野獣公爵の執愛

ゆき真白

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第二章

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 東部公爵城へと来てから二ヵ月ほど経ち、だんだんと春の気配が強くなってきていた。
 開け放った窓から入ってくる、澄んだ朝の空気を肺いっぱいに取り込んでいると、後ろから太い腕が伸び、シーラを抱き締めた。

「寒くないのか?」
「うんっ、大丈夫」

 振り返りながら見上げれば、ジルヴィウスはわずかに目を細め、シーラの唇に吸い付いた。

「午後になったら執務室に来い。メイドに会わせる」
「! ついにだね!」

 初めて東部公爵城へと来た日、シーラのためにメイドを雇ったと言われたあのときから、シーラはこの日をずっと楽しみにしていた。

(ジルがわたしにつけてくれた、いっちゃん、にーちゃんも可愛くて大好きなんだけど、魔法自動人形オートマギアはおしゃべりができないから、ちょっとした雑談をする相手が誰もいなくて寂しかったんだよね!)

 これからはジルとギー以外に話しかけたら言葉を返してくれる相手ができる、という喜びに胸を躍らせる。しかし、すぐにはっとして、シーラは不安げな表情を浮かべた。

「いっちゃんとにーちゃんはどうなるの?」
「一号と二号は変わらずお前につける。護衛でもあるからな」
「そっか……! よかった」

 これからも一号二号が傍にいてくれることにほっとし微笑むと、ジルヴィウスは若干不愉快そうに眉を寄せた。

「メイドもそうだが、あの人形が傍にいるがそんなに嬉しいのか?」
「そりゃあ、だって……ずっと一緒にいたし愛着が湧くでしょ? メイドのみんなはおしゃべりできるのが嬉しいし……」
「お前の目の前にいる人間も一応口がきけるんだがな」
「ジルったら、すぐそうやって可愛いこと言うんだから」

 どこか拗ねたように鼻を鳴らすジルヴィウスの頬を撫でたシーラは、キスして、というようにもう一方の手で自らの唇を軽く叩いた。するとすかさず彼の唇が重なり、厚い舌が口腔内に侵入する。

「っんぅ……はっ、」

 口付けながら、ジルヴィウスと向き合うように体勢を変え、彼の首に両腕を回す。それに応えるように、ジルヴィウスも強く腰を抱き寄せ、体は隙間なく密着した。
 大きな体で、まるで縋るように自分を抱き締めるジルヴィウスを、シーラは愛おしく思わずにはいられなかった。
 限られた人としか会えず、相変わらず城の外には一歩も出られないという現状は、とても不健全なものだろう。このままではいけないということは、シーラもよく理解している。けれど、まだもう少しだけ、もう少しジルヴィウスの心が癒されるまでは、このままでもいいだろう、と考えていた。

 日に日にジルヴィウスの態度が軟化しているのは肌で感じているし、そもそもシーラの自由を奪っていることを彼自身気にしているようだった。
 敷地内であれば、そのうち外に出る許可も下りるだろう。
 そんなことを考えながら口付けに応えていると、不意に彼の手が臀部を揉み、バスローブ越しに割れ目をなぞった。

「ぁっ……」

 たったそれだけでシーラの体は昨夜の熱を思い出し、小さく震えだす。

「最初は応えるだけで精一杯だったというのに、ずいぶんと慣れたものだな? お前からねだったくせに他のことを考えるとは」
「っん……ごめ、なさ……」

 先ほど身綺麗にしたばかりだというのに、指先が擦れるごとに再びそこは湿り気を帯びていく。散々抱かれる悦びを教えられた体は、簡単にその先の快楽を求めてしまうようになっていた。

(わたし、ふしだらなのかな……朝なのに……ジルが仕事をする前に、一回くらいはできるかなって考えちゃってる)

 間近で自分を見下ろすジルヴィウスの瞳に、期待に目を潤ませる自分が映っている。
 少し前まで、自分がこんな表情を浮かべられることも、彼の瞳にこんな自分が映ることも想像していなかった。
 それが嬉しくて、恥ずかしくて、体の熱はさらに上がっていく。シーラが乞うようにジルヴィウスの胸を撫でたところで、彼はゆっくり体を離した。

「……誘われてやりたいが、午前中はやることがある」

(ジルがその気にさせたのに!?)

 宥めるように頭を撫でられ、シーラはぽかんと呆けた顔でジルヴィウスを見つめた。
 一人で盛り上がってしまった気恥ずかしさや、ジルヴィウスのせいなのに、という思いがぐちゃぐちゃに混じり合っていく。徐々に羞恥が勝っていき、シーラは顔を真っ赤にすると、頬を膨らませそっぽを向いた。

「別に……わたしは何も言ってないもん」
「……熟れたプラムみたいだな」

(――えっ?)

 どこか愉快そうにそう呟いたジルヴィウスは、頬に軽く口付けると、シーラを抱き上げベッドまで連れて行く。
 ベッドに寝かせられ、ジルヴィウスが覆い被さるのを見つめながら、シーラはドキドキと高鳴る胸を押さえるように両手を組んだ。

(さっきのジル、昔のジルみたいだった……)

 今シーラを見下ろす彼の表情に笑みはないものの、その金の瞳にはいつも優しくシーラを見守ってくれていたかつての彼の面影が滲んで見えた。
 ジルヴィウスはその目を細めると、指の背でそっとシーラの目尻を撫でた。そのまま髪に指を通し、一房手に取ると、恭しく口付けを落とす。

「あとで嫌というほど抱いてやる。少しだけ待っていろ」

 長い睫毛に縁取られた彼の琥珀のような金の瞳が、真っ直ぐシーラを射貫く。
 かつては向けられたことがなかったその鋭い眼差しに、胸はまた甘く高鳴る。

(……わたしやっぱり、昔のジルも今のジルも好き。ジルのことを知るたびに好きになっちゃう)

 どうすればこの気持ちがすべてジルヴィウスに届くのだろうか、と思いつつ、自分の髪を持っている彼の手に触れた。

「……キスする時間もない?」

 乞うような呟きに、ジルヴィウスはわずかに目尻を下げると、ゆっくり顔を近付けた。
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