僕に双子の義兄が出来まして

サク

文字の大きさ
95 / 97
小話

ギン爺視点3

しおりを挟む
「明日、海釣りに行くらしい」
「場所もすべて調べよ」
「もう調べてある。どうやったら、こうも大物たちと仲良くなれるんか、もうこれは才能じゃな」

そいつから、届いたファイルには、目が飛び出るほどの、大御所たちが乗っていた。一線を退き、息子や、若手に譲って引っ込んだ者達だった。

ぐおおおおお、なんとも、羨ましい。儂も引っ込んで孫と遊びたい。それはできぬとわかっていた。後継は、まだ見つかっていない。

「お前らはどうした?」
「わしゃらは、きっと気を使われたんだろう。皆、年も年だからな。膝も腰もわるくなっているしな」
「そう「一緒に行ったら、山だと、熊と戦ってこいって言われそうだし、海だと、サメをとって来いって無茶ぶりさせられそうだもん。そう言われちまったよ」お前の息子と孫がやらされ、泣きながら帰ってきていたことを今でも覚えておるぞ」

見る目の正しい孫でよかった。

「我が家の洗礼儀式じゃよ。それをこなし無事に帰ってきてこそ、天王家の使用人として、第一歩が踏めるんじゃて」
「そんな儀式があるのは、お前のところだけだがな」
「ほぉ。ほぉ、ほぉ」

笑って誤魔化しやがった。
釣りをしたことないのに、釣り道具を一式そろえ、こっそり向かった、海釣り。
その目の前の光景に儂の歯のギリギリは止まらなかった。

「リン爺」
なっ
「ゴン爺」
んっ
「マサ爺」
だっ
「ライ爺」
とっ

儂の孫なのにぃぃぃぃ。儂は呼んでもらえないというのにぃぃ。

「あ、網が」

孫の声が聞こえて、こちらに流されてきた網を持っていた釣り竿で手繰り寄せ引き上げると孫の方へ、持って行った。

「すみません。ありがとうございます」

そう、孫に話しかけられ、それから、交流することとなった。歓喜。

「ギン爺」

なんといういい響き、孫との交流は楽しいものだった。そう、交流を持てたなら、律江も連れて来よう。
そして、次の海釣りのお誘いに妻を連れてきて

「りっちゃんだ」

と紹介した。

りっちゃんは、孫をガン見していた。

「僕は、ハルアキだよ。本名は内緒。ハルアキって呼んでね。りっちゃん」

このころの悠暉は、ものすごく、眠たそうな顔をしていた。

「寝不足か?」

ライ爺の問いに

「やっぱり、そう見える?あのね。僕は平穏主義者なのに、みんなに怖いって言われるんだよ。だから、こうやって、怖くない顔をしようと、頑張っているところなんだ。前の席の子が毎日震えて怯えているからね。あと、喧嘩を吹っ掛けられるから、めんどくさくて。まだ維持ができなくて、すぐに戻っちゃうんだけどね」

そう言ったハルアキから、本当、僕は平穏主義者なのにという小さな呟きが聞こえてきた。
優しい子だ。りっちゃんが涙ぐんでいた。

しかし、平和主義者は聞いたことがあるが平穏主義者は聞いたことがないのぅ。

「う~ん、やっぱり、ギン爺、8歳の時に会った三重彦爺さんのお友達に似ている気がする。でも、他人の空似かなぁ」

次に聞こえてきた呟きに。
こちらを笑顔で振り向いた妻の顔が般若に変った。

「「「ひぃ」」」

儂の後ろにいた者達もその光景を見たのか儂と同じぐ悲鳴を上げる。

「ハルアキ君、少しの間、ギン爺と大事な話があるから、席を離れるわね」
「うん?分かった。二人の場所取りは任せて」

また笑顔に戻った妻はハルアキと楽しそうに話す。またこちらを向いたときには般若を通り越して、鬼と化していた。怖すぎる。儂は半ば引きずられるように妻に連れた行かれた。

律江は三重彦のことを知っていた。そして、一人で、幼い悠暉君に会ったことを知った鬼と化した妻に色々と問い詰められた。

「ずるいわ」

そう言われた。その後、妻は泣きながら、孫の可愛さを語っていた。孫を抱きしめたいそう言っていたけど、バレるわけにはいかない。後継者を一族から決めない、わしらの命を狙う者も出てきた、老いた儂なら潰せるとでも思っているらしい。そいつ等をすべて潰すまでは、まだまだ安心できなかった。

「早急に潰しましょ。私も手伝うわ」

妻も俺の考えを理解してそう言った。

「いや、わし、<ドッゴオオン>」
「手伝うわ」

儂一人で十分だと言おうとして、律江の拳が顔の横を通り過ぎた。凄い音がして、後ろのコンクリートの壁が貫通し穴が開いていた。そういえば、律江の力はゴリラ並みに強かった。

目の前のブチにブチ切れた律江の顔に、ハルアキには悪いが、ハルアキの前の席の子の気持ちがよく分かった気がした。すまぬ。

「じゃぁ、私は戻るから、その壁直しといてね」

危険な目に合わせたくなかったが、了承するしかなかった。
笑顔に変わった妻の言葉に知り合いに電話をかけ、手配を頼んだ。

どんなに権力があろうとも、どんなに力があろうとも、愛する者には勝てんのじゃ。

そう、儂は妻には勝てん。




チカチカと光るスマホに映る、着信相手の名前を見て、
儂より先に儂の孫と仲良くなりやがって、羨ましいことこの上なし。
昔を思い出していた所為か、その思いが湧き上がってくる。
深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから、電話に出る。そうしなければ、思い出した想いのまま罵ってしまいそうでな。

「儂の孫が迷惑かけたみたいだな。あと、儂らの分も残しといてくれるか」

「皆、過激やのぅ」
「お主より、ましや。そういえば、儂の孫達はお主のお眼鏡にかなったみたいだな。千春と千秋を頼んだ」
「早いのぅ。一年猶予があるんじゃ、決めるのはあいつ等じゃ」
「そうか?あの双子は行動が早いからな、準備しておいた方がよいぞ。じゃぁ、また、年末に」

そう、返答を残して、電話は切られた。

本当、気乗りせんのぅ。あやつの孫など。でも、悠暉の幸せの為なら、そんな、儂の嫉妬など、どうだって良い。


先ほど会った、双子を思い返して思う。恐ろしい子達じゃった、賢い子達じゃった、何より、悠暉の為なら無茶をしてしまいそうな子達じゃ。そして、あの子もまた双子の為に無茶をしてしまいそうじゃな。

とりあえず、準備だけはしておくかのぅ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか
BL
≪登場人物≫ 七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。 佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。 田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。 ≪あらすじ≫ α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。 そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。 運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。 二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...