心からの笑顔を見たのはどれほど昔の事だったか、部族の王達にすら言ってはおらなんだが此度は負け戦、勝てぬ戦いに多くの猛者達を引き連れ、死にに行く事しかできぬはずであった。残された者達に全てを託すしかないと思っておった!」

 泣きながら、涙を流しながら、私に告げる。

「我も本当は死にたくない! 部族の王達も死なせたくない! 笑っている民の笑顔を再び、結界の中に閉じ込めたくない! ずっと笑顔で居させたいのだ……全てを護りたいのだ! カナエ頼む! 我ラヴィアタンの名に置いて願う! 私に力を貸してくれ! 生き残る可能性を信じさせてくれ!」

 嗚咽を洩らしながら手を差し出してくる。死ぬ覚悟など無い、痛いのも、辛いのも嫌だ、でも涙を流しながら助けを求めて来る少女くらいは助けたいと思う。と言うか私にこんなの断れとか無理だし! だから……

「もちろん! 何処まで出来るか分からないけど、一緒に頑張ろう!」
「うぐっ……うぇ~ぐ……ガナエ~」

 手を握り返すとそのまま抱き着かれ倒れそうになる。今までで一番良い笑顔でギギファラさんが支えてくれる。泣き叫ぶラタンの頭を撫で叫び声の響く国を見回し、何度か心に決めた言葉をもう一度、自分に言い聞かせるように呟く。

「頑張るよ」
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