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第一章

第九話 汝は四天王足り得るのか①

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 自信満々で私達を見上げるアスに何かを気がついたのか、残念そうな顔でラタンが諭すように言う。

 「う、うむ、気持ちは嬉しいのだがなアス、MPをDP変換に変換できるのはダンジョンの主のみなのだ。幾ら、魔力が余っておっても主ではDPを用意することはできぬのだ」

 なるほど、自分のMPをくれようとしてたのか健気だなと思い頭を撫で慰める。すると目を細め撫でられながら弁解してくる。

「うにぃ、違いますわ! これですわ! 魔獣や食べ物ですわ!」

 アスの髪の毛が一房、二房と持ち上がり、数本は床に刺さり根を広げ、残りは全て木の枝や蔦のように伸びていき実がなり、徐々に巨大化して行く、宝物殿がとても広いとはいえ、直径30メートル程の実が二つでき、それ以外にも様々なサイズの実がなり、床が盛り上がりさまざまな木々が室内の壁際に生い茂っていく、宝箱が取りづらくないように人が通れる隙間も空いている。

「どうですの?」

 目を輝かせ、褒めてほしそうに頭を押し付けてくる。ラタンも分からないのか困惑している。

「アス? これなに?」
「これは……マルバネリの木、あちらはクレゴスの木ですね……他にも様々な果樹が生えております」
「なんと! アスは果樹を操れるのか?」
「それだけではありませんわ」

 ポン! ポポポポポン! 物理法則を無視した場違いな音と速度で畑となった宝物庫の床から色々な野菜が生え、木々にも色とりどりの実がなり、一番近くのバレーボール大の実を一つをむしり取り見せつけてくる。それは上下に分けると中からお肉やご飯が大量に詰まったお弁当のような木の実だった。

「なんぞ! これは?」
「私はどんな食べ物でも一度口にしたものなら植物から作れますわ」

 確かにティータイムの時、サンドイッチに挟まってたお肉に似てる。指で摘み口に含み咀嚼する間違いなくサンドイッチに使われていたお肉だ! 背後で地響きがし振り返ると巨大な二つ実から、蠢く脚がが生え、むくむく身体を持ち上げる大きな蜘蛛の魔獣がニ匹いた。

「この子達も私なら幾らでも作れますわ。これが私の『植蟲創造』ですわ!」

蜘蛛の前まで行くと振り返り、宣言する。

「ラア母様が嫌がらなければ小さい蟲たちもいっぱい出せますわ。 偵察も戦いも食べ物も私一人で全部なんとかできますからご安心具ださいませ!」
「おおぅ……アスよ! 凄いでわないか! これならばDPが少なくともなんとかなるやも知れぬぞ」

 ラタンは度肝を抜かれたのかフラフラとアスの方まで行くと抱きつき、頬ずりしながら褒めまくっている。私のユニークスキルよりも万能そうだ……先ほどよりずっと、木々を真剣に見つめているギギファラさんの横まで行くとマルバネリと呼ばれていた真っ赤な林檎のような実を差し出されたので一口食べてみる。

「ブッ、辛い、ゴブォフォッ!」

 ギギファラさんは辛さで転げ回る私を無視してアスに聞く。

「アスフィアは最大で、どのくらいまでこの木々を出せますか?」
「そうですわね、魔獣を産み出すのには私のHPを食物を生み出すには私のMPを使いますわ。それが尽きない限り幾らでも出し続けられますわ」
「それでは食物の方はあまり期待ができぬのう、MPは一日で経たねば完全回復せぬからのう、HPは超回復のスキルオーブを使えばスキルレベル1でも1時間ほどで完全回復しようがのう」

 なんとか回復した私が皆の方を見ると誰も私を見ていなかった。少しくらい心配して欲しいんだけど~……って言うかギギファラさん泣かす! 『変異召喚』でギギファラさんのパンツを剥ぎ取ろうとすると『パンッ』と言う音ともに何かに弾かれる。

(能力さえ分かっていて使うところを見ていれば、対象くらいできるのですよ? 知力『1』以上になってから出直されてください。フッ)

 すげー、勝ち誇った顔で見下してくる。

(な、泣かすー!)

 自分が泣きながら立ち上がり、次は知力の影響を受けていない『複合錬金』で仕返ししようと真横まで行こうとアス後ろを横切るとそのまま持たれかかられたので受け止める。

「それも大丈夫ですわ、ロゼ母様から『MP超常回復』を受け継いでいますもの」
「MP超常回復なんぞ、聞いたことが無いのだが?」
「MPが毎秒一割回復しますわ」
「「ハッ?」」

 私とラタンが良く分からず答える。毎秒? 10秒でMP全回復するの? それってチートじゃないの?

「王国におる大賢者達が持つジョブスキルのMP回復促進のスキルではなくか?」

 あれならばMP回復にかかる時間が半分になると聞いたことがあるのだがと考えるラタンをアスが首を振り否定した。

「違いますわ」
「伝承で『賢人』と呼ばれる種族が持っていたと言われる。種族バフではないでしょうか?」
「賢人だと? 伝承にのみ伝わる種族バフが存在すると?」
「恐らくは」
「種族バフってなに?」

 ギギファラさんが少しは自分で考えてはどうですか? 的な視線でこちらを見てくるがスルーした。知りようがないから既に諦めている。すると仕方なく教えてくれた。

「種族バフとは迷宮師ダンジョンマスターが魔王と成った時、能力を格段に引き上げてくれる能力上昇バフがそれに当たります。各ジョブは一定条件を満たすと人間から違う種族になると言われています。魔王以外で伝承で伝えられているジョブ種族は『武人ぶじん賢人けんじん職人しょくじん操人そうじん魔人まじん』と言う種族となり、各種族専用のバフが存在すると言われています。中でも『竜人りゅうじん』や『鬼神きじん』の種族バフは他を凌駕していたと伝えられていますね」
「多分、それですわ」

 ラタンは黙り込むと皆を交互に見つめ、引きつった笑顔で遠慮がちに提案する。

「そのバフなんとかして我も覚えれぬかの?」

 皆の視線が私に集中する。そうだね、私の『複合錬金』くらいでしかできそうにないもんね。私はステータスボードの指示に従い、二人に近づきそれぞれの手を取り意識を集中する。暫くそうしているとスキルを人から人に移す方法が頭に浮かび、苦笑いしながら伝える。

「結論から言うとできるぽい……」
「誠か!」
「流石カナ母様ですわ」

 縋りついてくる二人を受け止める。ギギファラさんだけが渋い顔をして、物凄い勢いで首を振っている。

「二人が合意してラタンにアスを複合錬金すればアスが持ってるスキルをラタンに移せるって」
「「はっ?」」
「何をいっておる?」
「か、母様方?」

 アスが掴んでいた服の裾を離すと、いやいやと首を左右に動かし、不安げな顔で後退っていく。

「だ、大丈夫ぞ! 絶対にせぬぞ! カナエも何を馬鹿なことを言っておるか! 恥を知れい!」
「いやいや、私もする気ないから、できるぽいって言っただけだから。何よりこれやると二人の人格なくなっちゃうぽいし?」
「お、おぅ」

 今度はラタンが私から離れ後退ると青い顔をしアスと抱き合い震える。少し可愛い……コホンと咳払いをして安心できるように優しく微笑んで二人に近づく、両手を上げて顔を思いっきり悪くしながら叫ぶ。

「二人とも複合錬金しちゃうぞー」
「「いやー!」」
「おやめください」

 スパンと叩かれ、畑に頭から埋まる。
 暫くして私が地面から抜け出すと皆で採れたてのご飯を食べていた。

「何にせよ、種族バフを我に移すのはなしだな、非人道的すぎるぞ」
「私、ラア母様を信じていましたわ」
「お二人とも紅茶のお替りはいかがですか?」

 泥だけに成った服を叩き、私も机に座る……

「あの、椅子を……」

 座ろうとしたらギギファラさんに椅子を奪われる。

「どうぞ」

 コトンッと、地面に犬の餌入れに似た皿に盛られたクッキーが出される。プーダですら机の上でご飯食べてるのに……皆に助けを求めるように顔を向けると冷たい目で見つめられる。

「すいませんでした、許してください。二度としません!」

 今までの人生で一番綺麗な土下座を決める。

「次はないからの?」
「冗談はかおだけなしてくださいね?」
「カナ母様、私は冗談だと信じていましたが、とても怖かったんですわよ」
「プーアアッ」

 滅多打ちである。

「許してってば~」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、泣きながら謝ると皆が笑い出す。

「もう良い、早く座るが良い」
「プーアー」
「もう、カナ母様お召し物がぼろぼろですわ」
「確かに血や泥でまみれですね」
「だって、今日一日で何度も死にかけてるし、泥や壁に埋もれまくったんだもん」

 思えば全身ズタズタだ、服もあっちこっち破れている。

「ふむ、風呂に入るか、汚れも涙も不安も悲しみも全て皆で洗い流そうぞ」

 とんでもなく豪勢な広いお風呂でテンションが上がり、夢現の中で身体を洗い、皆で湯船に浸かる。生まれて初めてのお風呂で、顎まで浸かったアスからおっさんのような声が漏れる。気持ちはわかる。

「あー、気持ちいいですわー」

 同じように顎まで浸かったラタンが今後の事について話す。

「明日はアスを各部族の王達に紹介し正式に四天王へ推薦しようと思う」
「紹介や推薦とかいるの?」
「当たり前であろう、仮にも命を尽くし我に忠誠を誓ってくれおった者達の代表ぞ? 無下にはできぬわ」

 ギギファラさんがプーダを胸の上でもてあそびながら付け足す。

「それに四天王は実力主義、力無くしては魔王様を守れませんゆえ、先ずはその力を示せと言われるでしょう」
「え? アスって自分でも戦えるの?」
「これでも少しは強いと思いますわ」
「できれば四天王候補同士で戦う模擬戦をさせとうないのだが怪我をさせとうない。四天王候補の王達は揃いも揃って武闘派ばかりだからのう」

 湯船に浸かり、ブクブク息を吐きながら悩むラタンにギギファラさんが提案する。

「アスフィアが創り出す『植蟲創造』で創り出した魔獣のみを相手にさせるのはいかがでしょうか?」
「なるほどの四天王達が疲れきるまで呼び出し続けることができれば辛うじて認められよう」
「模擬戦でしょう? そんなに危ないの?」
「カナエも一度は見ておろう、四天王候補一武闘派で巨漢、歴代最大の王が一人を! 現在、我が魔王領内で最強の魔族ぞ」
「タイラントトロール・キング様は模擬戦とはいえ、あの巨体と棍棒から繰り出される攻撃は山を砕き地を沈めるほどですから」

 継承の間でみた一番大きかった魔族を思い出す。確かにアスと比べると私とねんどろいどよりも差がありそうだ。踏み潰されて終わりだろう。

「大丈夫なの?」
「うむ、なんとか言いくるめてみるわい」
「もう、あついですわー」

 初めてのお風呂で顎まで浸かり続けていたアスがザバァッっと前も隠さずに湯船から上がり、外へ駆け出していく。

「では、もう上がりましょうか」
「そうだのう、大分温まったしのう」

 皆で湯船から上がり身体や髪を拭いていると身体がある物を訴えてくる。

「お風呂から上がったら牛乳が飲みたかったなぁ」

 こっちにも在ればなぁ……

「あるぞい」
「ラヴィアタン様もお風呂上がりは貪るように飲まれますから」
「ああ……胸や身長が……なぶぉるぅぁぁっ!」

 最後まで言わせて貰えず尻尾で吹き飛ばされ、身体を『く』の字にさせながら湯船に叩き込まれる。

「そのまま沈んでおれ!」
「ぶはっ! ごめんなさ~い!」

 必死に謝り、牛乳を飲み干し、歯を磨くと皆で仲良く大きなベッドで一緒に寝る。

「……ギギファラさん、ラタンと毎日一緒に寝てるの?」
「……ラヴィアタン様は夜暗いのが苦手であられますから幼い頃よりご一緒しております。雷のなる日な………」
「「ブォフォッ!」」

 二人纏めて尻尾で吹き飛ばされ、身体を『く』の字にさせながら扉を突き破る。頼まれたのかアスが創ったであろう蔦で入口を塞がれた。翌日、私とギギファラさんが仲良く毛布に包まり、寄り添うように部屋の外で眠っているのが発見された。


 天高く日が昇りる継承の間に、巨体な「80メートル」と「60メートル」は在りそうな二人の魔族とギギファラさんと同じくらいの一人の魔族が私達と向き合い佇んでいた。私達は継承の儀をしていた20メートルほどの高さ台の上にいる。同じように台に上がっているのは赤黒い髪色をした魔族のイケメンなお兄さん一人だけだ。残りの二人は、私達を台下の広場から見下ろしている。……台の下から見下ろしているってなに?

「これはこれは魔王様方、我々部族の王を召集するとは等々我々が四天王に就任する日が来ましたかな?」


 代表するように一番強大な魔族が口を開き、頭を垂れる。

「うむ、それもあるが最後の四天王候補が決まったでな、紹介しようと思ってのう」
「ほほう! 朗報ですな! これで一年後は万全の体制で勇者共と対峙出来ましょう」

 がはははは!と豪快に笑い隣にる二人もそれぞれ笑顔で頷く。

「それで? 我らが同胞となるものは何処に?」
「う、うむ、隠しておいても仕方ないでな、我はお主達を信じて全てを話そうと思う。最後の一人は『創造』により生まれたのだ」

 創造で生まれたと聞いて。強大な魚人の魔族がぎょっとした顔をし、イケメンの魔族が目を覆い天を仰ぎ、一番強大な魔族が唸る。

「誇り高き四天王に『魔獣』を加えろとおっしゃるか魔王よ?」
「そうではない!」
「プアープアワー!」

 余りの威圧感にラタンの頭に乗っていたプーダが威嚇する!

「貴公が四天王となる魔獣か?」
「プアー……」

 睨まれたプーダが白目を剥いて、口から魂の的なものが抜け出ている気がする。

「違いますわ、大きなおじさま。私が四天王となるべく、創造で創り出された魔族、『植蟲のアストラル・フィアー』で御座いますわ。寵愛を込めて『アスフィア』とお呼びくださいませ」
「創造で生まれた魔族だと!」
「ギョギョキョッ?」
「馬鹿な!」

 優雅にお辞儀したアスを見つめ王達がざわめく。

「嘘偽りは御座いませぬな、我が主よ?」
「当然であろう! これは我と双璧を成す、魔王カナエが力よ。あと今日より我のことは魔王ラタンと呼ぶが良いぞ」

 ラタンの最後の言葉をスルーし、二人の魔族が私を褒め称える。

「おおカナエ様のお力とは素晴らしいお力ですね」
「びっぐりじだぎょ~」

 一人の魔族は棍棒を構える。

「ならば、特例で認めましょうぞ」

 一番強大な魔族はアスに向き直り名乗る。

「我は王であり、タイラントトロール族で随一の豪腕を持ち、暴君の二つ名を持つ魔族、名を『タイラーガ』と申す。さあ、新たなる四天王よ力を示すが良い」

 そう言い終わると同時に止める間もなく、強大な棍棒を持ち上げそれは恐ろしい勢いでアスに向けて振り下された!
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