野獣公爵の執愛

ゆき真白

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第二章

六※

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(え……え?)

 目を逸らし、顔を背けるジルヴィウスの目元が、わずかに朱色に染まっているのだ。

(て、照れてる……? なんで……? どこで!?)

 シーラは体を起こすとジルヴィウスの上に馬乗りになり、彼の目尻を撫でた。

「……何が嬉しかったの?」

 ジルヴィウスは固く口を閉じ、横目で睨み付けるようにシーラを見る。けれど、シーラはそれを意に介さず、ジルヴィウスの額や頬に口付けを落とした。
 よしよしと宥めるように頭を撫でながら口付けを繰り返していると、ジルヴィウスは小さく口を開いた。

「……嫉妬したのか?」

 消え入りそうなほど小さな呟きに、シーラは不思議そうに小首を傾げる。

「? そりゃあするよ。ジルの綺麗な体、あんな風に人目に晒して……それだけでも嫌だなって思うのに、その中にジルのことをそういう目で見てる人がいるなんて……今思い出してもむかむかしてくるよ」
「……」

 再び固く口を閉じたジルヴィウスの眉間には深い皺が寄っている。けれど、彼の目にはわずかな喜色が浮かんでおり、シーラは小さく胸を高鳴らせた。

(嫉妬が嬉しいんだ……そういうの鬱陶しくて面倒くさいのかと……可愛い……)

 ときめきが止めどなく溢れ出し、シーラは堪らずジルヴィウスの顔を掴んだ。強制的に自分のほうを向かせ、得意げな笑みを浮かべると、むにっと唇を押し付ける。色気も何もない児戯のような口付けだったが、シーラを見つめる金の瞳は煌々と輝いていた。
 それがどうしようもなく愛おしくて、自然と顔が綻ぶ。

「ジル。大好きよ」
「……ああ」

 ジルヴィウスは噛み締めるようにそう小さく返すと、手を伸ばしてシーラの頬を撫でた。指先で確かめるように触れ、耳を揉み、首筋へと手を滑らせる。
 少々くすぐったさも感じるその手つきに、シーラは小さく体を震わせながら、首を傾げた。

「もう挿れる?」
「もう少し待て」
「……すぐって言ったのに」

 わずかに唇を尖らせながらも、どうするつもりなのだろう、と次の彼の行動を待っていると、ジルヴィウスの上に座った姿勢のまま体がふわりと浮いた。それに驚く間もなく、ジルヴィウスはシーラの腰を掴んで自らの顔の上に持ってくると、魔法を解除してシーラを顔の上に座らせた。

「ジっ――んんっ……!」

 彼の温かな舌が秘裂をなぞり、背中がのけ反る。

(ジルの顔の上……! だめなのにっ……恥ずかしいのに……っ)

 柔らかな舌が蜜口の縁をなぞる感覚が気持ちよく、足に力が入らない。

「ふ、あ……ぁ、ジル、だめっ……っふ」

 視線を下げれば、彼の金の瞳と視線がかち合う。その瞳には愉悦が滲んでおり、彼は舌を挿し入れると蜜壺から溢れるものを啜った。

「あぁあっ……ゃ、あっ、んんッ!」

 厚い彼の舌が濡れた襞をぐるりと舐め、その刺激によってさらに蜜が溢れる。じゅるじゅると音を立てて吸われると、聴覚からも犯されているような気分になった。ごくりと喉が鳴る音も聞こえ、シーラは肌を桃色に染める。

「やっ……飲んじゃ、だめぇっ……ッあ、ンっ」
「俺がお前のもののように、お前も俺のものだ。それなら俺がどうしようとお前に止める権利はないだろう?」
「――っああぁあ……!」

 これまでほとんど触れられず、ただぱんぱんに張り詰めていた快楽の粒を思い切り吸い上げられ、シーラは悲鳴なような嬌声を上げた。ひくひくと蜜口はわななき、足先が丸まる。
 直接的な刺激によって一瞬で快楽の果てへと叩きあげられたせいで、神経が灼き切れてしまったかのように全身が熱を持った。
 彼の息が秘芽に当たるだけで指先がかすかに震える。
 引いていたはずの熱が一瞬で戻り、腹の奥は燃えるように熱かった。

「ジ、ル……ジルが欲しいの……」

 自らの腹に、シーラはそっと触れる。それだけで腹の奥が疼いて、入り口は蜜を垂らした。

「……横になれ、シーラ」

 シーラは小さく頷くと、仰向けに横になる。すぐに影が落ち、唇が重ねられた。
 舌を絡ませながら、彼のものが濡れた秘裂をなぞる。蜜をまぶすように何度か腰を揺らすと、ジルヴィウスはゆっくりとシーラの中に陽根を収めていった。
 彼のものが隙間なく挿入はいり、自分の中を満たしていく感覚がシーラは好きだった。

「ん……ジル好き……大好き」
「……ああ」

 わずかに頷いたジルヴィウスに、シーラは笑みを返すと触れるだけの口付けを贈る。彼の広い背中に手を回し、与えられる快感を素直に享受しながら、シーラは何度も「好き」と繰り返した。
 シーラの「好き」に、ジルヴィウスが明確に言葉を返したことはない。
 けれど、それでもよかった。
 言葉などなくても、彼の自分に触れる手が、自分を呼ぶ声が、彼の心の奥底にある自分への愛を伝えてくれている。

「シーラっ……ッ、シーラ……!」

 切羽詰まったように自分を呼び、縋るように抱き締めてくる彼が、シーラは愛おしくて仕方なかった。
 触れる手は優しく、名を呼ぶ声は温かなのに、時折ぞっとするほど冷たい目で自分を見下ろす彼のことも、シーラは好きだった。最中の、シーラをめちゃくちゃにしたくて堪らないという、獰猛で凶悪な眼差しも大好きだ。

「ジルっ……好き、っだいすき……!」
「っ……!」

 息を詰め、ジルヴィウスは切っ先を腹の奥に擦り付けた。
 熱い迸りが胎を満たしていくのを感じながら、日ごとに増していく彼への愛を伝えるように、シーラはきつくジルヴィウスを抱き締めた。

 ◇◇◇

 天高くあった太陽が沈み、茜色に染まった空が濃い青を湛え始めている。
 それを一瞥したジルヴィウスは、指先を振ってカーテンを閉め、部屋の間接照明を点けた。
 目尻を赤くしながら、隣で健やかな寝息を立てるシーラを見下ろし、そっとその目尻に口付ける。

(あの女を今すぐ追い出してもいいが……何がシーラの役に立つかはわからないからな)

 金の髪の、名前すら思い出せない女の姿を思い浮かべながら、ジルヴィウスはシーラの髪に指を通す。
 明るいシーラによく似合う、鮮やかな黄色の髪。世の中には黄色の髪は金の髪の劣化版だと嘲る者もいるが、ジルヴィウスにとってはシーラの向日葵色の髪が何もよりも美しい色だった。

(……お前を求めて、金の髪の女も、黄色の髪の女も、緑の瞳の女も抱いた。だがどれも、お前とは似ても似つかない……比べることすら烏滸がましい贋作以下の塵芥だった。……当然だ。お前は代わりのいない唯一無二の存在なんだからな)

 魔力消化体質者イジェストだからではない。貴族だからではない。
 “シーラ・ユニス・ノルティーン”であることが何よりも重要なのだ。
 結婚し、彼女の名前が“シーラ・ユニス・バウスコール”になったと思い出すたびに、ジルヴィウスの心は深い歓びに包まれた。

(あの金髪も、自分が無価値であることを自覚してさっさと身の振り方を変えればいいが)

 金髪の女――イレーヌに、執務室での睦み合いをことを思い出し、ジルヴィウスは短く息を吐き出す。
 執務室で、シーラに「誰かいるのか」訊かれたとき、扉の外には部屋を覗いているイレーヌがいた。あの手の人間が取る行動は、往々にして決まっている。
 戻って来なければそれでもよかったが、イレーヌはジルヴィウスが思っていた通り執務室に戻り、わずかな隙間から中を覗いていた。
 少しでも接点を作ろうと思ったのだろうが、それが仇になったな、とジルヴィウスは鼻を鳴らす。
 これであのメイドが自らの立場を弁えればいいし、そうでなければ何か理由をつけて消してしまおう、と密かに決意する。

「んん……」

 腕の中でわずかに身じろいだシーラが、ジルヴィウスにすり寄り、再び寝息を立て始める。

(……本当はあのとき人がいたと知ったら、お前は怒るか? だが、勝手に見られてしまったものは仕方ないだろう?)

 自分に全幅の信頼を寄せ、安心しきった様子で眠るシーラを見つめながら、ジルヴィウスは壊れものにでも触れるかのようにシーラの頭を優しく撫でた。
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