盗賊団の下っ端C

ゲルゲル

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次はお前か、等と叫びたい気持ちです。



狐のお面から黒猫のお面へ、そして今レグナスは新たに買った兎のお面を着けていた。
レグナスが騎士達にもらったお面を、馬鹿正直につけている必要がないことに気付いたのは、クロードと別れてしばらく経ってからだった。
兎を選んだのは可愛い子ぶっているからではけしてない。
主人公が犬のお面をつけている事を知っていたから、それとは違う物を適当に選んだだけである。
気分転換の意味合いもあったが、仮面を変えたところでレグナスの気落ちした状態は変わる事はなかった。
原因は言わずもがな、先ほど出くわしたクロードだったが、思えばレグナスにとってゲームが始まったその時から、元気いっぱいの時は無かったかもしれない。
一体何が、どうしてこうなったのか。
ゲームが始まり、イベントも起こり、これから主人公と仲を深めていくはずの攻略対象のうちの二人、ウルスとクロードのレグナスへの好感度は、既にゲームで言えば中盤を過ぎるぐらいでないとおかしいほど高かった。
逆にもう出会っているはずなのに、本当に存在しているのか心配になる程に、ウルスとクロードのそばには主人公の影がない。
これは由々しき事態である。
主人公そっちのけでモブであるレグナスの相手をしているようでは、腐女子に認められるBLゲームなんて夢のまた夢だ。
ゲーム業界は納得のいくものを作るのは当たり前だが、何より売れるか売れないかが求められるシビアな世界である。
好きと好きをかけあわせると、大好きになるらしい腐女子達の心理からすれば、レグナスのようなモブにいくらイケメンがかけられたとしても、需要などあるはずもない。
これは前世のレグナスが、腐女子のシナリオ担当に聞いた情報なので間違いない。
余談だが、好きと好きがあわさればいいのなら、攻略対象同士はどうなのかと聞いたレグナスの前世は、すごい形相をしたシナリオ担当に「戦争が起こるぞ!!!」と一発殴られた。
…まあそれはいいとして、前世で制作側の一員だったレグナスだからこそ、ゲームとして成り立たないこの状況に落ち着く事が出来なかった。
別にゲームの内容に沿わなければ世界が滅亡する訳でも、戦争が起こる訳でもない。
ゲームの内容は、飽く迄主人公と攻略対象の恋愛話だからだ。
友情エンドもあったため、主人公と攻略対象達がくっつかなくとも何の問題もない。
なら何が問題かと言えば、主人公と攻略対象がうまくいかない原因が、レグナスであると言う事だ。


一部最近分かった事だが、レグナスがウルスとクロード、ついでにアレギースと出会ったのは、ゲームのシナリオがまだ始まっていない時である。
それこそゲームのシナリオに一切ない、盗賊団の下っ端Cの過去。
親の連れてきた教師と、連行しにやってきた騎士、そしてたまたま助けてくれた盗賊団の頭と、よくこれだけ接点を持てたなと思うほど、攻略対象達が揃っている。
下っ端のモブであるレグナスに、何か役割でもあったのかと思うほどだ。
しかしレグナスには前世の記憶を含めても、そんな大切なお役目があったおぼえはなかった。
台詞があったとしてもモブはモブ。
当て馬やライバルの役目をするキャラとは違って、背景ともいえる存在が攻略対象と深い接点を持つ必要はない。
それがゲームの中では常識で、レグナスにとっては当たり前だった。
それなのに、後だしのように出てきた過去の接点で、ウルスはレグナスを保護という名目で閉じ込め、クロードはレグナスがまだ子供であった時から思いを抱いていたという。
既にシナリオが破綻していても可笑しくない、存在しなかった設定が、レグナスと言うモブをモブではなくさせている。
それはそうだと、思う自分がいるのをレグナスは自覚している。
小説のように変わる事が一切ない、一人に一つしかない視点。
それは主人公だけが持っているものではない。
レグナスは登場人物や世界観、起こったイベントで、此処が制作していたBLゲームの世界だと仮定しているが、それはあくまで仮定であって、此処がモニターの画面の中だなんて思っちゃいない。
モブと、自分の事をレグナスはそう言う。
だがそれは特に秀でたものがない平凡と言う意味合いと、ゲームのシナリオ内ではそうだという意味で使っているだけである。
ゲームの様にスキップなどない一分一秒、生まれてからこれまでを、レグナスはしっかり生きている。
それは主人公ではない、ゲームの枠外、レグナスの視点である。
だから、本当は、何が起こってもおかしくないとは思っているのだ。
ゲームの世界と言いながらも、前世でいきなり死んだように、人生なんてものは何が起こるか解らないものだと。
だがそれでも、ことごとく絡んでくる攻略対象達に、レグナスは言いたい。
何故、主人公ではなく、こっちに絡んでくるのかと。
下手にゲームの記憶があって、攻略対象と主人公はまだ出会っただけであるのに、攻略対象達の相手が主人公だという先入観がレグナスにはある。
そうなると湧き上がるのはこんな思いである。
素敵な主人公がいるのに、なにこっちに来てやがんだ、とか。
レグナスが主人公から奪ったような、そんな感じにしてくれるな、とか。
こんなゲームは売れないぞ、とか。
してもいない浮気を責めるようで申し訳ないが、上げたおぼえもない好感度に感じるものなどそんなもので、レグナスもなんだか寝とったような気分にさせられているからお相子だろう。
忘れてはいけない。
レグナスにだって好感度はあって、無条件で受け入れる事などないと言う事を。
生憎と、行動を見る限りウルスとクロードには解ってもらえなさそうだが。


なんだかいろんなことを柄にもなく考えてしまったと、レグナスはははと、乾いた笑いを浮かべながら人波から外れて壁にもたれかかった。
目的の場所はもうすぐだったが、レグナスはあと一歩の所で進む事が出来なくなっていた。
何故だろうと思うもすぐにレグナスは思い出した。
自分が病み上がりだと言う事を。
少し回復したからと言って、気を抜いていい筈もなかった。
そもそもウルスと店を回った時にすでに疲れていたのだ。
自由の身になったからと気分が高揚してその疲れを感じなくなっていたが、確実にレグナスの身体に溜まっていたのだろう。
しくじったと思うも、もう一歩も歩きたくない状態だった。
本当に、何故こんなに具合が悪いのか。
ふうふうと苦し気に息を吐きながら、レグナスは気分が落ち着くのを待つしかなかった。

「――大丈夫ですか?」

其処へかけられた声に聞き覚えがあるような気がして、まさかとレグナスは身体が強張った。
攻略対象達に心の中で悪態をついたばかりだというのに、まさか次はお前かと、レグナスは恐る恐る見上げた先にあった犬の仮面をかぶった姿に泣きそうになった。
うっと、口元を抑えたのが吐きそうに見えたのか、犬のお面をかぶった人物はレグナスの背中をさすり始めていた。
何て優しい少年だろうと感動するも、離れなければとも思う。
何故なら今目の前にいる人物は、レグナスが最も接触したくなかった人物だからである。

「僕、治癒魔法ができますので、かけていいですか?原因は…外から見た感じだと解らないので、かけてみないと解らないんですが、少しはましになるかと思います」

レグナスもそれほど効果は大きくないが、治癒魔法が使えない訳ではない。
けれど治癒魔法は効果に関わらず、自分にはかけられないものだった。
だから有難い。本当は有難い。
けれどここで接点を持ってしまっていいのかと思う。
もうすでに持ったようなものだったが。

「息苦しそうなんで、お面とってもいいですか?あ、怪しいものではないです。僕もお面取りますんで。僕の名前はレアと言います」

レグナスがそう思っているうちに犬のお面の少年―――主人公レアはお面を取って自己紹介までしてくれていた。
何だ、自分は呪われてでもいるのかと、レグナスは思った。
どうしてこうも主要人物に遭ってしまうのかと。
走って逃げたいが体調的にそれは無理な話だった。
もうどうにでもなれと、息苦しさからの開放も求めてレグナスは仮面を取った。
そして名乗った。

「私は“グレイリー”と言います、すみません治癒魔法よろしいでしょうか?」

申し訳ないが、最後のあがきで偽名だった。
控えめに尋ねるとレアは勿論大丈夫ですと、早速手を翳して治癒魔法をかけてくれた。
本当に優しい、さすが主人公だとレグナスが二度目の感動をしていると、レアは少し首を傾げたあと、何故か驚きの声を上げていた。

「あれ?何だろう…これって…ええええええええええ!?」

なんだ、一体どうしたとレグナスがびくつくと、レアはすみませんと謝りながら、レグナスを背中とひざ下に腕を入れて、抱き上げていた。
何が起こったという間もなく、レアは歩き出していた。

「すみません、その、グレイリーさんの体調不良ですが、僕の治癒魔法だと不安があるので、専門の方に見てもらったほうがいいです。この先に確か専門の病院があったはずなんで、そこへ行きましょう。……ちなみに体調不良の原因とかは、ご自分で解ってたりしますか?」

訳が分からないまま、尋ねられた言葉にレグナスは返した。
原因は解らず、ただこのところずっとこんな感じで具合が悪いのだと。
そう言えばと、レグナスは思った。
あれだけ過保護なウルスが、レグナスの体調の悪さに医者を呼ぶことも、薬を飲ませる事もなかったなと。

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