向日葵とみつばち

桜井ケイ

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「えっ!?本当に?ちょ、ちょっと待って平野くん!」

 実和の手を強く掴むと亮は覗き込むように実和の顔を見て軽く微笑む。そのまま掴まれた手を引かれてマンションへの道を2人で歩く。好きな人と手を繋いで帰るなんてはじめてだ。

 一言も話さない亮に不安になって背の高い彼の顔を見上げる。さっきの余裕ある微笑みは消え、真剣な顔で前だけを見ている。

「…ねぇ平野くん、大丈夫?無理してない?」
「え?なに?」
「…なにも話さないから、どうしたのかなって…」
「っ、ごめん。たぶん俺緊張してる」

 真っ直ぐ前を見ていた亮がやっと実和を見てくれた。身長が180㎝近くある亮の顔は156㎝の実和には少し遠い。こっちを見てくれてはいるが、表情がよく見えない。

「強引なのは俺のほうなのに、心配されるって情けないな」
「そんなことないよ」
「山下は後悔しない?俺と付き合ってくれる?」

 さっきまで余裕たっぷりの笑顔を向けていた亮とは思えない弱気な発言にびっくりする。それだけ慎重に大切に実和のことを考えてくれてると思える。

 亮は高校生のときからいつもたくさんの人が周りにる。それは彼がみんなに分け隔てなく接する人だから。実和もその中のひとりに過ぎなくて、だから優しくしてくれるのだと思っていた。

「平野くんは?わたしでいいの?」
「ぶっ。質問に質問で返された」

 亮は笑って続ける。

「俺は山下がいいの」

 そう言いながら実和の歩幅に合わせて歩いてくれる亮はやっぱり優しい。

 あっという間にマンションに着き、玄関の中に入った瞬間、ぐいっと亮に腰と頤を掴まれキスされる。亮は実和に合わせてかがんでくれている。が実和も背伸びした状態。

 唇をはままれ、口端や顎にもキスされ、そのキスは額から瞼に移動し、また唇に戻ってきた。今度は実和の唇を何度もペロッと舐めて唇を開けと言う。恐る恐るうっすら唇を開くと舐めていた舌が口内に入ってきた。

「ふ……っう…」

 上手く息が出来なくなってきた実和に気付かず、夢中でキスをする亮の胸になんとか手を伸ばし、胸を少し押すようにするが気が付いてくれない。あまりに苦しくなってきてドンッと胸を叩いた。びっくりした亮がやっと唇を離す。

「…っ、げほっげほっ」

 急にたくさんの息を吸い込んで実和がむせる。

「大丈夫か?悪い、苦しかったのか?」
「ん…大丈夫。ごめんなさい馴れてなくて」

 そう言うと、なぜか亮はさらに強く実和を抱きしめてきた。訳が分からずされるがままだが、ここは玄関。ヒールで背伸びをして立ってるのもそろそろつらい。

「とりあえず中に入って。コーヒーでも淹れるね」

 部屋の隅にバッグを置いて、一旦冷静になろうとキッチンに向かいお湯を沸かそうとしたとたん、後ろから抱きすくめられてビックリする。いつの間にか亮もキッチンに入ってきていた。

「コーヒーはいいから。今すぐ山下のこと抱きたい」
「っ!ちょ、ちょっと待って!せめてシャワー浴びたい……」
「そんなの気にしない」
「や、気にする!お願い、シャワーだけ。お願いします」

 そう言うと亮は我に帰ったように抱きしめていた腕を緩めて実和を自分のほうに向かせた。

「ごめん、がっつき過ぎた。俺全然余裕ないな。俺もシャワー浴びる。礼儀だよな。シャワー浴びて冷静になる」

 照れたようにうつむきながら、実和の両手を優しく握ってくる。それが逆に安心出来て、真っ直ぐ亮の顔を見て微笑みながら実和も亮の手を握り返す。

 先に亮をシャワーに行かせ、部屋を軽く片付けて間接照明とサイドテーブルのライトだけにする。風呂上がりの亮の肌をまともに見る勇気はない。
 シャワーから出て来た亮はボクサーパンツに頭にはタオルをかぶってる状態。部屋を薄暗くしたおかげでなんとか直視出来た。

「実はカフェで山下待つ前にコンビニで下着買ってたんだ」
「え?ってことは最初からそのつもりで…?」
「ははっ内緒。山下も入ってこいよ」

 促されるままシャワーを浴びるが、冷静になればなるほど緊張が増して、軽く目眩がしてきた。

「はじめてって言ったら引くよね……」

 シャワーを浴びながら思わず声に出てしまったけれど。実和は大学のとき男性と付き合ったことはあるが、いってもキスまで。その先の経験がない。
 さすがにいい歳なので、ここまできて拒んだりはしないけれど、亮がどう思うか心配だ。キスも下手で、しかもはじめて。きっと面倒だろう。

 逃げたくなる気持ちをぐっと抑えて部屋に戻ると、ソファに座って水を飲んでいた亮が右手を伸ばして、おいで、と手招きする。おずおずとその手を取るとベッドに連れていかれた。
 あっという間に組み敷かれ、上に覆いかぶさった亮の裸の上半身が近い。目のやり場に困っていると、くすっと笑われた。

「そんなに緊張しなくていいよ」
「や、私……ごめんなさい。実ははじめてだから……面倒ならやめていいから、ね?」

 思いきって言うと、亮は少しだけ目を見開いたものの、いつもより優しく微笑んで実和の頬をゆっくり撫でる。

「面倒なんてない。やめるなんてありえない。むしろすげー嬉しくて俺のほうが緊張してる」

 なにが嬉しいのかわからない、といった顔をしてたのか、亮が続ける。

「山下のはじめてが俺で嬉しいんだよ。心配しなくていい。優しくする」

 その言葉に少し安心して微笑んだつもりだったが、さすがに実和の緊張はピークでぎこちなかったんだろう。優しく頬にキスをされ、鼻や顎や額と顔中キスされた。

 そのまま首筋に移り、大きな手が実和のルームウェアの裾から入ってくる。いつもと同じ色違いのルームウェアだが、さすが…に下着はお気に入りの新品だ。だけど大きな手は素早くお気に入りのブラのホックを外し、胸に行き着く。緊張で上がりまくってる心拍が亮に伝わりそうで恥ずかしくて少し身動ぎする。

「……はっ……やっ……まって……」
「ん?待たないよ?」
「まって……しんぞう、こわれ、そう……っ」
「壊れないよ。それに俺も、ほら」

 亮は実和の右手指先にキスすると、自分の胸に実和の手を持っていく。触れた彼の肌は熱く、鼓動が早いのもわかる。

「な?」
「……うん」

 すると、いっきにトップスとブラを脱がされた。慌てて胸を隠す実和を見てふっと笑ったかと思ったらスエットパンツに手が掛けられ、またもいっきに下ろされ脱がされた。あっという間にショーツ1枚だ。

「よし、これでお揃いだなっ」

 実和のお腹に触れながら楽しそうに言う亮を少し睨むと、さらに楽しそうに実和が一生懸命胸を覆っていた手をあっさり外してシーツに縫い止めた。

「しょ、初心者なので!ゆっくり、お願いしたいのですが?!」
「んー、そのつもりだったけど、この姿見ちゃったら無理」

 両方の胸を優しく揉まれ、親指は胸の先をかすめるように撫でてくる。くすぐったいような気持ちいいような感じにじっと耐えていると、尖ってきた胸先にぬるっとした感触がする。
 びっくりして、思わず固く閉じていた目を開けて自分の胸を見ると、実和の顔を見ながら舌先で尖りを舐める亮と目が合ってしまった。
 もう、恥ずかしくて泣きそうだ。

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