上 下
6 / 15
第一章

第六話 パンツを召喚したぞ

しおりを挟む
 魔王領とは三大大陸の一つ大陸ドオルザンガの真中にある強大な湖の海域の半分と魔王城が建つ島を含む全てであり。この島の事を内大陸と呼び。内大陸の中心にある国、継承の魔王都市グロンディア・サークレアは国土を含むの海域の三割を結界により包まれ、籠城する事により生き長らえていた。結界により無理矢理分断された湖は結界の外と中で水位が違ったが継承のダンジョンが蘇った今では同じ水位に戻っている。
 東西南北を輪の様に囲む大陸は外大陸と呼ばれ、人間の大国である四つの国々は自国と魔王領の間にある巨大な湖と隣接する様に首都を築き上げ戦いに備えている。
 西にある帝国は国を要塞のように築き上げ、多くの竜騎士を有する事から『竜姫の要塞都市ネグロニア・ドラグネス』と呼ばれ、軍神で在る『雷と裁きの神サンダンディー』を崇め、戦いに重きを置き。
 東にある王国は国を魔導塔と壁で囲み、多くの魔導鉱山を有する事から『魔導の楽園都市ロマタイト・パラダイト』と呼ばれ、智神で在る『炎と叡智の神ロッド』を崇め、探究に重きを置き。
 南にある信仰の国は湖の上に天高く聳える神殿と壁を建て、豊かで暖かな土地が広がり色々な果物や野菜を中心とした農業が盛んな事から『豊穣の神殿都市カルルデン・アグリシア』と呼ばれ、星神で在る『時と空間の女神シャム』を崇め、宗教に重きを置いている。
 北にある商業の国は巨壁を何重にも築き上げ、多くの砦を立ち、様々な職人や商人が集まる事から『重壁の商業都市クラウグス・ウォールズ』と呼ばれ、無宗教であると言いながら他の宗教の行事を楽しんで、様々な商売に重きを置いている。
 先代の頃より、魔王領に押し寄せる人間の余りの多さに四つの砦の様な要塞を築き、ダンジョン化して領内に入る人間を厳選する事で対応した。


 私達は魔王城の宝物庫に移動した後、継承の力である『反撃』と『転移』で転移者を探し出す為、二人に人間領の最大都市と呼ばれる。東西南北の大国に在る都市について説明を受けていた。

「この世界で最も崇められ、三神と呼ばれる神の中で、女神は『時と空間の女神』と言う神しかおらぬからカナエが言う女神はこの神であろう」
「ええ? あの女神様信仰されてるの!」
「されておるぞ。しかも各国々から認められた真の勇者と呼ばれる少女がおる国だぞ」

 聞きたくなかった事実に頭を抱えそうになる。あの女神様は小さくなった姿がドストライクだったけどそれ以外は凄く駄目な女神だったと思うんだけど。星神? 農業の国の神様って事は畑の神様とかで良くない? 何で時とか空間とか名乗ってるのだろうか、野菜が育つ行く過度や畑の広さとかを格好良く言ってるだけじゃないかな?

「元々、四つの大国では勇者と呼ばれる者達が数多く居たが我が父である大魔王を倒す為に各国の頂点の勇者がパーティーを組み、父を倒した事から、真の意味で勇者として認められているのは豊穣の神殿都市カルルデン・アグリシアの勇者だけだぞ。元々、勇者とはそれなりに有名になり、武勲を上げた者の称号や二つ名見たいな物だったからのう」
「他の勇者だった者達は今『大賢皇』『武晶神』『竜姫士』と呼ばれて居ますね」

 ん? ゲーム見たいに上位のジョブやクラスやって訳じゃ無いのかな?

「それはその呼ばれ方で強くなったり、特別な力を持ってたりするの?」
「勇者と言うジョブは無いからのう。だから勇者は本来……」

 纏めて貰ったらこうだった。

勇者=『星騎士』

他の者も

『大賢皇』『武晶匠』『竜姫士』

と言う最上位のジョブで有り、特別な存在として君臨して居る。

星騎士の一つしたの聖騎士は『武人』と『魔法師』を選び

大賢者は『魔法師』のジョブを二つ選び

武晶師は『武人』と『職人』のジョブを選び

竜姫士の一つしたの竜騎士は『武人』と『操師』ジョブを選び

一定以上レベルを上げ、特定のスキルを獲得し、両方の上位ジョブを極め、特殊な条件を満たすと成れると言われているらしい。

「因みに『大賢者』と『武晶師』の呼び方が少し違うのは、国か本人のどちらかが格好いいと思って、勝手に名乗っているだけと聞いたぞ」
「確かに存在していると、本人達は言っているそうですよ?」
「眉唾であろう?」

 最上位や上位のジョブは在るのか……て言うか。

「知らないジョブが出できたけど、どんなのがあるの?」

 様々な供物を宝物庫で漁って床に無造作に並べていたギギファラさんが壁際にある宝箱の中からをペンと紙を取り出し図にしながら教えてくれる。何で宝箱に入れてたの?

「ジョブは全部で六つ御座います」

武人ぶじん』専用スキル『技術』(戦士、騎士、弓士、武道家等)

魔法師まほうし』専用スキル『魔法』(魔法使い、錬金術師、治癒術師、召喚師等)

職人しょくにん』専用スキル『製作』(商人、鍛治師、薬剤師、罠師等)

操人そうし』専用スキル『傀儡』(魔獣使い、精霊使い、蟲使い、影使い等)

魔人まじん』専用スキル『変身』(己の身に魔物の身体の一部を宿す事で力や能力を扱えるようになる。三~五個まで宿せる)

迷宮師ダンジョンマスター』『DP』(DPで無や異界より様々なモノを呼び出す事ができる)

 専用のスキルを覚えたり、培った技術や覚えたスキル、身に宿した魔物の力、呼び出したモノにより様々な呼ばれ方をされる。
 二つのジョブを鍛え上げた者は組み合わせによる上位のジョブになることができたりする。
 またスキルなどにより、自分ができることが複数あるなら魔法使いと名乗ろうが鍛冶師と名乗ろうが好きにして良いらしく、保証が欲しければ各ギルドで、実力を証明することでバッチを獲得できる。
 魔法師の欄にある「錬金術師」は職人の欄にある「薬剤製作」か「道具製作」のスキルを覚えていないとなることができず。召喚師も操人の力がないと駄目で、言うことを聞かずに暴走するらしい。逆に操人の欄にある「精霊使い」も魔法使いの力がいる。抜け道も在るらしいが……

「ただ自由に魔法を覚え使う事が出来るのは魔導書で魔法を覚えれる魔法師か魔人と呼ばれる方は『特別・・』で宿す魔物の次第では魔法を使える方もいらっしゃいますね。操師と迷宮師の方が魔獣などを従えて魔法を使わせるのはまた別ですよ?」
「あー、そうなんじゃよなー、何を隠そう我も親から同じ『魔人』としてこの立派な角と尻尾を受け継いでおるからのう? 魔法を扱う事もできるのじゃぞ?」

 ラタンがドヤ顔をして自慢げに近付いてくる。うざ可愛い、吐血しそうです。

「うわー凄いねー(棒)所で受け継いだって何?」
「親が魔王で魔人だった場合、同じ魔王や魔族との間に出来た御子に、其々の親から一づつ部位を受け継いで魔人のジョブを獲得した状態でお産まれに成られる事が有るのです。ジョブが一つ固定されるため、ご自分で選ぶことはできなくなりますが、強力な力を受け継いでお産まれになる訳ですから『#エリート__・・・・_#』と言う事で間違いありませんね」
「ドヤァ!」

 ラタンの方をちらちらと見ながらヨイショする。うん、可愛いね。ギギファラさんもこの顔が見たかったのか、ドヤ顔をしたラタンを見ながらでれでれと表情を崩している。

「フフン! まあ話は飛ぶが、数多のジョブを持つ人間共でも父が滅びて、新たなる魔王が継承のダンジョンを引き継ぎ活動し出すまで後九十年程ある……と油断して居る。流石に一年後に結界が解ければ慌てて対応しようとしてこようが、今ならば間者を送り込む事も容易かろうよ」
「それって内部事情に詳しそうな……『竜』が喋っちゃったりしないかな?」

 少し聞き辛かったけど、念のため聞いてみる。

アレがそんなに賢い訳が無かろう。本能と欲望に従い生きるしか脳がないわ! 父が策戦を何度説明しても数秒後には忘れておったわ」
「あの方はいつも策戦や指示を全く理解しておりませんでしたから、戦場に出られると全てのものを破壊し尽くすこと以外、なにも考えておられませんでしたよ」

 ラタンが憤慨しながら吐き捨て、ギギファラさんが残念そうに首を振る。
 なるほど、脳筋か……納得した。それが頭が悪いフリをしていただけじゃ無い事を祈ろう。

「それじゃあ、怪しまれない間者ってどんな魔物を送り込むの? 人間似た魔族の人?」
「確かに魔族には人間に似ている者も大勢おる。エルフやドワーフと呼ばれる亜人種も厳密には魔族だからな。だが亜人種は一部を除き魔界にはおらぬ、故に此度こたびの『召喚』で呼び出し契約することは叶わぬ。『創造』で魔族は造れぬし、唯一の可能性は『繁殖』による。子づくりだが、我が領内に力ある亜人種はおらぬ、四天王は慎重に力がある者を選ばねばならぬでな」
「魔族を送り込めばたちまち切り捨てられてしまうでしょう。送り込むなら自ずと小さな魔獣と成りましょう。ただ小さな魔獣を大量に操れる魔族であっても……」

 そう言うとギギファラさんが言い難そうに言う。

「相応の力を持つ者でなければ、人間族のジョブ『操師』や『召喚師』にバレてしまうでしょう」

 適任がいないのか……

「小さくなくても、貼り付く目玉の魔獣や影に潜む魔獣、透明に成れる幽霊みたいな魔獣とかを操れる魔族はいないの?」

 ラタンが肩を落とし難しい顔をして言う。

「おるにはおるが問題があってのう、悪魔や不死の者達は豊穣の神殿都市カルルデン・アグリシアの奴等が各地に派遣しておる神殿の者共が使う聖なる目、『聖眼』と呼ばれるスキルで見破られてしまうのだ。でなければ身体を多くの蝙蝠に出来るヴァンパイア族を束ねる。四天王候補のインフェルノヴァンパイア・キングの奴に全てを丸投げしておったわ」
「魔界から来られた。先代の四天王で在らせられた『悪魔王デーモン・キング』様が使われていた「無効化」の『邪悪なる覇紋』や『亡霊の王妃ファントム・クイーン』様が使われていた「隠蔽化」の『完全消失』のよう強力な御力に長けた方が召喚に応えおいでくださるなら別で御座いますが、御二方に引けを取ら無い程の方をお呼びできる供物は魔王城の宝物庫には御座いません」
「それ程の物を召喚で呼ぶ事が出来る供物となると強力な力を有した。其々に縁ある供物が必要だからのう、有象無象の供物がいくらあろうと呼べぬものよ」

 様々な財宝、装備、道具が大量に床に並べられている。この何れを使っても先代の四天王程の力を持つ四天王は呼べないらしい。

「思い道理には行かぬか、世の中とはままならぬな」
「それなに?」

 ラタンは愚痴りながら両手で二つのボロボロの人形と所々が欠けた木彫り像を弄んでいた。

「これか? 先代の悪魔王が遊びで造ってくれた木彫りの邪神像と亡霊の王女がくれたただの人形だ。確かに縁ある品では在るが何の力も宿っておらぬから供物には成らぬぞ?」

 縁はある。

邪神像と人形ソレでもし強い子を呼べるなら使っても良い?」
「これでか? もしやカナエのユニークスキルを使うのか?」

 笑顔で頷くと半信半疑と言う顔で私を見つめていたラタンは一度、邪神像と人形を握り締めると覚悟を決め差し出して来る。

「もし二人の忘れ形見で民と国が救えるならば使うが良いぞ」

 二つ受け取り『複合錬金』を選択する……大丈夫そうだ。『変異召喚』と違い、使い方が細かく分かる。

(こちらの方は知識『1』の影響を受けていないぽい?)

 表示されている三角形の先に在る円の中に個別選択を選び邪神像を入れる。

「広げてある供物も使って良いよね?」
「構わぬぞ」

 許可も取ったので三割程度を範囲選択しもう一つの円に様々な供物を纏めて入れる。

「複合錬金!」

 声に出して宣言すると禍々しさを増した像が目の前にゆっくりと降ってくる。
 ……まあ声に出す必要は無かったけど、格好つけてみた。

「おお! 凄いではないか! これならかなりの物も呼べようぞ!」
「まだまだ!」

 同じ様に人形を複合錬金する。禍々しさを増した人形がゆっくりと目の前に降ってくる。
 更にある可能性を考えて二つを握り締め円の中にぶっ込み複合錬金する。

(賭けだけど成功すればかなりの大物が呼べるかも知れない。失敗したら半分無駄になるかもだけど!)

 すると目の前に呪われていそうな一線を超えた禍々しさを放ち、ボロボロで黒に近い紺色をした布に包まれた像が出来上がった。

「おい! カナエ何だそれは? 二つをくっつけたのか?」
「二人の縁の品を混ぜれば二人に縁の在る大物が呼べるかもでしょう? 四天王候補が三人居るなら二人呼んでも意味なさそうだし?」

 もし二人呼んで四天王の座を掛けて、身内で争われても困るからね。 私はそう言う細かい所にも配慮出来る美少女ですよ!

(美少女?)

 辞めて下さいギギファラさん! そこに突っ込み入れないでください! 死んでしまいます!

「だったら前もって言わぬか! 失敗したかと思ったであろう!」
「ごもっともです。ごめんなさい」

 素直に謝る。途中で思い付いたら既に行動していた。

「それじゃあ、呼んでみるね?」

 軽いノリでステータスボードのスキル欄に増えていた『魔物召喚』を選び、目の前に現れた虹色の魔法陣の真ん中に呪われた布付きの像を置く。するとステータスボードに適当に詠唱して下さいと出てきたので『?』と成りながら適当に呼ぶ。

「召~喚~!」
「あ! バカ者! 召喚の詠唱はもっと格好良く優雅に唱えぬか!」

 すると呪われた布付きの像が膨れ上がり布が何重にも絡み付き像を押し潰し、強大な布の塊となる。それに何処から現れたのか無数の御札がビタビタと貼られて行き、最後に青白い炎が灯ると札から布に燃え移り全てが炎に包まれる。

「あわわわわわわわ!」

 ラタンが怯えて慌てふためいている。可愛いのう。布なんかよりそっちを見てしまう。と言うか何で怯えてるの?
 ビキキ、ギギギギギギ、何かが砕け、古びた重い扉を無理矢理開く様な音が木霊こだまする。布の塊から布より少し薄い、青黒い色をした腕が幾重にも飛び出し、上部から同じ色をした何かが飛び出し二つの目玉が見開かれ顔となる。髪は無く、口も無い、だけど確かにそれから声は響いた。

「懐かしき、匂いに誘われてきて見れば、人の世か、奴等はおらぬ様だな、死んだか?」

 ギロリと睨まれる。その瞬間、私は膝から力が抜け床に座り込み息ができなくなった。ラタンも座り込むまではしなくとも脚を震わせ、今にも崩れ落ちそうな所をギギファラさんが支えていた。

「矮小なる者達よ、我を呼び出したか、如何様にして後悔させてやろうか?」

 死を覚悟する程の重圧の中、それは不意に目を逸らし、興味が失せた様に呟く。

「まあいい、見逃してやろう、此処は、親しき奴等の匂いが鼻に付く……」

 鼻ないじゃん! と思ったけど口を開く様な余裕が無かったので突っ込めない、口惜しい。

「特にそちらの小娘からな……」

 ラタンを見つめ、目を細めるとそのまま渦を巻き闇に溶け込む様にして化け物は消えた。
 息が出来る様になる。新鮮な空気を肺に送り込み、肩で息をしていると後からラタンが飛び付いて来たため、重さで這いつくばる。

「おい! カナエ! 何だアレは! 確実に怒った時の父より恐かったぞ! しかも召喚された身でありながら、勝手に消えて行ったぞ!」
「いや、知らないけど何? 普通と違ったの今の?」

 背後から飛びつかれ、ヘッドロックを決められて息も絶え絶えでうつ伏せに潰れながら答えた。後、尻尾をブンブン振らないで欲しい首にドンドン腕が食い込んで行くから。

呼び声に答え、こちらの世界に来た場合、呼び手に従うものです。召喚は拒む事も出来ますので……こちらに来る者は少なくとも従属を受け入れるので、危害を及ぼすことも逆らい勝手にいなくなることもありません」
「普通じゃなかったってこと? 良かった。アレが普通なら私もう召喚したく無い。でも何で……」

 先程を思い出し気が付く。

「え? もしかして適当に詠唱したから? 怒って言うこと聞いてくれなかったとか?」
「いえ、詠唱とは形式美に過ぎませんから関係は……無いと思いますよ?」
「ええ? じゃあ何で言うこと聞かないあんな化け物が」
「カナエちょっともう一度詠唱をきちんとして余ってる適当な財宝で召喚してみよ。カナエがおかしいのかも知れぬ」

 酷くない? ヘッドロックが緩んだので従うフリをしつつ抜け出す、感触を楽しむ余裕とか一瞬しか無かった。危うく意識が落ちる所だった。 

「じゃあやるよ?」
「うむ、もうあんな化け物を呼ぶなよ! 絶対に言うことを聞かせろよ? 絶対の絶対にだぞ!」

 それフラグ……まあ良いや、残りの供物を範囲選択して全部複合錬金する。出来上がったフサフサの毛並みで裏が濁った泥の様な色をした分厚い皮の様な物が残ったので、魔法陣に乗せて召喚して見る。先程と同じ様に適当に詠唱して下さいと出るのでそれっぽく詠唱する。

「濁りし皮に覆われ、たてがみを持ちし魔物よ! 我が呼び声に参じ来たれ! 祖は主に絶対の忠誠を誓いしモノよ!」

(あー、何だろうアレ? あれだけモフモフしてるなら首回りの毛とかかな? 鬣? さっき見たいに言う事全然聞かない感じの出たら嫌だしこんな感じかな?)

 色々と考えながら詠唱完了すると先程と同じように、毛が膨れ上がりモフモフの塊が出来上がる。とてもフサフサ下手触りの毛玉のクッションにしか見えないが威圧感が先程と全く同じである。毛玉から蛇の様な頭と尻尾が生え出し口から長い舌がちろちろと飛び出す。刹那全てを悟る!

(あ、あれヤバい奴だ!)

 その後は速かった。ステータスボード操作してダメ元で『変異召喚』を使う。知識『1』の所為で前に使った時みたいに強化したりして召喚する事は出来ないだろうけど、させて召喚することならできるかも知れない! 毛玉が一段と大きく膨れ上がり縮小する。
 は本来なら決して底から這い出てくることがなかった『怪物モノ』だ。魔界に広がる漆黒の瘴気が漂う海、その深海で際も深き深淵と呼ばれる場所に棲む最凶災厄の蛇。ソレが今のこの世界ラッズオルドキアに顕現した! 人界を喰らい成長し、いずれは神界ラグドオルドすら呑み込み全てを滅ぼすであろう滅びの化身!

 ……だが今は鬣を持つただの手乗りサイズの蛇である。

「お? おお! 何だそのちっこい蛇は! いではないか! 愛うではないか!」

 ラタンが蛇に魅了され片手で掴み上げて、ひっくり返すと顎下の鬣の裏側とお腹をモフモフを撫で繰回す。

「ちょっとちょっと! ソレ、危なく無い? さっきの化け物と同じ感じがしたんだけどー!」
「大丈夫であろう、何の抵抗もせぬぞ? ほれほれ」
「確かに可愛ゆう御座いますね」

 ギギファラさんも加わり更に撫で繰回す。

「えー、大丈夫なの?」

 げんなりとした顔で聞くが無視スルーされ二人は夢中で一心不乱に撫で捲くる。
 混乱する! 困惑する! 何が起きたのかと! そしてソレは貪るようにお腹を撫でれ鬣をモフられ、生まれて初めての快楽に……思考を捨て屈服した!

「のう? 安全であろう?」
「断言シマス! この子は安全デス!」
「ほ~れほれ、バク宙して見せよ」

 ラタンが無茶振りをし、ギギファラさんが壊れてる。おい! さり気にバク宙するな蛇! 二度見しちゃっただろう!

「どうするのその蛇? 戦わせるの?」
「何を言って居る! この様な愛い奴を戦わせるの訳が無かろうがっ! 恥を知れ恥を!」

 お、おう、今日で一番、可愛くラタンに怒鳴られたんだけど! デレデレだもの蛇に。

「もしかして飼うの?」
「そうだな! 呼び出したからには責任を持たねばならぬぞ。それが召喚した者の責任で在るぞ」

 じゃあさっきの化け物もどうにかしようよ? この世界の大丈夫? さっきの化け物に滅ぼされたりしない?

「名前を決めましょう」
「そうであるな、可愛いく聡明な名前を付けてやろうぞ」

 召喚した魔物を働かせずに飼うってどうなの? ニート見たいなものじゃないの? プー太郎じゃん?

「プーだよ」
「「へ?」」

 二人の声が綺麗にハモる。

「その子はプーだ」
「プーダ、良いですね」
「うむ、これよりこの子は『プーダ』だぞ! 聡明で愛い名前じゃ~可愛いのう可愛いのう」

 確信を得たり! と言う感じで頬ずりしてる。と言うかラタン言葉づかいがデレデレだよ! 私にして欲しいくらいだよ!

「のう? もしかしてカナエは魔族には言う事を聞かせれなくとも、魔獣なら従わせる事が出来るのではないか? 『創造』でなら魔獣しか造られぬしやって見ぬか?」
「確かに、試して見られては如何ですか? もっと可愛い子が出てくるかも知れませんよ?」
「二人共、解ってる? 自分達と国の危機だよ?」

 ハッ! っとしたように正気に戻る二人を尻目に床を見る。散らばっていた供物はもう残っていない事に気が付く、宝物庫にはまだまだ財宝とか有るけれど、どれを使っていいか分からない。

「次どれを使えば良い?」

 二人して宝物庫を見回す。

「無くなったのう、供物に使えそうな物が」
「これではろくな者が呼べませんね」

 詰んでない? ため息を吐き、仕方無いとステータスボードを操作し『変異召喚』を開く。

「出来れば呪いが解けるまで使うの控えたかったんだけど、大丈夫そうだったし使ってみようかな?」
「何をですか?」

正気に戻ったギギファラさんが近付いてくる。

「多分、『変異召喚』で供物を遠くの国とかから呼び出せる」

 プーダに使えたし、前に使った時は出来たから。

「何でもか?」
「何でも大丈夫だと思うけど」

 頭にプーダを乗せたラタンはこちらにやって来ると少し考えて提案する。

「先の『召喚』の供物次第で縁のある魔物が呼べるように『創造』で創り出される魔獣は供物で能力が変わって来る。より良い物を使えばより強い魔獣が造られる。こちらの言う事を理解し魔族に匹敵する程の知能を持つ魔獣も過去には居たと言う。喋れんかったらしいがのう……何でも出せるなら魔導の楽園都市ロマタイト・パラダイトに居る『大賢皇』の所持する。『大賢者の皇玉』を呼び出せぬか?」
「何それ?」
「大賢皇が所持する自身の知識と魔力を込めた。無限の魔力を生み出す秘宝とされています」

 人が装備してる物って取れるのかな? やった事、無いんけど……無理くない?

「人が装備してる物って取れないかも知れないよ?」
「構わぬ構わぬ。もし上手く奪えれば戦力も低下し一石二鳥であるぞ? ダメ元でやって見るが良い」
「ふむ」

 それならばと『変異召喚』で西に在ると言われる大国に在ると言われる皇玉の事を想像しステータスボードを操作して『変異召喚』で私の手の上に出る様に考え、実行する! 私の頭上に光が集まり渦巻、収束する。すると掌にひらひらとゆっくり舞い落ちる結び目が在る紐の付いた『パンツ』振ってきたストライプだ。
 沈黙が訪れる……耐え切れずにパンツを握り締め叫ぶ!

「パンツを召喚したぞー!」

 私は次の瞬間、パンツ握り締めたまま崩れ落ちたのだった。
しおりを挟む

処理中です...