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第二章
十八
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ベルの音に導かれ、どんどん人が集まり始める。集まってきたのは子どもたちばかりで、彼らより遥かに大きなジルヴィウスを物珍しそうに窺っていた。
(やっぱり、一番後ろの席にしておいてよかった)
目が合った子どもに手を振りながら開演を待っていると、鳴っていた音楽が別のものに変わり、再びベルの音が響いた。
「さあさあ、皆さん、ようこそいらっしゃいました! 花祭り二日目、楽しんでいらっしゃるでしょうか!」
朗々と響く店主の声に、子どもたちが元気に「はぁい!」と答える。
その懐かしい雰囲気に、シーラは小さく笑みを漏らした。
(わたしも子どものころはああしてお返事してたな)
店主の話を聞きながら懐古していると、店主が「それでは!」とひと際大きな声を上げた。
「これからお送りするのは、今人気のあの話! この花祭りに相応しい、美しい花のお姫様にまつわる物語です!」
店主の声に、ジルヴィウスがぴくりと反応を示す。周りの歓声もすごく、シーラは小声でジルヴィウスに話しかけた。
「有名なお話しなの?」
「……まぁ、今話題の話ではあるな」
そうなんだ、とシーラは姿勢を正すと、木製の大きな紙芝居舞台へと目を向ける。
店主は先ほどまでとはまるで違う、とても落ち着いた口調で静かに物語を語り始めた。
物語の舞台は世界中のあらゆる花が咲き乱れる花の国で、主人公はその国に産まれた向日葵のお姫様だそうだ。
紙芝居の絵には、頭に向日葵を咲かせた少女の絵が描かれている。
(向日葵……ちょっと親近感)
自分の向日葵色の髪に触れながら、シーラは話に聞き入る。
向日葵のお姫様は、季節外れの冬に産まれたせいで孤独に生きる少女だった。
花のお姫様たちは産まれた季節以外は眠って過ごすため、夏に目覚める他の向日葵のお姫様と知り合うこともできなかった。向日葵のお姫様は、冬が来て目が覚めるたび、ただ早く春が来ることだけを願い眠りにつく、という日々を過ごしていた。
(……アカデミーに行けなかったからわたしも同年代の友だちはいなかったけど……それでも家族がいたから寂しくはなかった)
他の冬の花のお姫様たちに馴染めず、たった独り花園の隅で春が来るのを待つだけの人生。それはなんと寂しいものだろう、と思わず涙ぐむ。
(う……紙芝居で泣くって子どもみたいかも……)
顔に力を入れ、シーラは泣くのを耐える。
孤独に過ごしていた向日葵のお姫様は、ある日ついに耐えられなくなり、こっそりと花園を抜け出した。向かったのは、花園の近くにある森だ。
その日から、向日葵のお姫様は己の孤独を癒すように、毎日森を訪れたようだ。
(花園のほうが華やかで綺麗だったけど……他のお姫様たちの仲のいい姿を見なくていいし、森のほうが落ち着けるのかも)
静謐な森の中で独り輝く向日葵のお姫様の絵を見つめながら、シーラは知らず知らずのうちに繋ぐ手に力を込めていた。
同じように手を握り返してくれるジルヴィウスに、こして手を握り返してくれる人がいるというのは、どれほど幸せなことだろう、と改めて自らの幸福度合いを実感する。
「――森へ通い始めたある日のことです」
店主の語りのトーンが変わり、シーラは紙芝居屋へ意識を戻す。
向日葵のお姫様は、大きな音に導かれ、森の奥へと進んで行った。
そこには、棘の生える蔓に捕らえられた大きな鳥がいたのだ。
「大きな鳥は手負いの鷲でした」
(……ん?)
“鷲”という単語に、シーラは紙芝居の絵をじっと見つめる。
向日葵のお姫様に向け大きくくちばしを開き威嚇をしている鳥は、黒い大きな翼に金の瞳を持つ鳥――店主の語り通り、確かに鷲の姿で描かれていた。
(……偶然? でも、だって、ここは東部公爵領で……鷲が東部公爵家の使い魔で、紋章にも使われてるのはみんな知ってるはずで……黒髪も東部公爵家の特徴で……)
混乱している間にも、物語は進んで行く。
向日葵のお姫様に助けられた黒い鷲は、徐々に心を開いていくようになった。
一人と一羽は絆を深めて行き、毎年冬に会う約束をするように。
一緒に冬を過ごすようになってから、一年、二年、と月日が経ち、あるとき、冬の国の王が花の国を訪れた。
「花の国にやって来た冬の国の王は言いました。『この国には世にも珍しい冬に咲く向日葵の姫がいると聞く。知っての通り、冬の国は厳寒の国。花が開くことも芽吹くこともない寒さの厳しい土地だ。だが、わざわざ冬に咲く向日葵なら、我が国でも耐えられるのではと思ってな。是非、冬の向日葵の姫をもらい受けたい』、冬の国の王の言葉に、向日葵のお姫様は絶望しました――」
(これっ――!)
紙芝居に描かれている冬の国の王が真っ白な髪をしているのを見て、シーラは勢いよく隣を見る。
(これっ、わたしとジルとエルネスト様じゃない……!)
「――っ、……!? ……っ!」
ジルヴィウスにどういうことかと問おうとしたシーラだったが、声を出すことができず、慌てたようにジルヴィウスの腕を叩く。
ジルヴィウスは横目でシーラを一瞥すると、シーラの耳元に口を寄せ、小さく囁いた。
「声を出したら他の客に迷惑だろう。終わったら喋れるようにしてやるから、そのまま大人しく観てろ」
(声が出ないのってジルの魔法のせい!?)
驚きに目を瞬かせるシーラに、ジルヴィウスは強制的に前を向かせる。
紙芝居の絵には、向日葵のお姫様を連れて行こうとする冬の国の王に襲い掛かる鷲が描かれていた。しかし冬の国の王は強大で、鷲は反撃に遭い谷底へと落ちてしまう。
(――っ)
思わず、シーラは腰を浮かしそうになる。
最初から感情移入はしていたが、あの黒い鷲がジルヴィウスだと認識してしまったせいか、物語であることを忘れてしまったかのようにひどく胸が痛んだ。
「大丈夫だから落ち着け」
隣から聞こえた静かな声に、シーラは浅い呼吸を繰り返す。
徐々に、徐々に呼吸を落ち着かせていきながら、シーラは物語を見守った。
(やっぱり、一番後ろの席にしておいてよかった)
目が合った子どもに手を振りながら開演を待っていると、鳴っていた音楽が別のものに変わり、再びベルの音が響いた。
「さあさあ、皆さん、ようこそいらっしゃいました! 花祭り二日目、楽しんでいらっしゃるでしょうか!」
朗々と響く店主の声に、子どもたちが元気に「はぁい!」と答える。
その懐かしい雰囲気に、シーラは小さく笑みを漏らした。
(わたしも子どものころはああしてお返事してたな)
店主の話を聞きながら懐古していると、店主が「それでは!」とひと際大きな声を上げた。
「これからお送りするのは、今人気のあの話! この花祭りに相応しい、美しい花のお姫様にまつわる物語です!」
店主の声に、ジルヴィウスがぴくりと反応を示す。周りの歓声もすごく、シーラは小声でジルヴィウスに話しかけた。
「有名なお話しなの?」
「……まぁ、今話題の話ではあるな」
そうなんだ、とシーラは姿勢を正すと、木製の大きな紙芝居舞台へと目を向ける。
店主は先ほどまでとはまるで違う、とても落ち着いた口調で静かに物語を語り始めた。
物語の舞台は世界中のあらゆる花が咲き乱れる花の国で、主人公はその国に産まれた向日葵のお姫様だそうだ。
紙芝居の絵には、頭に向日葵を咲かせた少女の絵が描かれている。
(向日葵……ちょっと親近感)
自分の向日葵色の髪に触れながら、シーラは話に聞き入る。
向日葵のお姫様は、季節外れの冬に産まれたせいで孤独に生きる少女だった。
花のお姫様たちは産まれた季節以外は眠って過ごすため、夏に目覚める他の向日葵のお姫様と知り合うこともできなかった。向日葵のお姫様は、冬が来て目が覚めるたび、ただ早く春が来ることだけを願い眠りにつく、という日々を過ごしていた。
(……アカデミーに行けなかったからわたしも同年代の友だちはいなかったけど……それでも家族がいたから寂しくはなかった)
他の冬の花のお姫様たちに馴染めず、たった独り花園の隅で春が来るのを待つだけの人生。それはなんと寂しいものだろう、と思わず涙ぐむ。
(う……紙芝居で泣くって子どもみたいかも……)
顔に力を入れ、シーラは泣くのを耐える。
孤独に過ごしていた向日葵のお姫様は、ある日ついに耐えられなくなり、こっそりと花園を抜け出した。向かったのは、花園の近くにある森だ。
その日から、向日葵のお姫様は己の孤独を癒すように、毎日森を訪れたようだ。
(花園のほうが華やかで綺麗だったけど……他のお姫様たちの仲のいい姿を見なくていいし、森のほうが落ち着けるのかも)
静謐な森の中で独り輝く向日葵のお姫様の絵を見つめながら、シーラは知らず知らずのうちに繋ぐ手に力を込めていた。
同じように手を握り返してくれるジルヴィウスに、こして手を握り返してくれる人がいるというのは、どれほど幸せなことだろう、と改めて自らの幸福度合いを実感する。
「――森へ通い始めたある日のことです」
店主の語りのトーンが変わり、シーラは紙芝居屋へ意識を戻す。
向日葵のお姫様は、大きな音に導かれ、森の奥へと進んで行った。
そこには、棘の生える蔓に捕らえられた大きな鳥がいたのだ。
「大きな鳥は手負いの鷲でした」
(……ん?)
“鷲”という単語に、シーラは紙芝居の絵をじっと見つめる。
向日葵のお姫様に向け大きくくちばしを開き威嚇をしている鳥は、黒い大きな翼に金の瞳を持つ鳥――店主の語り通り、確かに鷲の姿で描かれていた。
(……偶然? でも、だって、ここは東部公爵領で……鷲が東部公爵家の使い魔で、紋章にも使われてるのはみんな知ってるはずで……黒髪も東部公爵家の特徴で……)
混乱している間にも、物語は進んで行く。
向日葵のお姫様に助けられた黒い鷲は、徐々に心を開いていくようになった。
一人と一羽は絆を深めて行き、毎年冬に会う約束をするように。
一緒に冬を過ごすようになってから、一年、二年、と月日が経ち、あるとき、冬の国の王が花の国を訪れた。
「花の国にやって来た冬の国の王は言いました。『この国には世にも珍しい冬に咲く向日葵の姫がいると聞く。知っての通り、冬の国は厳寒の国。花が開くことも芽吹くこともない寒さの厳しい土地だ。だが、わざわざ冬に咲く向日葵なら、我が国でも耐えられるのではと思ってな。是非、冬の向日葵の姫をもらい受けたい』、冬の国の王の言葉に、向日葵のお姫様は絶望しました――」
(これっ――!)
紙芝居に描かれている冬の国の王が真っ白な髪をしているのを見て、シーラは勢いよく隣を見る。
(これっ、わたしとジルとエルネスト様じゃない……!)
「――っ、……!? ……っ!」
ジルヴィウスにどういうことかと問おうとしたシーラだったが、声を出すことができず、慌てたようにジルヴィウスの腕を叩く。
ジルヴィウスは横目でシーラを一瞥すると、シーラの耳元に口を寄せ、小さく囁いた。
「声を出したら他の客に迷惑だろう。終わったら喋れるようにしてやるから、そのまま大人しく観てろ」
(声が出ないのってジルの魔法のせい!?)
驚きに目を瞬かせるシーラに、ジルヴィウスは強制的に前を向かせる。
紙芝居の絵には、向日葵のお姫様を連れて行こうとする冬の国の王に襲い掛かる鷲が描かれていた。しかし冬の国の王は強大で、鷲は反撃に遭い谷底へと落ちてしまう。
(――っ)
思わず、シーラは腰を浮かしそうになる。
最初から感情移入はしていたが、あの黒い鷲がジルヴィウスだと認識してしまったせいか、物語であることを忘れてしまったかのようにひどく胸が痛んだ。
「大丈夫だから落ち着け」
隣から聞こえた静かな声に、シーラは浅い呼吸を繰り返す。
徐々に、徐々に呼吸を落ち着かせていきながら、シーラは物語を見守った。
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