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第一章

第八話 なんで私達がママなの?

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 優雅なティータイムは終わり、質問タイムが始まる。

「アスよ」
「なんですか? ラア母様」

 ラタンが私を見つめ、アスに聞く。

「何故、我らは汝……アスの母なのだ?」

 汝と呼ばれ、泣きそうな顔をするアスに負けたラタンは素直に言い直す。

「母様方は母様方ですわ、私の身体に流れる。血と魔力がそれを物語っていますわ」
「私達が複合錬金で使った髪の毛からDNA情報でも抜き取ったのかな? 創造で身体の一部を供物に使うと、生まれてきた魔獣達って創造者を親って思うの?」
「DNAが何かは分からぬが何を素材としようとも、魔獣は主を親などと思わぬ……はずだぞ」
「魔獣達はそもそも口が聞けませんからね」
「何よりアスは、魔獣では無かろう。完全に魔族、しかも亜人種であるぞ!」

 器用に尻尾でクッキーを放り投げて、口でキャッチすると美味しそうに丸呑みにするプーダを持ち上げ聞いてみる。

「プーダ、私達ってプーダのママなの?」
「プーアプワワッ」

 普通に首を左右に振られた。喋れなくっても意思の疎通はできるぽい。

「召喚された魔獣は当然、違うと言うでしょうね」
「試しにもう一度、創造してみれば良かろう。それで解るであろう? 全て魔族として創造されるならば召喚なんぞ、不要となろうぞ」

 召喚、要らずね。

「召喚より、創造の方が良いの?」
「それはそうであろう。普通に生み出された魔獣は主に忠実で裏切られることなどもない。召喚により呼び出した者達は、裏切ることがあるでな……我が母のようにのう」

 ギリリッと歯を食いしばる。

「ラア母様の母様は敵! 覚えましたわ!」
「おお! 偉いぞアスよ、物覚えが良いのう」

 頭を撫でられ上機嫌のアスは目を細め身を預けている。なるほど、ラタンのお母さんは魔界出身なのか……

「アスは、魔界から来たの?」
「違いますわ、カナ母様。私はあの瞬間、あの場所で生まれましたから過去の記憶などありませんわ。私の知識は全て母様方を元として造られていますわ」
にわかには信じがたいが、創造で魔族が創れることを他に知れれば……不味いことになろうな」
「そうですね。人間族にバレると大変な事に成りましょう」

 二人は苦い顔をして頷きあう。何が不味いだろう?

「何で?」
「分からぬか? 召喚では呼ばれる方に拒否権がある故、呼ぶ者の状況や心に触れこちらのことを知り呼ばれてくる。供物がなくともの」
「呼ばれたくなければ皆が断り続ければ良いのです。それで召喚が失敗となりDPのみが失われますから」

 ギギファラさんの言葉に驚く、失敗もあるのか。

「だがのう、創造は違う。創られ生まれてくるものに拒否権など無いぞ?」
「もし方法が確立し、好きな種族の魔族をDP次第で無から好きなだけ創り出せると知られれば、今まで以上に小さき魔王達の立場は悪くなり、人間族に隷属させられるでしょうね」
「体のいい奴隷を製造できる。玩具として扱われることとなる。食料や道具を出せるだけの今とは扱いがかわり、これまで以上に多くの小さき魔王達が人間族に捕まることになろう」
「え? 奴隷とか居るの?」
「人間同士はもとより、人よりの魔族亜人種も犯罪を犯した者や借金を抱える者が奴隷となることが御座います。アスフィア様を見る限り、亜人種すら創り出せるとなるなら犯罪者でなくとも、創り出したその場で奴隷として売られることとなりましょう。無から創り出された命ならば扱いも酷く軽いものとなるでしょうね」

 二人の言っていることの意味が分かり、ゾッとする。力のない小さき魔王達は魔族を奴隷として創り出し続け、創り出された方もただ消費されるだけの存在になるのだ。

「そんなのってないよ!」
「母様方が心配なさってるようなことにはならないと思いますわ」

 それまで黙って紅茶を飲みながら話を聞いていたアスが口を開き、あっけらかんと言ってのける。

何故なにゆえか?」

 初めてラタンに本気で睨まれたアスは一瞬だけ震えると答えるかわりに手を掲げ唱える。

「ステータスオープン」

 するとそこには

『アスフィア』

種族
『植蟲のアストラル・フィアー』

年齢『0』
身長『154』

ユニークスキル
『変異進化』レア度(※災害級)
『植蟲創造』レア度(※災害級)

 とだけ出ていた。

「あれ? なんで体重やステータスが出てないの?」
「今は関係ないので非表示にしましたわ」
「開示する情報は念じれば自分で好きに選べるぞ」
「自分以外には見えないようにしたり、念じるだけで出したりもできますね」

 そうなのかー、次からは私も体重とか非表示にしとこう。ステータスオープンは定番だから言いたい。

「それよりもユニークスキルが二つあることに目を向けるべきであろうに、アスよ。これはどうゆう事か説明できるかの?」
「二つあるのは理由は分かりませんわ」
「ユニークスキルを二つ持つ者は異世界より来られた異界人の方々だけと言われています。今までは異界人かどうかを判別する唯一の証として知られていました……先代様である魔王様も先代様を倒した勇者達ですら、ユニークスキルは一つしか持っていませんでしたから」
「じゃあ、女神様にユニークスキル一つしか貰わなかった人達は?」

 二人は、それは……と顔を見合わせ、余程めずらしいユニークスキルを持っていて、異世界の知識があれば認められることもあるが、なければ基本的に妄言として信じては貰えないらしい。ユニークスキルを二つ持っているかどうかは五分五分というところだと言う。あの女神様、適当過ぎるんですけど!

「このユニークスキルは私が母様方と繋がっている証であり、魔族として生みだされた理由ですわ。『変異』と『創造』の部分はカナ母様のユニークスキルから受け継いで、『進化』と『植蟲』の部分はロゼ母様とラア母様のユニークスキルの影響を受け継いでいますわ」
「待たぬか! ロゼ母様とはなんぞ?」
「ロゼ母様は、ロゼ母様ですわ?」
「もしかしましたら、大賢皇もアスフィア様のお母上に成られているのでは御座いませんか?」

 二人が呆然としアスがよく解らない顔をしている中、私はもう一つの気になることを聞いてみた。

「私から二つも受け継いでるんだけど」
「それですわ! その部分が私を亜人種の姿として創り出した原因ですわ」

 アスが腰に両腕を添え、自信たっぷりに言い放つ。

「何故そう思うのじゃ?」
「確かに引き継いでいるのは間違いないでしょうが?」

 立ち直ったラタンが聞くと、してやったりという顔をしてステータスボードを弄り、見せつけてくる。

「説明にそう書いてありますもの」

『変異進化』……自身の望む姿として進化し続ける。親に似た姿が基本となる。

『植蟲創造』……様々な植物と蟲を好きにか「複合」させ創り出し、固定できる。変異進化と合わせる事で自身の望む姿で、自分の姿を固定できる。

「大体、これで説明がつくと思いますわ。カナ母様から受け継いだ二つのユニークスキルが私を私、足らしめているのですわ」
「つまり、カナエの力を二つとも受け継いで創り出されぬ限り魔族は創られぬと? 一つ受け継ぐだけでは人型にはならぬと言うことか?」
「やはりもう一度試して見られるのが一番かと思われますね」

 皆、揃ってこちらを見てくる。

「良いけど、供物はどうするの?」
「また大賢皇からはぎ取れば良かろう?」

 鬼かな? 心で突っ込みつつもはぎ取ろうと『変異召喚』を選ぶと「ブッー」と言う効果音が頭の中に鳴って召喚が弾かれ、大賢皇がパンツを装備していませんと出る。

「あー、パンツ装備して無いとだめみたい……」
「……まだ夜ですからね」
「……起きて着替えるのを待つかの、今は適当な供物で創造するが良いギギファラ!」
「こちらに御座います」

 既に動いていたギギファラさんが何かの骨と角を宝箱から取り出し差し出してくる。受け取り髪の毛を一束加え『複合錬金』したあとに気がついた。プーダを見ながら……これに私の一部を加えないと言うことを聞かず、スキルも引き継がないのかも知れないと言うならなんでプーダは友好的なのだろう?

「プッーワ?」

 なに? みたいな感じで首を傾げるプーダが、ただ撫でられる快楽に屈して友好的になったのを知るのはまだ先の話であった。
 まあ、良いかと思い創造をするために魔法陣の真ん中に出来上がった変な骨の塊を置くとまた警告がでる。

「DP……足りないって……」
「共有のDPの方を使えと言っておるだろうが」

 ラタンが先程のことをもう忘れたのかと呆れた目を向けてくる。

(うん、私の記憶力が残念なら良かったんだけどね? 違うんだなー、そうじゃないんだなー)

 心を落ち着かせて、覚悟を決めると紅茶を口に含みジト目をしてるラタンに伝える。

「うん、共有の方のDP全部なくなってるんだけど……」
「ブッー、ガッ、ゴッホッ、ふぁ! は? 何を言うておる?」

 私の顔面に紅茶を全て吹き出し、ラタンが立ち上がりと私の横にきてステータスボードを覗いてくる。

(書いてあるんだなー、何度画面を見ようとも私の顔を見ようとも、共有DP『0』って書いてあるんだなー)

 ラタンは初めの内は、冗談であろう? みたいな顔をしていたが、私が目を瞑り一筋の汗を流しながら笑顔で頷くと段々と表情が崩れ、ステータスボードを指差す手をわなわなと震わし、私に掴みかかって叫びながら全力で揺さぶってくる。

「なぁ! 冗談であろう? 隠蔽しておるか、何処かに隠しておるだけであろう? DP無くしてこれからどうするのつもりぞ? 新たなる魔物を用意するにも、反撃の力でダンジョンを造るにも、転移で移動して帰ってくるにも何もするにもDPが無くば何もできぬぞ?」

 うん、何度も聞いてるから知ってるよと言いたかったけど、首を激しく揺さぶられ意識が朦朧とする中、声を発することができなかった。

「DPを貯めるにはダンジョンに人間族を大勢招き入れ魔力を吸収させるか! 自身の魔力MP1/10をDPに変更するしか、方法がないのだぞ? 我の魔力を毎日、DP『7720』に変えるとして、同じDP貯めるまでに如何ほどの年月がかかるか分かるか? なぁ! なぁ!」

(それは知らなかったなぁ……)

 人外の力で振り回され、揺さぶられる中、脳内で走馬燈と私の叡智が一つになり、ある可能性に気が付いた……そもそも供物を使った召喚、創造、繁殖で複合錬金を使うこと自体がイレギュラーなのかも知れない。なにより複合錬金で混ぜた私の髪の毛という素材に、女神の呪いがかかったままだったら? 知識『1』の影響を受けていたら? それが原因で供物による『DP消費1/100減少』の効果を無くしてしまっていたのだとしら? 揺さぶられる中なんとかそれだけラタンに伝える。

「おぅ、あぅ、のぅ! も、しかしたら、私の素材を入れた、複合錬金の供物だとぅ、元の値でDP、づかうみたいな?」
「な……にを言っておる? う……そであろう?」

 ピタリと止まったラタンに向かいギギファラさんがフォローを入れてくれる。

「まだラヴィアタン様の個人DPの方はご無事なのでは?」

 ラタンは私を放り投げると自分のステータスボードを出現させ画面に食いつき確認する。

「おお! 残っておる! 残っておるぞ! 首の皮一枚繋がったわ」

 涙目で一安心してるところ悪いんだけど私、瀕死なんだけど、色々と巻き込みながら壁際でミンチになりかけている私にギギファラさんがまた。どす黒い最高級回復薬を欠けてくれる。地味に激痛の追体験に慣れてきた気がする。痛みになど慣れたくなかったな……自分でも怪我治れ、怪我治れと呟き、ホロリと一粒の涙をながら立ち上がる。

「死ぬかと思った……」
「ギギ姉さま、なんですのそれ?」

 アスは最高級回復薬が気になったのかこちらに近づくいてくると聞く。

「ギギ姉さま? とは?」

 ギギ姉さまと呼ばれたギギファラさんが「ギギギギギッ」と振り向くとアスに詰め寄る。

「え? え? ギギ姉さまとお呼びしてはいけませんでしたか? ギギ姉さまは私が母様方に受け入れて貰えように庇ってくださいましたわ。私にとって母様方と同じくらい大切な方ですの、だから親しみを込めて姉さまとお呼びしたかったのですが……すいません」

 落ち込む、アスを抱き締めると優しく囁く。

「構いませんよ。今日から私はアスフィアのお姉ちゃんです。なんでも我儘を言って良いですよ」

 デレデレと全面的に甘やかす宣言をするとアスが笑顔で喜び、さっそく我儘を言う。

「じゃ、じゃあ、私もさっきの飲み物飲んでみたいですわ」
「構いませんよ、幾らでもどうぞ!」

 ギギファラさんがどこからともなく最高級回復薬を取り出し飲ませるとアスは目をきらきらとさせて歓喜する。

「これ……凄く、美味しいですわ! 美味しいですわ!」
「ウッソぉ? 私は墨汁にスライムを溶かして青汁を混ぜたみたいな味しかしなかったけど?」

 身体を引きずり、なんとか二人の前まで行き着くとラタンに凄みのある笑顔で辛辣な言葉をかけられた。

「なんぞ? 無事だったのかのう? 何故、力尽きて大量のDPにならなんだ?」
「ごめんてば! DPがあんなに減るなんて知らなかったの! 私、無実だから、不可抗力だったんだから許してください何でもするから! って言うか……私が死ぬ大量のDPになるの?」

 怒ったように振る舞ったのは冗談だったのか、普通の顔に戻り答えてくれる。

「うんにゃ、ならぬぞ? 冗談ぞ、冗談」

 と言い笑う。うんにゃってなに?

「何にせよ危うかったわ。これからは色々と節約して行かねばならぬのう」

 そうだねと同意して置く。

「失ったDPは痛かった!」
「お主が言うでないわ!」
「母様方、私を創った事で喧嘩なさってましたの?」

 振り返ると最高級回復薬を大量に飲み散らかしたアスが悲しそうに聞いてくる。

「だ、大丈夫だぞ! 偵察ようの魔獣や強い魔獣を大量用意したり、魔族領内の食べ物を大量に用意したり、色々なものを用意するためのDPが無くなっただけでアスは何も悪くは無いぞ!」

 フォロー下手か! ラタンが必死に説明すると少し俯いた、アスが何かを呟きながら立ち上がり、小走りにこちらに近づき私達二人に抱きつくように飛びかかる。
 そして満面の笑顔で言った。

「私! それ全部できますわ!」
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